<1章 5話 ルーシィ>
<1章 5話 ルーシィ>
リベルスへと帰る列車の中、魔法の契約についてユウナから色々教えてもらっていると、あと一駅という所で列車が止まる。
列車の故障のようだ。
「マジか~。なんとかならねぇの?」
駅員に何を言ってもどうにもならないのはわかっていても、聞かずにはいれなかった。
「どうする?ユウナ。ここからリベルスまで歩くとなると遠いかな?」
「えっと、確か徒歩で4~5時間くらいだと思う。途中、グンゼの森を抜ける形になるけど」
「うっひゃ~、結構遠いな。でも、まだお昼だから夕方には着くって事だな。ちょっとこの村でランチして、歩いて帰ろうぜ」
「そうね、歩けない距離でもないし、そうしましょうか」
エルソンよりは大きいその村には、食堂や弁当屋があった。
つーかこの世界、ラーメンまであんのかよ。しかも、のり弁とか置いてあるし。
もし夕方までに着かなかったら、という事を懸念し弁当を買って僕たちはリベルスへ向かう。
途中、ツノウサギに何回か襲われたが、一人で戦った時とは違い、とても楽な戦闘だった。
このウサギ、某ゲームのスライム的な存在なのかな。
「何年も戦闘をするお仕事はしてないから、久しぶりにツノウサギを見たわ」
「えっ?逆に、今までどんな仕事してたんだ?」
「そうね、家事手伝いとか、モンスターが出ない所でのアイテム収集系のお仕事ばかりしていたわ。あと、たまにギルドの治療室で、ケガをして仕事から帰った人達を魔法で治す事も手伝ってた時もある」
「へぇ~、そんな仕事もあったんだ」
そんな会話をしている内に、グンゼの森とやらに着く。
「気をつけてね、C級モンスターでもツノウサギとは違って、中級や上級、下手すればB級モンスターも出てくる可能性があるから。でも、さすがに森の奥に行くわけではないから大丈夫だとは思う。」
「おっけぇ~。じゃあ、気を引き締めて、行こう!」
森では、確かにツノウサギよりは強いモンスターが出てきた。
しかし、戦う事に慣れてきたのか、苦戦することなく順調に森の中を進む。
森の真ん中くらいまで来た所だろうか。近くで誰かが戦っている音がする。
「はぁ、はぁ、ブリザード!!」
氷の塊が5~6匹はいたであろう犬型のモンスター軍にすごい勢いでぶつかり、モンスターが消えていく。
「すげぇ。攻撃魔法は初めて見たな」
「大変、あの子ケガしてる!」
どうやら女の子のようだが、かなり消耗している。
二人で女の子に駆け寄り、
「大丈夫か!?」
「はぁ、はぁ、あかん、もうダメや・・・」
関西弁?いや今は気にしないでおこう。
「は・・・った」
「どうした!」
黙々と回復魔法をかけるユウナは必死の表情だ。
「腹が・・・」
「腹が痛むのか!」
「腹、減った~・・・」
「・・・は?」
僕達2人分の弁当を食べきって、ふうとため息をつく女の子。
金髪に赤い瞳で、髪は肩に着かないくらい。
「いや~、ほんま助かったわ~。ちょっと、足りひんけどね~」
「まだ食えんのかよ!」
「あったり前や~。今ので腹1分目って所やし」
「まっ、そんだけ元気ならもう大丈夫そうだな」
「ウチはルーシィ、ウィザードや!ピッチピチの21歳やで!」
「私はユウナ、ヒーラーよ」
「僕は九条祐介、・・・僕って何になるんだ?」
「えっと・・・ナイトになるのかしら?」
「ぷっ、自分のジョブもわかっとらんなんて、お兄さんおもろいなぁ~」
「仕方ないだろう。まだ武器も持って3日目だからな。」
「えぇ!ウチより初心者やん!」
「というか、他にどんなジョブがあるんだ?」
「先輩のウチが教えたる!そこのお姉さんみたいに回復魔法を操るんがヒーラー、ウチみたいに攻撃魔法を華麗に放つんがウィザード、兄さんみたいな武器で近接攻撃をする人をナイト。ナイトって言っても重たい鎧でギッチギッチの筋肉ダルマはヘビィナイトとも言われとるし、魔法を使いながら近接もする人をマジックナイトとも言うで~。」
「ふ~ん。教えてくれてありがとう。あとついでに聞きたいんだがその言葉遣いって?」
黙り込むルーシィの代わりにユウナが答える。
「あなたは多分、ナンバーンの国の出身ね」
「・・・やっぱりわかるんか」
「私のちょっとした知り合いもそういう話し方をしていて、ナンバーンから来たって言ってた。」
