せいなるよる。
「今日、いっぱい買い物しちゃったねーっ」
「そうだねぇ、……明日、体重量るの恐いなぁ」
今日はクリスマスイブ。由実と奮発してごちそうを買ってきた。
一人じゃ持てなくて二人で分け合って持って、うちと由実のおうちに足を急ぐ。
繋いだ手と手がに、ちょっと汗を感じてきたとこで、ようやくおうちにたどり着く
「おかえり、理沙」
そう言って笑みを浮かべる由実。先に框に上がって、こっちを見つめる目線が一緒になる。
「もう、由実だって帰ったばっかりでしょ?」
「えー?いいじゃん……」
唇を尖らせる由実。何がしたいかなんて、もうわかってる。
「ふふ、いいよ……」
ただいま、由実。
そう言って唇を差し出すと、由実の唇と触れ合う。
離した後、目が合って、自然と笑みがこぼれる。
「お風呂、先に入っちゃう?」
上着を脱ぎながら、そんなことを聞いてみる。今日はクリスマスイブで、恋人同士で愛し合うにはちょうどいい。
「うーん、……でも、二人で入るし、ご飯食べられなくなっちゃうよ?」
「それもそうだねぇ……」
今日は特別な日だし、明日も日曜日だから、いつスイッチが入るか分からない。
今だって、由実がかわいくて、襲いたくなってるのをこらえてるっていうのに。
「先、もうご飯にしよっか、お風呂は入らなくても何とかなるけど、ご飯は食べなきゃだもんね」
「そうだね、じゃあ私鶏あっためてくるね?」
「私も手伝うよ」
うっかりすると朝までシちゃいそうなのに、ご飯食べないでなんて無理。
ケーキを冷蔵庫に入れておいて、飲み物とグラスも用意しておく。
その間に、由実は野菜室にあった野菜で簡単なサラダを作っていた。
一緒に暮らし始めたときには、私とそんなに料理の腕は変わらなかったのにな。今は由実のほうがずっと上手い。
由実がお皿に盛り付け終わったところで、ちょうどレンジが音を鳴らす。
言葉なんてなくても、ぴったり息が合う。だってもう、一年以上も二人暮らしをしてきたから。
「じゃあ、食べよっか」
ワインの瓶を開けて、二つのグラスに半分くらいずつ注ぐ。
ソファーに隣り合って座って、ワイングラスを手に取って。
「「メリー・クリスマスっ」」
二人で乾杯して、グラス同士がぶつかる音。胸の中がくすぐったくて、由実のほうを見つめる。重なった視線が、気が付いたら二人の距離を近づけて、……二つの唇が重なる音が、二人の間で鳴る。
一緒に、ローストチキンを頬張って、おいしいねぇ、なんて笑いあう。
いつもと同じだけど、ちょっとだけ違う。特別な夜だから、いつもより由実が近くにきてる。
「サンタさんきたら、何お願いしよっか」
突然、かわいいこと言い出した由実。もう酔ったのかな、ってグラスを見ると、まだちょっとしか減ってない。
このままだと、ケーキ食べられなくなっちゃうかな。でも、それでもいいかな。……由実のほうが、甘くておいしいし。
「理紗は、何をお願いしたい?」
考えたものがあまりにも恥かしくて、ワインと口に含めてから、ゆっくりと口を開く。
「……指環、欲しいな、二人でおんなじの」
二人暮らしを始めてしばらくして、由実が買ってきたおそろいの腕時計。あれから、二人の時間は、一緒のものになった。
でも、……二人がもっともっと深い、特別な関係で繋がれてるって証拠が、欲しくなっちゃう。
「由実は、何をお願いするの?」
「……私と理沙が、ずっと一緒にいられるようにって」
由実の顔、もう赤い。お酒で酔ったせいなのかな、それとも、自分の言葉で、恥ずかしくなったのかな。
「もう、……七夕の短冊みたいだね」
「いいでしょ?からかわないでよもう……っ」
うちの肩を軽く叩いてきて、でも『大好き』って気持ちが触れた肌から伝わる。
『かわいい』って気持ちが、胸の中で溢れてく。
「すっごく、嬉しい。……うちも、一緒のお願いにしよっかな」
「でも、やっぱり二人の指環も欲しい……っ」
抱き寄せて、二人の熱を感じ合う。
