第二話 プロローグ:後半
この物語のタイトルはまだ(仮)のままです。まだちょっと悩んでるので、変更する場合があります。
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その少女は遠くを見つめていた。
空の先に向けて、微笑みを浮かべていた。
まるで、自分にこれから起きる事など大したことではないかのように。
まるで、自分は幸せだとでも言うかのように。
そんな少女の表情を見ていた民衆は息をのんだ。
幼いから自分がこれから死ぬことを分かっていないのだろうか?
――いや違う。
気がふれておかしくなってしまっているのだろうか?
――近い気がするけど、そうでもない。
その表情はまるで喜んでいる様にしか見えない……。
彼女こそが、本当の魔女であると言わんばかりに、堂々としていて歪で不気味で、そしてどこまでも美しい笑顔。
それこそ、歳を重ねれば間違いなく万人を魅了したであろう妖艶さも垣間見えた。
「ふふふふッアハハハハッ!」
そして、少女はいきなり笑った。
誰よりも大きく、誰よりも美しく、誰よりも苛烈な声で。
少年聖祈士も周りの民衆達も、その声でまるで心臓が握りつぶされるかのような感覚を覚えた。
「だっ、だまれっ!だまれっ!!こ、このっ!!このっ!!!だまれっ!!!」
「ふはっ、ごふっ、ふふふっ、ぶふっ、ふふふふふふふふ」
少女の笑いを止めようと、傍にいた少年聖祈士は何度も何度も拳を少女へと振り下ろした。
だが、少女の急な変化に怯えた為か、少年の拳にはあまり力がこもっておらず、痛みはあまりない。
少女の笑みは止まらない。
――少し、"気持ちいいかもしれない"……。
少女は、今感じるこの痛みが何よりもの快楽に思えてしょうがなくなり始めていた。
何を怯える必要があるのか。
何を悲しむ必要があるのか。
何に心捕らわれる必要があるのか。
「ふはははははははッ!!!」
わたしは、今この時に喜びを感じていると。
心の臓はこの時の為に悦楽で震えていると。
私の心はこの空の様に、こんなにも自由であると――。
そう思っただけで、少女は可笑しくてしょうがなくなった。
「ぐッ!このっ!」
いくら殴っても止まらないそんな少女の笑い声に、民衆も騒めきだし、周りの先輩聖祈士から少年聖祈士へと厳しい叱責も飛んだ。
手に負えないと感じて慌てた少年聖祈士は、構わずさっさと始末をつけてしまおうと考え、先ほどの口上の続きを早口で述べる。
「――よ、よって!この魔女に、神の裁きを与えるっ!!!」
ギリギリリ、ギギ、ギギギギギギギ……。
処刑台の禍々しさとは裏腹に、純白の光を放つギロチンの刃が不気味な音を立てていき。
そして――
――ザンッ!!
っと、けたたましい音と共に、他の四人と同様にして、少女の頭も赤い飛沫を纏わせて地面を転がり落ちた。
「はぁぁ、手を煩わせてくれたが、これで…………ひッ!?」
なんとか仕事をやり遂げ息を吐く少年聖祈士であったが、転がり落ちた先でこちらを見ている少女の首に気づいた瞬間に息をのむことになる。
何故なら、少女の首は地面に落ちて尚、他とは比べるべくもないほど喜びに満ち、幸せの絶頂の如き笑顔を浮かべたまま、小さな笑い声を響かせていたからだ。
「ふふふふふふ」
笑っていた少女の首は、少年聖祈士が自分を見ていることに気づくと、笑うのを止め、一言だけお礼を告げた。
『ありがとう。あなたの事は、忘れない。きっといつか――』
☆☆☆
「はいはいはいはいっ!もういいっ!!重いよ!!話が重過ぎるっ!!」
「聞いてた私たちが損したわっ!最後なんなの!?ただのホラーじゃん!」
「バカドМっ!変態ドМっ!!」
「ちょっと待って。私たち恋バナしてたよね!?今の話のどこに恋愛の要素があった?」
「えへへへっ……そんなにダメだった?」
「「「「はぁ~……」」」」
とある教室の中で、五人の少女達が各自の恋愛観とちょっとした性癖を交えつつの姦しいお話をしていたのだが、最後の一人だけがちょっとおかしな展開で終わってしまったのだ。
四人目までは互いに今どきの映画やドラマや小説などで各自が好きなシチュエーションで盛り上がっていたのに、最後の"りんご"だけは他の四人の共感を得る事が出来なかったらしい。
