缶ビール
この物語はすべて創作です。モデルはありません。
ミツキは毎日毎日、悶々と暮らし、飲めなかったアルコールに手を出すようになった。
いや、今まで飲めないと思っていただけで、ビールは体質に合うようだった。ミツキは毎日、上の子2人を小学校、末っ子を幼稚園に送り出してから彼らが帰って来るまでの数時間、500の缶ビールを何本か煽った。
セブンスターは今までは子供達が寝静まってから旦那と2人で吸っていたのだが、今は堂々と子供達の前で吸うようになった。
邸宅の中を隅から隅まで磨き上げ、チリ1つ、くもりひとつ無かった各部屋は、特に台所が酷かったが、山のようなビール缶とタバコの灰、洗い物の山で一杯になった。
たった一ヶ月で.........
旬の食材を使った贅沢で美しい手料理、使う食器はもちろんたち吉やウェッジウッド。キッチリとアイロンのかかったハンカチやシャツ、高級クリーニングに出していたスーツや洋服の数々。
毎日6時には完璧な夕飯。食前酒のワインとシャンパン、もしくは吟醸酒。
そして............
シミひとつ付いてないシーツを毎日取り替えたベットルーム。
これらを滞り無く準備するのは、みんな夫と3人の子供達と暮らして行く為のミツキが当たり前に使っていた幸せへのパスポートであった筈だった。
一体何がいけなかったのだろう。何処で間違ったのだろう?世の中の女、結婚してる女達はそんなにも家族を大切に労っているのだろうか?私がやって来た以上に?
私は他の女のように働きながらストレスを溜めてカラオケ行ったり飲み行ったりなんてしなかった。安上がりの手抜きの料理なんてしなかった。私はいつも家の中を掃除して料理して洗濯して、子育てしていた。実家の手伝いも良くやっていた。
勿論、夫にも父親にもそれに伴う有り余る贅沢はさせて貰っていた。当たり前じゃ無いか。私はミツキなんだもの。いったいそれのどこが間違っていたのだ?家族を捨てるほどの不幸がどこにあったと言うのだ?
考えれば考えるほど、ミツキは心の闇にハマり、ビールに酔えば酔うほど、吐けば吐くほど、悔しさと惨めさと自己憐憫で泣けた。
私が一体何をしたって言うのだ?
最近良くキリスト教の何とかって人が布教に来るので、ミツキはその人に言ってやった。
『神の声が聞こえるって言うなら、私が不幸になるのも前もってわかっていた訳?』
と。
その人はふんわりと笑ってミツキに聖書の勧めが書いてある小冊子を渡した。
缶ビールに溺れるミツキ。すぐには前に進めないよね?