エアコンをつけてあったからあったかくなってるけど、由実の温もりに触れてたい。
近づいた由実の瞳に引き込まれて、もう一度唇が触れる。
うちも、ちょっとだけ酔っちゃってるかな。そんなこと思うくらいには、二人の距離があっという間になくなっていく。
「料理冷えちゃう前に、食べちゃわなきゃね」
「うん、そうだね。……ケーキも待ってるし」
自分にも言い聞かせるように、二人だけの世界から引き戻す。
珍しく由実のほうが先に食べ終わって、頭を寄りかからせてくる。
私も急いで食べ終わって、甘える由実の髪を軽く撫でた。
「ケーキ、切ってくるから、ちょっと待っててね」
「うん……っ」
寂しそうな顔をする由実にそっと口づけを落として、台所に向かう。
足元はふらついてないから、まだそこまでお酒は入っていなさそうだ。
ちっちゃいホールケーキを半分に切り分けて、置いてたプレートにフォークを2本載せて持っていく。
うちが左利きで、由実が右利きだから、一つのお皿でもそんなに大変じゃないし、何より二人でくっついていられる。
それを見た由実が、もう分かってるみたいににやりと笑う。
うちが座ると、由実が肩が触れ合うくらい近くに寄ってくる。
「じゃあ、食べよっか」
「……うんっ!」
もう、由実も大分出来上がってる。グラスに二杯目を注いで、それも半分くらいなくなっていて。
やっぱり、お風呂入れないな、と心の中でため息をつく。まあ、普段着のままするのも、由実のにおいが濃くて、脱がせる時間が長いからドキドキできて好きだけど。
私も、もう由実しか見れなくなるくらい飲んじゃおっかな。二杯目を開けて、残り少なくなったワインの瓶が空になるまで注ぐ。
フォークをケーキに入れるとき、由実のとぶつかる金属音がする。
そのまま口に入れて、ちょっと違う味がするような気がする。
今更間接キスなんかで、頬の奥が熱くなる。これはきっと、酔いが回ってきたせい。
でも、これ以上ドキドキしたら、本当に由実しか見れなくなっちゃいそう。
由実とタイミングが合わないようにケーキを取って、甘い味も感情もほろ苦いワインで流し込む。
「もう、なくなっちゃったね」
由実の言葉で、もうなくなってたんだって気づく。
「由実、クリームついてるよ」
「え、本当?」
わざとらしいくらい大きなクリームのかけらが、口の端についていて、それを唇で拭う。
「んっ、……はい、とれたよ?」
「ありがと、……あっ、理沙もついてるよ?」
由実の唇が、口の端に触れる。
「はい、取れたよ?」
「ありがと、由実」
上目遣いで見つめてくる由実に、もう、我慢できない。
「じゃあ、ごほうびにちゅーして?」
「……いいよ、由実」
ずるいよ、そんな事言うの。
もう、止まれないの、由実のせいなんだからね。
……ちゅ、ちゅぷっ、ぴちゅ、れりゅ……っ
深くて、激しくて、ケーキよりも甘いキス。
二人の気持ちが混ざり合って、漏れる声がせつなくて甘い。
息の苦しさに思わず離れた唇の隙間で、由実の言葉が私の顔にかかる。
「んぅ……っ、理紗、激しいよぉ……っ」
「……駄目?」
「ダメじゃないよ……、もっと、ちょうだい?」
両手で服を鷲掴みにして、せがむ由実に、ほんのちょっとだけ残ってた理性が訊く。
「ベッド行こっか、……ここでしてたら、ソファーびちょびちょになっちゃうよ?」
「うん、……はやくシて?……わたし、我慢できないよぉ……っ」
眼鏡を外して、ふらついてる足で、ベッドに足を進める由実。
その体を支えてベッドに座らせて、ベッドサイドについてるライトのスイッチを、豆電球だけ残して切る。
由実と向かい合うように座って、闇に目が慣れるまで深い口づけを交わして。
「どうする?朝までシちゃう?」
「いいよ、いつまででも……、だから、早くぅ……っ」
胸の奥が、もう耐えられないくらいドキドキして。
これからは、二人だけの、一番特別な時間。体が求めるままに、由実とお互いを愛し合った。