「あんたの業は深い。ドМと言うよりむしろヤンデレでしょこれ」
「痛気持ちいのが好きっては知ってたけど、ここまでとは……りんご、恐ろしい子……」
「その、妄想を垂れ流して緩み切った顔はどうにかできんのか!このお馬鹿ッ!」
「引くわーりんごの将来に超引くわー」
「いやいやいや、待ってよみんな!今回のテーマって何だっけ?」
「『イケメンな彼氏が、忘れられない思い出をくれるとしたら』だよ?」
「それならほらっ!私だってちゃんと合ってるじゃん!さっきの話も私の脳内だとイケメン尽くしだったよ?」
「いや、あんたの場合、ベクトルがおかしい。それに彼氏役もショタでしょ?闇が深いってぇ」
「てっきり、その聖祈士の男の子が助けてくれて、そこから盛り上がって来るかと思ったのに……」
「盛り上がる前に殴られて笑って喜んで首とんで死んで感謝って。なんだこれっ!なんなんだこれ!?」
「少年だった意味ってある?」
「いやぁー限度を超えて殴られたりするのは痛すぎて嫌だから、マッチョな男性はダメじゃん?論外じゃん?ショタっ子なら程よい気持ち良さで叩いてくれそうじゃない?」
「「「「知らんがな……」」」」
溜息交じりに馬鹿笑い。
いつもの日常。
夕暮れも近づき、そんな姦しい集いも解散となってりんご達は家路へと向かう――。
☆☆☆
百七十cmを超えていて、みんなより少し背の高い私は、いつも五人の真ん中と言う立ち位置が多い。
別に、その事に特別な理由はない。
ただ、冬の時はみんなが私に抱き付いて暖を取り、夏は背が高めな私の影で少しでもみんなが涼を取るだけの事。
私は、冬にも夏の暑さにも負けない丈夫な体を持っているのだ。
この五人で集まるのはいつもの事。
同じクラスになって自然と気づいたらこのグループになっていたと言う普通に仲の良い集まり。
その上、みんな結構明け透けに言い合い出来て凄く楽しいメンバー。
因みに私の見た目は、肩ほどで切りそろえられたストレートの黒髪、スポーツとかはめんどくさいからやってないけど運動神経はそこそこ。スタイルもそこそこ?学力も、そ、そこそこ?……反論は聞かぬぞ。
そんな なにも変わらない普通の日々。
そしてこれからもずっと続くであろう普通の日々。
そんな何気ない毎日が、今日も続くと思っていた。
突然、交差点でトラックが真っすぐこっちに突っ込んで来るまでは……。
信号待ちで、横並びの中心に居た私は、咄嗟に左右いるみんなを力いっぱい突き飛ばした。
火事場のなんたら?みたいな力が出て、みんなを数メートルは吹き飛ばせたよ。
みんなはトラックの直撃コースから回避成功!やったね。
私って意外と力もある。
それに反射神経も中々に優れているみたい。
みんなは突然の事に驚いてて固まったまま全く動けて無かったから、あのまま突き飛ばさなきゃホント全員がそのままトラックとぶつかるとこだったよ。あぶないあぶない。
私だけで良かった。
ハハハ、さすがに自分も一緒に逃げれたりはしなかったよ。
そこまで出来れば、完全に私はヒーローだったのに、残念……。
――ドンッ!!!!
私はトラックにぶつかって、背後にあった建物まで飛ばされた。
そしてそのまま建物とトラックの間に挟まれるという追撃まで、痛すぎるよ。
分かってないなぁ、このトラック。
あっという間のことだったから、自分の体が、もうどうなってんのか分かんないけど、これは全然気持ち良くなかったよ。ただ痛いだけ。
痛ければなんでもドМ女が喜ぶなんて思わないでよね。
「りんごーーーー!!!」
「きゃあああああああああ!!」
「うそ……嫌、だこんなの」
「いやぁあああ!!!りんごーーッ!!!」
えへへ、耳が変。遠くで、みんなの叫び声が、聞こえ、わたしのことを、呼んでる、こえが、きこえ、る……。
……そうして、私、"廿五里りんご"は死んだ。
……あ、"廿五里"って『あまごり』じゃないからね。『ついへいじ』って読むんだからだから、間違えないでね。
えへへ、時々みんな素で忘れて間違えるんだよ……。
私、その度にみんなに注意してたっけ……。
みんな、私の事時々でいいから、思い出してくれるかな――。
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またのお越しをお待ちしております。