苦い話。(2)
本日は雲ひとつない快晴で、祖母が白米をよそいながら洗濯物がよく乾くねぇと喜びだす天気だった。孫に茶碗を手渡すと、恋話をする女子高生のような嬉々とした表情で
「これなら布団を干すのもいいかもねぇ」
「そう、ならバイト行く前に干すよ。今日一日いい天気みたいだし。おじいちゃん起きてる? 起きてるならみんな分干しちゃう」
「そんな、悪いよ」
「大丈夫だよ」受け取った茶碗を自身の席に置き「僕も干そうと思ってた」
箸を三膳用意し、事前に着席していた食事の前に置く。
「でもバイトに遅刻しちゃわない?」
「しないよ。早起きしたし」
冷蔵庫を開けピッチャー容器を取り出せば、作り置きの緑茶が小さく波打つ。空いている片手と塞がっている肘を使い器用に食器棚から自身のコップを取り出すと、そのままの体勢で注ぎ始めた。
「行儀が悪いよ」と小さくも迫力のある声で指摘を受ける。片足で椅子を引き、出来上がったテーブルとの空間に身を滑り込ませるとそのままの勢いで着席しつつ「ごめんなさい」と口だけの謝罪をひとつ。祖母のため息が聞こえたが、コップを置く音で聞こえないふり。
「全く……でも、ありがとうね。ゆき」
「ん」
自身の名と感謝の言葉を受け流しつつ、何処からか湧いたむず痒さを緑茶と共に体の奥へ流し込む。
「今日は何時に帰りそう?」
「何時だろ」小首を傾げ、シフト表を思い出しつつ「五時か六時上がりのはずだけど、なんだかんだ遅くなりそう。あ、でも布団があるから早めに帰ってきたい」
「そっか。布団はいいよ、じいさんにやらせるから。でも定時上がりできないのは嫌だねえ」
「えぇ、それ大丈夫? あとね、嫌じゃないよ」
箸を両手に持ちながら手を合わせ、食事が用意されていない真正面の椅子を瞼で視界から遠ざけながら
「僕が好きで居座っちゃってるだけ」
いただきます、と自身が生きるための命を頂戴する言葉を降らせた。




