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苦い話。(1)
家出をして初めて買ったのは、昔から気になっていたシュークリームという嗜好品だった。
人生で一度は食べてみたいと思っていた、薄茶色の雲だった。
生まれて初めて手にしたシュークリームは硬貨を払えばいとも容易く手に入り、コンビニを出る時には所持品の一部と化していた。
人目のつかないところで嚙みつけば、なんの抵抗もしないまま薄皮から溢れたカスタードとやらをめいっぱい口内へ押し出した。
最早歯さえ要らないそれを舌と上顎で押し潰し、喉を通して胃に注ぎ込む。
口の端から甘味が溢れる。何故か涙まで溢れ出る。
こんな美味しいものを初めて食べた感動だろうか。
それとも母の目を気にせず行動できる感謝だろうか。
正しい理由は見つけられなかった。それでもひとつだけわかることがあった。
貪るように食して最後の一欠片を押し込んだ瞬間、言葉にならない叫びが身体の中を駆け巡る。
こんな幸福を、もっと早く知れたなら。
氷水あすな『黄金色の硬貨』より一部抜粋




