<1章 4話 命を諦めるな!>
<1章 4話 命を諦めるな!>
エルソンという村まで、Bランクのモンスター討伐の為列車でユウナと僕は二人で向かう。
その列車の中で、ユウナが驚きの告白をする。
「私・・・過去に人を殺してるの。」
「えっ・・・?」
しばらく沈黙した後、ユウナは語り出す。
「大切な友人を、守れなかった。九条くんの生まれた所ではどうか知らないけど、私の故郷では20歳から冒険に出ることが許されるの。私は攻撃系の魔法が苦手で、回復系しか使えなかった。仲の良い女の子3人でのパーティで色んな仕事をしたわ。ナイトとウィザード、ヒーラーのパーティで。ナイトの子、エルザはとっても明るくて、強くてキレイだった。女の子なのに顔にキズまで作っちゃってたけど。・・・とても、尊敬してた。ある日、Bランクの仕事をしていたら、A級モンスターに遭遇してしまって、私たち3人は絶体絶命だった。でも、エルザが時間をかせぐから逃げろって、剣を捨てて守りを固めた。私は怖くて足が動かなかった。ウィザードのカレンも、放心状態でどうにもならない様子だったわ。あぁ、3人とも死んじゃうんだって思って諦めていた時、エルザが叫んでこう言ったの。「命を諦めるな!」って。私たちはその言葉に励まされ、戦う覚悟をもったけど、エルザはそのモンスターを巻き添えにガケの下に落ちていった。きっと、戦っても3人とも死んじゃうと思って、自分を犠牲にしたんだと思う。」
泣きながら語るユウナの表情は、とても悲しそうで、僕は声をかける言葉が見つからなかった。
「カレンはウィザードをやめて、実家の魔法屋を手伝ってる。私は、どうしたらいいかわからないままこうして今も冒険者として旅をしている。でも、もう目の前で大切な友人が死ぬのは見たくない。だからパーティを組むこともなく今までやってきたの。」
「ユウナ、キミはエルザを見殺しにしたんじゃない。エルザが命をかけてキミ達を守ったんだ」
「九条くん、ありがとう。あなたはちょっと他の人と違う感じがして。また、誰かと一緒に冒険してみようって気になれたの。
・・・やだ、あたしったらなんて事言っちゃってんだろ。え、エルソンまだ着かないのかなー」
ユウナは動揺した動きで、窓の方に顔を向けた。その顔は赤らんでいて、耳まで真っ赤だ。
やばい。可愛すぎる。
その後すぐに列車は村に着き、仕事内容の詳しい話を村長に聞きに行く。
どうやら村の近くの山に、C級モンスターが大量発生したようだ。C級モンスターでも、数が多いと仕事のランクが高くなるということらしい。
その数ざっと30~40ほど。ユウナが30㎝くらいの小さな杖を振りサポート魔法で僕を援護し、ドーベルマンによく似たモンスターを倒し続けた。動物愛護団体に怒られないか?あくまでもモンスターです!やっぱり攻撃魔法があったら便利なんだろうな、と戦いながら感じた。
G-Padに依頼完了の表示が出て、僕たちは山を下りることにした。
山中を歩いていると、小さな声が聞こえてくる
「・・・けて」
「ん?」
「・・すけて」
「「あっ!」」
二人そろって、山肌の木にしがみつき、今にも落ちそうな少年に気付く。
なんでこんな所に子供が!いやそれどころではない。
「急いで助けないと!」
二人でその少年に近づく。
「とどけぇ・・・」
もうちょっとで少年の手をつかめるのだが、あと数㎝、足りない。
「くそぅ・・・」
「だめ、がんばって」
ユウナも手を伸ばすが、僕が届かないのだ。女性ならなおさら届かない。
「絶対、助けてやる」
少年の手に力が入らなくなってきた。
ギャル子の言葉と、先ほどのユウナの言葉を思い出す。
「死者蘇生の類いの魔法は存在しないの」
「エルザが叫んでこう言ったの。「命を諦めるな!」って」
「おい!ふんばれ少年!
ユウナ!こんな時、なんて言うんだ!」
「命を諦めるな!」
「命を諦めないで!」
ユウナと僕の声がハモって響く。
瞬間、少年はハッとして、片方の手を僕達に向けて伸ばす。
「届いた!」
なんとか少年を引っ張り上げる。
「はぁ、はぁ、よかった~・・・」
顔が土だらけになった僕。ユウナはそんな僕をみて
「ぷっ!九条くんなにその顔~」
と言うが、ユウナの顔もなかなか汚れている。
「ユウナだってすごい顔してるぜ」
笑う二人を見て、少年も助かった安心感からか笑い出す。
日も沈み、3人で村に戻ると、村中が大騒ぎしていた。
男の子が村からいなくなってしまって、みんなで探しているとの事。
少年が家に帰ると、どこを探し回ったのか顔も服もボロボロの両親が泣いて喜んだ。
村長が現れ、
「お二方、本当にありがとうございます。モンスター討伐だけでなくその子も助けていただいたようで」
「いいよいいよ、ご飯とお風呂だけ、よろしく」
僕は今まで感じたことのない、やりきった感を満喫していた。
ユウナは少年の両親に回復魔法をかけ、少年に「今度からは気をつけなさいね」と言ってその家を後にしていた。
村長の家の、用意してもらった寝床で僕たちはそれぞれ別の部屋で休み、朝を迎える。
「おはようございます、お二方。夕べはよく眠れましたかな?」
村長がなにやら箱を持って話しかけてくる。
ユウナと僕は帰り支度を済ませ、お茶をいただいていた。
「えぇ、よく眠れました。お食事もおいしかったです。ね?九条くん」
「あぁ、久しぶりにまともなメシ食ったぜ~」
「ほっほっほ、それはよかった。ところで、お二人に渡したい物がありましてな」
村長はもっていた箱を開ける。
手のひらに収まるくらいの、淡く紫色に光る丸いガラス玉のようなものが入っている。
「村に古くから伝わる、魔石ですじゃ」
「ほほ~、これが魔石か。なになに、くれんの?」
と僕が言ってる横からユウナが
「そんな、いただけません。モンスター討伐の報酬は、ギルドからちゃんと受け取ります。ですがこの魔石は報酬としては受け取れません」と間に入った。
「それならば報酬ではなく、村のお客人への贈り物として受け取ってくだされ」
「そ、そういう事でしたら・・・。でも、私じゃなくて九条くんが使ってね。魔法、興味あるんでしょう?」
ついにその日が来たのか!
「どうしたら魔法が使えるんだっけか!?」
「ちょ、ちょっと待って。帰りにちゃんと説明するから落ち着いて」
村長にお礼を言い、エルソンの村からリベルスへ向かう列車に乗り込んだ。
帰りの列車内で、ユウナは説明してくれた。
「魔石は、魔法屋の儀式の間で契約の儀式に使うの。相性とかもあるから、全ての魔法を覚えられるわけではないんだけど・・・。覚えられても、使い方が魔法によって違うから同じ魔法が使える人に教えてもらうといいわよ」
との事。
この年でも、魔法が使えるようになるって考えるとワクワクする。
そんな僕の表情を見て、ユウナは笑う。
「九条くん、子供みたい」
「だって魔法だぜ!どんな魔法が入ってんのかな~」
魔石を手に取り、魔石ごしに窓の外を見る。
このまま列車は順調にリベルスへ向かう・・・ハズだった。