<1章 6話 グレン師匠>
<1章 6話 グレン師匠>
グレンって・・・ギルドで昼間から酒飲んでた、あのオッサンかよ!
「あん?あぁ、あん時の田舎モンじゃねぇか!魔法は使えるようになったか~。お前さんみたいな田舎モンでもC級魔法くらいなら簡単に契約できただろう!ガッハッハ~。」
その笑い方は依然と変わらない。
昼間から酒を飲んで、夜もがっつり飲んでんのかこの人は。
いや、昼間からお酒って、僕も人のこと言えないのか。
前の世界にいた時の事を思い出す。
「魔法にも階級があったんだな。」
「なんだまだその程度の知識か。まぁ、階級って言っても、契約できるかどうかのランクみたいなもんだがな。同じ攻撃魔法でも、術者の腕しだいで威力は変わる。つーかなんで俺を探してた?」
「契約はできた。グレン・・・さんに使い方を聞こうと思って。」
「なんだなんだ~。わざわざこんな何もねぇおじさんに聞かんでも、魔法屋で教えてくれるだろう?」
「それが、無理だったんだ。この街ではグレンさんしかこの魔法は使えないって言われた。」
「なに?」
グレンの表情が変わる。初めて真顔を見た。
「造形魔法、契約したんだ。でも使い方がわかんなくて。」
「お、お前さんどこでそんなレア魔法の魔石手に入れやがったんだ!?」
「えっ?え、エルソンの村で・・・もらった。」
「あのじじぃ・・・。おい、詳しく聞かせろ。」
僕はエルソンの村での出来事を説明した。
「なるほどな。だからあの山には子供を近づけないよう気をつけろっていってたのに・・・。でもまぁ、あのじじいにしては、乙な真似をするじゃねぇか。」
「エルソンの村長さんを知ってるの?」
「あぁ、昔ちょっとな・・・。それよりお前、よく契約できたな。造形魔法はAランクだぞ。」
「なっ!魔法屋の店員はそんな事言ってなかった。あっ、でも確かにレアな魔石とは言っていや気はする・・・」
「新人かなんかだったんじゃねぇのかそいつ。まぁ魔法はたくさんあって、いくら店員でも全てを把握してるわけじゃないからな。」
「契約できたんだ、いいとするか。グレンさん!使い方、教えてください!」
「ん~・・・。お前さん、いやまず名前を聞こうか。」
「九条祐介、25歳です。」
「25?生きてれば、アイツと一緒か・・・。」
聞き取れないくらい小さな声でグレンが言う。
「え?何か言いました?」
「いや何でもねぇ。それよりユースケ、その魔法を使って、何がしたい?」
「女の子を、守りたいです!」
・・・ぷっ。
「ガーッハッハッハー。いや笑ってすまん。俺が造形魔法を覚えた時と同じ事言いやがるから、ついな。」
オッサンの恋バナは別に聞きたくはないが。
「いいぜ、教えてやんよ!明日の昼、俺ん家に来い。」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「おう、じゃあまた明日な」
「それじゃあ今日は失礼します!」
そう言って、僕は店を出る。
カウンターにいた男が、グレンに話しかける。
「25歳か、生きていればあの子と同じだな。なんとなくあんたの若い頃にも似てるし。気に入ったんじゃないのか?」
「そうだな。親としてアイツにしてやれなかった事、代わりって思っちゃあ悪いかもしれないが、してやれるかもな。」
「いいんじゃないかな。その方が、あの子もあの世で喜ぶだろう。」
「あぁ、そうだといいな。」
男がグレンの隣に座る。
「それにしても、エルソンの村長があの魔石を手放すなんて、よっぽど気に入られたんだろうな」
「それにも驚いたぜ。あの頑固じじい・・・。」
店を閉め、男とグレンが思い出に浸りながら酒を酌み交わす。
宿屋に戻ると、ロビーにユウナとルーシィがいた。
「あっ、やっと帰ってきおった!魔法の契約にどんだけ時間かかっとんねん!」
「九条くん、大丈夫?魔法は契約できた?」
「おう、ただいま。契約できたぜ!ただ使い方がわかんないから明日グレンって人に教えてもらいに行ってくる。」
「そう。無理、しないでね。」
「グレンだって!?」
受付にいた老婆が反応し、こっちに近づいてくる。
「グレンがあんたに魔法の使い方を教えるって言ったのかい!?」
「そ、そうです」
すごい気迫だ。僕が何か悪いことでもしたのかと思うくらい。
「あのグレンがねぇ・・・。昔はちょっと名の通ったウィザードだったが、今じゃただの飲んだくれじゃよ。」
そう言って、ブツブツ言いながら受付に老婆は戻っていった。
あぁびっくりした。
老婆が戻る所を見ている僕の視線を遮るようにルーシィが顔を出す。
「んで、どんなん契約したん~?」
「あ、ああ。造形魔法だよ。いまいち何ができるのかわかんないけど。」
「ふ~ん、よくまぁ契約できたなぁ~。確か契約するんに、かなり強い意志がないとできひんヤツやったんちゃう?」
