16/22
終いたがった話。(3)
ーーこんな幸福をもっと早く知れたなら。
そんな言葉が、外に目を向ける度に浮かぶものだから困り果ててしまった。
今までの生が一気に汚れて惨めで悲惨に思えてしまうから悔しかった。
普通が普通でないと痛感してしまうから早々に終わらせたくなった。
早く空を、海を目指したかった。陸から離れて笑い叫びたかった。
いや、もう川でも何でもいい。次に前を通った車に飛び込んでもいい。
そんな願いを胸に歩き続けた先、静かに現れた小さな店に腹が鳴ったのはきっと神とやらの悪戯だろう。
足早に離れようとした背に声をかけられたのも、きっと悪戯か嫌がらせだ。
そうに違いない、あぁ、きっとそうに決まってる。
私に最期の罪を作り、地獄へ導くための準備に決まっている。
氷水あすな『黄金色の硬貨』より一部抜粋




