第四話 異世界。
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「あ、アマゴリア卿!いったい何を!?なにをしたんだ!?」
すると、私の背後からは赤い短髪イケメンさんが急いで駆け寄って声を掛けてきた。
私は未だに跪いた状態のままだったので、急いで立ち上がるとすぐさま声のする方へと振り返る。
そしたら、この部屋の全ての人の注目の的でしたよ。びっくり。
それもイケメンな人ばっかりです。
あちゃー。私今、イケメン達にガン見されちゃってますよ。あちゃー。
嬉しいなー。あー、私、今見られてる。ゾクゾクするー。
ででも、恥ずかしくて、あんまり顔があげられないなー。
くそー。ここで人生経験の差が出たかー。照れる―。
あっ、それよりも今はイケメンさんに早く答えなきゃダメだろ私。
「あひぃ、あっ、い、いや、あの。わ、私も、な、なにがなにやらで――」
「そ、そうか。そうだよな。こんなことは今まで無かったわけだし」
すみません。声、裏返っちゃいました。
それも超キョドっちゃったよ。やっちまったか私。
イケメンさんもちょい引き気味だよー。うへへへ。
「アマゴリア卿。それから指導聖祈士のフライガル卿。二人とも、後ほど私の部屋へと来なさい」
と、そんな感じで私が心の中でうっへっへしてたら、急にイケメンさんの後ろから声がかかった。
なんか強面俳優さんみたいな人だった。任侠映画とかに出てそう。
私、すぐ怒鳴りそうなこういう感じの人って苦手だ。
命令口調だけど、この人は偉い人なのだろうか?
って、そんなことよりもイケメンさんの名前が分かった事の方が今は重要だぞ。
フライガル卿って言うお名前みたい。ふふふ、心の中でガッツポーズ。
暗記は苦手だけど、なんでかイケメンの名前だけはすぐに覚えられる。不思議。やったね私!
「分かりました。エファーラス聖祈士長」
「わ、わかりました」
私は、フライガル卿の真似をして、右手を胸に当て、軽く頭をさげる。
すると、怖い顔の……えっ、あの人、聖祈士長?やっぱりなんか偉い人だったみたい。
上司が怖い顔してるとそれだけで職場の空気が重いって昔お父さんがお酒飲んでた時にぼやいてたけど、なんかわかる気がした。職場の笑顔って大事だね。
もしあの人が某バーガーチェーンで接客してても、スマイル頼んだら普通にお金取られそう。一回三千円くらいで。
でも実はあんな強面さんが、部屋に行ったらぬいぐるみ一杯のファンシーなお部屋だったりしないかな。それだったらギャップ萌しそう。
あっ、ダメ。あの顔でくまのぬいぐるみとかをぎゅーってしてるとこ想像してたら笑う。
「ぷっ、くすくす」
「ど、どうした?アマゴリア卿、腹でも痛むか?」
「あっ、いえ、あの、えっと、な、なんか少し気だるい感じがしたよーな?しないよーな?あはは、きっと気のせいです」
「そ、そうか?無理はしなくていいからな。ゆっくりでいい。少し休んでから一緒にエファーラス卿の所に赴くとしようか」
「は、はい。お気遣いいただきありがとうございます。フライガル卿」
「なに。これでも君の指導聖祈士だからね。良いって事さ(ニコッ)」
ヤバーい。フライガル卿が笑った。星が舞った。思わず擬音すら可視化出来てしまう程の輝きだったよ。
それに、なによりも優しい。
ああぁぁぁぁー!なんで私は今、男の子になってしまってるんだー!今すぐ衝動的にこの人に告白したい気分だああーーー!!
――えっ?男の子のまま告白すればいいじゃないかって?男同士でも良いじゃないかって?すまん。私にはまだそっちの道は早すぎる。
それに、出来るだけ気にしないようにはしてるけど、ほんとは色々と混乱中なんだよ。
ここはどこで、なんで私はこんなとこにいるんだろうってさ。
みんなは大丈夫かな。お父さんとお母さんにもう会えないのかなって。
そもそも、なんで男の子になっちゃってるんだろうね。凄く不思議だよ。これって夢?それとも妄想?
さっき光ったのも魔法みたいだったし、ここって本気で異世界とかだったり?
「…………」
やめとこやめとこ。考えて分かる事じゃないよね。
優しいフライガル卿に相談してみようかな。ちゃんと話を聞いてくれる気がする。
でも、どこまで話していいのかな。
私、ほんとは女の子なんですって事とか、日本で死んだらこっちの世界に来てしまったんですって事とか、普通は聞いても信じられないよね……。
「(変な子扱いされるのは嫌だからなぁ……)」
とそんな事を考えていた私は、フライガル卿に連れられて少し落ち着けるスペースにまで来た。
さっきまでいた石像の大きな部屋から出て、階段を上って、外の風に当たれるところに。
部屋を出る時、なんかでっぷりとした体の大きな人とかがなんか私の事を睨んでたようけど、その時の私は全然気づいて無かった。
それよりもその後の事の方がずっと感動的だったから。
「すごい綺麗……」
私たちが今までいた場所はお城の一室だったのだろう。
その城の高所から見渡すこの景色は、まさにファンタジーって感じで、さっきまでの少し暗くなりかけていた気分が、一気に晴れ渡った。
数キロ先までずっと続く、古い石造り街並みが凄く素敵。
あんまり高い建物はない。けど、ちっちゃな家ばっかりってのもなんか可愛いね。
車じゃなくて、馬車が走ってるよ。うまっ!街中に馬がいるのッ!
人間は多いけど、明らかに人間じゃない感じの人もいっぱいだよ。ケモ耳の人がいるよ。モコモコしてる。触ったら気持ち良さそう。あの人たちはきっと獣人さん達なんだろうね。
竜に乗った人が巨大な槍みたいなのを持って旋回してるし、街中には武器を持った人が沢山。治安は悪いのかな?
あ、魔女っぽいコスプレをした人が、空を飛んで何かを運んでる!リアル魔女宅だっ!!
そんな見渡す限りの全部が全部、私に異世界を伝えてくる。
「そう言えば、君と私がこうして一緒にここから街を眺めるのは初めてだったっけ?」
そんな感じで私がこの光景に興奮していたのを、隣でフライガル卿が微笑ましそうに見ていた。
「あっ、す、すみません。はしゃぎすぎました」
うわ、恥ずかしい。
顔が熱いぞ。
肌がムズムズするー。
「いやいや、良いんだ。戦場の帰りだ。君の気分転換になったのなら私も嬉しい。あれだけの事を成し遂げたのだから、君は誇っていい。誇るべきだ。君の事を悪く言う者もいるだろうが、私は君の味方だ」
「え?戦場?……私、何かしたんですか?」
当然の事だけど私には、全く覚えがない。
私は口を半開きにしたまま、少し見上げる感じでフライガル卿の顔を見つめ返す。
すると、フライガル卿は目を見開いて私の両肩をギュッと掴んだ。
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