「そうみたいだな。グレンがA級って言ってた。」
「そんなすごい魔法を契約できたの?九条くん、すごい。」
「でも造形魔法は術者次第でかなり力が他の魔法以上に変動するんやなかった?ウチの記憶やと、しょっぼい人のはC級魔法にも及ばなかったり・・・。」
「なんかそれ、不安になってくるな・・・」
「ま、魔法が全てではないから、九条くんそんなに落ち込まないで。あたしなんて攻撃系の魔法は全然契約できなかったのよ」
「逆にウチは回復魔法の魔石、何個無駄にしたか。あぁ、あのお金があればもっといい杖を買えたのに~。思い出したら腹立ってきたわ。」
ははは。とユウナと僕は苦笑いをする。
「ところで九条くん、そのグレンさんの所で明日は修行なのね?」
「あぁ、昼くらいに家に来いってさ。」
「明日はルーちゃんにこの街を案内してあげようと思ってたけど、九条くんは無理みたいね。」
「そうだったのか、ルーシィ、ごめんな」
「ええよ~。女子二人で、楽しんでくるわ~」
談笑し、そろそろ、とそれぞれ部屋に入り休む。
翌日、昼。
教えてもらった住所に、その家はあった。庭もあって、結構大きい。
呼び鈴を鳴らすと、ドアを開けてグレンが出てきた。
「おう、来たか。まぁ、上がれや」
「よろしくお願いします!師匠!」
「し、師匠だぁ~?むずかゆいからグレンでいい。」
今日はお酒を飲んでいないようだ。
この世界には似合わない、畳の部屋がある。
そこでグレンと二人、座禅を組む。
「造形魔法だったな。まず、この魔法はとにかく自由の魔法だ。なんでも具現化できるし、具現化した物に属性や追加効果もつけられる。ユースケ、何が必要かわかるか?」
「わ、わかりません。」
「ちったぁ考えろよ。まぁいい。腕力でも魔力でもない、想像力だ。」
「想像力?」
「イメージするんだ。頭ん中で考えて考えて、それを手から放出するイメージ。想像で、創造するんだ」
・・・笑う所だろうか。
「今、お前の手の中に石ころがあると思ってみな。そうだな、とりあえずイメージしやすいように、と。」
手の中にすっぽり入る大きさの石を、グレンはポケットから取り出して僕に渡す。
「コイツを右手に握りしめ、目を閉じて、左手に同じように、「ある」って考えるんだ。」
僕は言われたとおり、石を握りイメージする。
「・・・んんっ。」
「造形したい石の大きさ、色、重さ、堅さ、どんな肌触りか、とにかくそこにイメージしている物があるって考えろ。」
5分経過。
「で、できない」
「ユースケ、お前さん本当に契約したのか?」
「だって、汝の力になるって魔石が言ってたぜ!!」
ふうむ、とグレンは困った顔をしている。
「術者の経験とかで造形できる物の大きさは変化していくが、この石くらいの大きさなら簡単なハズなんだがな。」
そう言って、グレンに石を取り上げられ、反対の手には別の石が現れる。
「おぉ。初めてグレンをすごいって思った。」
「バカモン!人をなんだと思ってる!・・・いや確かに尊敬されるような生活はしてないがな・・・。」
グレンは怒ったかと思いきや、少し悲しげな表情を見せる。
「ホレ」
造形された方の石を渡される。
「本物の石みたいだ。全然区別がつかない。」
「そうだろう。だがな、こんな事もできるんだ」
そう言って、同じようにもう一つ石を造形している。
新しい石を受けとるが、何の変哲もない、さっきの石と同じに見える。
「わからんだろう?新しい方の石を窓から外に投げてみろ。」
へいへい。とその石を軽く外に向かって投げる。
次の瞬間。
ピカッ。ドカァーン!
「えっ?ば、爆発したぁぁぁぁ!」
「あぁ、威力は当然抑えているが、爆弾の機能がついた石、ってのを造形したんだ。お前はまだそういう細かい事は考えなくてもいいが、こういう事もできるんだって覚えておけ。」
マジか。すげぇ。
やる気が出てきた。
「よし!頑張るぞ!」
1時間経過。
「ダメでした」
そう言って畳に倒れ込む。
「はぁ」
と、グレンもため息をつく。
「とにかく、イメージして、そこに「ある」って信じるんだ。「ソレ」を造形して、何がしたいのか、何のために造形したいのかをよく考えろ」
「何の為に、か」
「今日はもう疲れただろう。基本は教えたからできるようになるまでは後は自分でなんとかしてみろ。石くらい造形できるようになったら、また来い。」
「ありがうございました~・・・。」
落ち込みながら、グレンの家を後にする。
ユウナとルーシィは何をしているだろうか、G-Padで連絡を取ってみる。
「もしもしユウナ?今どこにいんの?」
「もしもし?九条くん?ルーちゃんが大変なの!」
「何!?今どこにいるんだ!?すぐ行く!!」
走ってユウナ達がいるという場所へ向かう。
ユウナの姿が見えた。
「ユウナ!」
「九条くん!どうしよう、ルーちゃんが、ルーちゃんが・・・」