<1章 1話 選択>
<1章 1話 選択>
・・・・・・ん?
あれ?生きてる?
というかどこも痛くない?
どうなっている?
病院ではなさそうだが。
どこかの事務所の応接室の様な部屋の、ソファーに僕はいた。
ぼーっとした頭で、体を起こし周りをキョロキョロすると、一人の女性が見えた。
「だから~、予定外のことなんだってば~。あっ、起きた~?キミ、死んだのよ~」
金髪ギャル風の女子が電話をしながらも僕に気付いたらしく、僕に向かってそう言った。なんてラメラメしたデコケータイなんだ。
ビカビカとラメが入った、派手なスマホを持ったその女子は電話の相手にちょっと待っててと言って僕に話しかけてきた。
「ここはね~、あの世とこの世とその世をつなぐ所なの。」
「その世ってどの世ですか!?」
予想外すぎる展開と意味不明な単語に、考えが追いつかない。
「ちゃんと説明してあげるから、慌てないの~」
「・・・」
「今風に簡単に言うと~、異世界ね!キミがいた世界がこの世、まぁ、一般的な現実世界ね~。あの世はあの世よ。キミは死んで、その色んな世界の間であるココに来たってわけ」
「はぁぁぁぁ!?そんなもん、信じれるわけが・・・」
事故に遭って全身が大変な事になっているはずの自分の体がなんともない事から僕は言葉を飲み込んだ。
「でもね~、ここって、来る予定がない人が来ちゃうって珍しくて~。あっ、キミの事なんだけどね」
「えぇ!?じゃあ、僕が死んだのは・・・?」
「本来、あの男の子がここに来るはずだったのに~、どういうわけか、キミのおかげだと思うけど寿命が伸びたの~。あっ、ちなみにあの子は軽いキズで済んで、ピンピンしてるよ~」
「なんだ、そういう意味か。あの子が助かったってんなら・・・僕はもうなんでもいいよ」
「あっ、マジでそう思ってくれる?よかった~。ちょっと待っててね。もしも~し、なんか受け入れてくれてるよ~。・・・うん、そうそう~。とりあえずどう選択するかとか聞いておくから、あとでまた報告するね~」
そう言って、彼女は電話を切ったようだ。
「でもね、キミの寿命も実は尽きていない。あっ、まず自己紹介しとくね~。あたしはマナ。愛って書いてマナよ。マーちゃんって、呼んでくれていいよ~。それでね、お仕事は、見てわかる通り、し・に・が・み☆デス」
どう見てもただのギャルだ。横ピースでドヤ顔をしているそのギャル子は、どうやら死んだ人間を生まれ変わらせるか天国or地獄に連れて行くか本人の意思を聞きつつ、判定する仕事をしているらしい。
生まれ変わるとは、記憶がなくなり「リセット」されてあの現実世界に戻るということ。
人間に生まれ変わるかどうかはランダムで、虫や動物になる可能性もある。
天国か地獄というのは、どうやら生前の善悪の行動を数字化して判定される。
その数字で、天国か地獄、地獄なら階級が変化するとのことだ。そう簡単に説明をマナは言った。
「でね~、キミは予定外の人だし~、寿命がまだ尽きていない事と自分の命をかけて他人を助けた事から、特別にその世に転移できるようなの~。今風に言うなら、異世界転移ってヤツよ~。」
いちいち「今風」とか言わんでいいと思うが・・・。
「あっ、でも異世界転移って言ってもチートみたいな事はできないからね~。チートっていうのは~、すっごい伝説の武器みたいなのを最初から持ってるとか~、お金に苦労せずに冒険ができるとかよ~」
「ちょっと待って!武器とか冒険とか、その異世界ってどんな設定なの!?」
「ん~、魔王とかモンスターがいて~、ちょうど、ドラゴンクエス[ピー]みたいな感じ~」
[ピー]で伏せた意味あるのか・・・。
「魔法とかも使えるのよ~」
いや、そのゲームでは「まほう」でなく、「じゅもん」だろう。
「あっ、でもね~、魔法はあっても死者蘇生の類いは存在しないの~。命は限りがある、それはどの世界にも共通のルールみたいなもんだからね~」
「ふ~ん・・・」
「で、どうする~?」
「いや、僕は生まれ変わりでいいよ。特にやりたい事もなかったし、後悔はない。」
マナは何かの紙を見ながら、
「後悔はない?資料によるとキミ、童貞でしょ~?」
と、ニヤニヤしながらこっちを見る。
「な!?その資料ってどこまで書いてあるんだ!?個人情報保護法はどこいった!」
「ぜぇ~んぶ、書いてあるわよ~」
その全部というのがどこまでなのか気になるが、今はそれどころではない。
「は、果たして、そそそ、その情報が正しいかどうかわからないだろう」
明らかに動揺している僕にマナは続けて言う。
「女の子の裸もえっちぃビデオ以外では見たことがない。手だって繋いだのは小学校の時のフォークダンスだけみたいね~」
「認める、認めるからその資料とやらを読むのを止めてくれぇぇぇ」
穴があったら入りたいと、心の底から思った瞬間であった。
「さすがにそのままリセット、したくないでしょう~?」
僕は悩む。
「そりゃあ、僕だって女の子と仲良くしたいと思ってた時期があったし、このまま死ぬのは・・・イヤだけど・・・」
「それじゃあ決まりじゃない!知ってる?魔王を倒した勇者はモテるのよ!」
「倒したら、ってそんな簡単な事じゃないだろう?」
「だから、今度は少しくらい何かに本気で打ち込んでみなさいよ~。アニメやゲームは好きだったんでしょう~?」
なるほど、僕が本気で何かをやってこなかった事や、空いてる時間はそういう、オタクな事ばかりやっていた事まで全部資料とやらに載っているのか。
「だからって・・・」
僕の声を遮るように、初めて真顔でマナは言った。
「あなたは、命をかけて他人の命を救えるのよ。その純粋な人を助ける気持ちはみんながもっているものではない。きっと、あなたがもっと行動すれば助かる命だってある!」
「・・・やる。」
「もっと、大きな声でマーちゃん聞きたいな~」
大きく僕は息を吸う。
「ラスボスまで倒せるかはわからないが、やれるところまでやってやるぜ!」
笑顔でマナは、
「はい、よくできました。私たちじゃ世界の内情に手は出せないの。メルスティアの事、お願いね。」
どうやら僕が行く世界は、メルスティアと言うらしい。
僕は胸に熱い思いを初めて抱き、その世界に降り立つ。
「さぁ、おいきなさい!」
ドヤ顔で古いセリフを言う死神がいた。
「そのネタ、今の若い子は知らないぞ・・・」
ボソッと突っ込む僕の周りに空間のゆがみが発生して、どこかにワープする様子だった。