なるほど、関西弁の国があるって事か。
「わかってまうんならしゃーない!そや!ウチはナンバーンを出てこの国、ブレスフィアに来たんよ。10年前にいなくなってしもた、バカ兄貴を探しにね。とりあえず何も情報ないから、少し大きめの街に行こうとして適当にウロウロしとったら、この森でなんやごっつ強いモンスターとバッタリ会ってしもて、逃げてきた所なんよ。」
「リベルスに行こうとしてるなら、私たちも目的地は一緒よ。」
「そうだな。またそのモンスターが出たら大変だ。みんなで一緒に行動した方がいいだろう。」
「ええんか?」
「困った人をほっとけないんでね」
「おおきに、じゃあ甘えるわ」
何事もなく残り半分の森を、3人で抜ける。
リベルスに着いて、ギルドに向かいエルソンの村の依頼の報酬を受け取る。
報酬の4000Gをユウナと二人で分け、僕は魔法屋によってから帰ると2人に伝え別れる。
ルーシィも同じ宿屋に行くようだ。
魔法屋で儀式をしたいと受付を済ませると、まずは魔石の解析をしてくれた。
「この魔石の中にあるのは、造形魔法ですね。」
「ぞうけいまほう?」
「簡単に説明すると、イメージした物を具現化する魔法です」
「へぇ~。難しく説明するとどうなる?」
「・・・同じですね」
ガクッ。
「ただ、かなりレアな魔石ではあるんですが、一度儀式を行うとこの魔石はもう使えなくなりますがよろしいですか?」
「うっ、失敗したらユウナにあげようと思っていたが、無理なのか。でもしょうがない、とりあえずやってくれ!」
不安と期待で複雑な気持ちを胸に、儀式の間に移動する。
怪しげな薄暗い部屋で、低いテーブルに魔石を置くための台があり、その前で僕は座禅を組む。
テーブルの反対側に先ほどの店員がいて、
「今から、お客様が魔石と対話します。魔石に認められれば契約完了です。」
と、そう言って台に魔石を置き、なにやら詠唱を始めた。
目をつぶり、しばらくして目を開けると辺りが真っ暗になっている。あれ?テーブルや店員はどこ行った?
「汝、余の力を欲する者か。」
「は、はい!」
これが魔石との対話ってヤツか。
エコーがかかった、男の声だ。
「汝、余の力で何を望む。」
「守りたい人がいる!その人を守る為に、力が欲しい!」
「その意思、心に思い強く念じよ」
僕はユウナの顔を思い浮かべた。
泣いてるユウナの顔を見た時、守りたいと本当に思ったからだ。
その為には自分自身が強くなり、勇気を出して再びパーティを組む事を決意したユウナを、泣かせないとあの時誓った。
自分を、ユウナを守る。
その為の力が欲しい。
そう心に思っていると、あの魔石と同じ淡い紫の光が僕を包み込む。
「その心認めたり。汝の力となり見届けてやろう」
パッと周りが見えるようになり、さっきまでいた部屋に戻った様子で、詠唱を続けている店員の姿が見えた。
「ふう、対話は終わったようですね。どうでしたか?」
「なんかよくわかんないが、汝の力になってやるってさ」
「おめでとうございます、契約できたって事ですね」
「で、どうやって魔法使うの?」
「えっと・・・造形魔法はかなり特殊でして・・・すいませんが・・・。」
「マジかよ・・・」
魔法を契約したが、使い方がわからないとか。使い方がわからないけど新しいパソコン買っちゃった、みたいな気分だ。
「ただ、一人だけ、造形魔法が使える人がこの街にいます。その方がお客様にご指南してくださるかはわかりません・・・」
「おっ、まだ望みはあるのか!その人の事、教えて!」
「正直、あまりオススメできない人ではあるんですが・・・」
「へっ?」
渡された住所のメモを見て、ある店に向かう。
店員の言葉を思い出す。
「この時間なら、このお店で飲んでると思います。」
バーの様なお店だった。
店に入り、カウンターにいる男に話しかける。
「すいません、グレンさんという方を探しているんですけど」
「あぁ、グレンなら奥にいるよ」
まだ夜の7時くらいなのにすでに何杯も飲んだかの雰囲気で、店の奥のテーブルでうなだれている男がいる。
「あの、グレンさんですか?僕は九条と申しますが・・・って!あ、アンタは!!!」
テーブルから顔を上げたその人物に、僕は驚く。