夢からの目覚め
その日は珍しく豪華な晩餐だったのを覚えている。
色とりどりのフルーツ、牛肉のステーキにクリームシチュー。僕の大好きなアップルパイまでもあった。
リビングの丸テーブルで対面に腰掛け、父さんと小一時間いろんな話をした。
今日も楽しい夜だな、と感じていたとき。父さんは急に真剣な顔をして僕の目を見てこう言った。
「タクト、お父さんは明日から魔族占領地区に遠征することに決まった」
重々しく、いつもとは違う雰囲気を感じ、少し涙ぐんでしまった僕。
彼はそんな僕の頭を大きな右手でなでながら
「少しの間会えなくなるが、友達のリーナちゃんの親御さんにタクトのことよろしくお願いした、いい子に待っているんだぞ?」
「わかった……でも、ちゃんと帰ってきてね?僕、まだお父さんに話したいこと教えてもらいたいこと、いっぱいあるからね」
僕は涙を流しながら、体を小刻みに震わせながらつぶやいた。
無精髭を生やした、赤髪の男性はその小さな子を固く抱きしめていた。
――そこで場面は急に切り替わる。
晴天の下、リーナの家族と一緒に父さんの後ろ姿を見送っていた自分を見つける。
太陽は真上にあり、おそらく昼頃だろう。
「父さん、僕いい子にまっているからね!! 悪いやつらをたくさん倒してきてね!! 」
その後姿を呼び止めるかの大声で僕は叫んでいた。
赤髪の黒いローブに身を包んだ父さんは、顔だけ振り返り、右手を大きく上に掲げながら
「タクト、お前は強い男の子だ。俺がいない間に弱音はくんじゃねえぞ!寂しくなったらそのペンダントを握りしめろ、俺達はいつも心は一緒だ!」
僕は、身につけている赤い宝石のネックレスを自然と強く握りしめて体を震わせていた。
――そして、場面はまた急に切り替わる。渦巻くような変化。
俺はどこにいるのだろう?地面や空が認識できないような空間に立っていた。
そこに、急にぼんやりと金髪の女性が現れ近づき呟いた。
「やっと、見つけた……」
謎の騒音に邪魔をされ、完全には聞き取れなかったが、蒼白な肌に華奢な体の彼女は、大きな赤い瞳を潤ませ、顔立ちの整った美人な顔を少し歪ませていた。
この女性に何故か懐かしさを覚え、気付いたら涙を流している俺。
急に恋しい気持ちが芽生え彼女を激しく抱きしめようと両腕を伸ばした刹那。
「う! うひぁ! なにすんのよタクト!! 変態、スケベ!!」
僕は花のようないい香りとともに、小柄な茶髪の女性の鉄拳をくらい、儚い夢を後にし現世に再臨した。