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マンホール国家  作者: 尾山 湊洋
8/8

全ての黒幕が自分であったということを知り、困惑しながらも戦うことをやめなかったタカシ。

乗り移っていた悪魔を撃退し、レドニューには平和が訪れることとなった。


 マンホール国家


8 夢


「も、もう一人の僕…!」


 駆けよって自分をゆする。何だかとても変な感じだ。僕が僕をゆすっているわけだから。ゆすっていると、もう一人の僕はゆっくりと目を開けた。よかった、死んでいなかった。僕はほう、と息をついた。


「……ありがとう、“表”の俺」


 ニッと口角を上げ、僕の手を握った。もう一人の僕は、満足そうに笑っている。彼は急いで立ち上がって、椅子に座りなおし電話をかけ始めた。


「……もしもし。こちらイーストレドニュー…ティネーロ行政隊隊長。ウェストレドニューとの交戦は撤廃する。誠に申し訳なかった。のちに謝罪に向かう。」


 これで、これでレドニューの危機は救われたんだ。僕は、一人では何もできなかった。レビルさんも、ニアトンさんも、その他大勢の隊員達のお陰でここまで戦えた。そして…


「…もう一人の僕。」


 きっと黒幕がもう一人の僕でなければ勝てなかったかもしれない。自分を斬った時は本当は躊躇いもあったけれど。あのときもう一人の僕がああ言ってくれなければ。


「……」

「……なあ、“表”の俺よ。おれはこうやってここにいる。それが、お前の望むもの。お前の思っているものだ。」

「……うん」

「…俺はこっちの世界でこうやって行政隊の隊長として市民を守っていることに生き甲斐を感じてるぞ。…だから…その…なんだ」


 もう一人の自分は照れくさそうに頭を掻いていた。…言いたいことは分かってるよ。なんて言ったって君はもう一人の僕なんだから。


「分かってる。…諦めない、僕は」

「おう、お前の夢、ちゃんと叶えろよ。今回こうやってお前は正義の為に戦ってくれた。その心があればきっと大丈夫だ。いつでも俺はお前の心の中にいる」


 もう一人の僕は笑って僕の背中を叩いた、その瞬間。


「タカシ!遅刻よ!タカシ!!」


 ハッと目を覚ました。目覚まし時計が示す時間は8時。今日は、7月16日。下からお母さんが怒鳴っている。見覚えのある天井。少しめくれている掛布団。

 …もしかして…あれは夢……だったのかな。


「うわ、遅刻……」


 起き上った僕は、驚いた。置いてある学校の制服の横に、行政隊本部の制服が置いてあったのだから。丁寧に畳まれて、並んで置いてある。僕の部屋には鍵をかけてあるから、お母さんが部屋に入ってくるはずがなかった。


「……夢じゃなかったんだ!!」


 僕は急いで飛び起き、用意された朝食をかき込んで、笑いながら学校へと走っていった。遅刻して先生に怒られた。一時間目から、ずっと先生の話は聞かずに僕は本を読んでいた。本棚に大事にしまってあった、本を。いつもと違う、日常。

 僕は、清々しい気分で一日を過ごす。今まで退屈だった毎日が、違って見えるようになった。きっと、レドニューでの出来事があったからだと思う。

 

「お前はさ、将来何かやりたいこととかねーの?」

「僕?僕は……」


 急に訪ねてきた友達に、僕は笑顔で言った。友達は、お前には無理なんじゃないかと言いたげに笑ったが、僕は全く気にしなかった。ぎゅっと、あの本が入っている通学カバンを抱きしめるかのように強く持ち、走った。

 工事中の看板は、なかった。僕はいつも通りの帰り道に少し戸惑い、あのマンホールを探しながら家へと帰ったのだった。




 あの日から数十年が経った。僕はもう十分大人になった。未だにあの出来事は鮮明に覚えている。まるで昨日起こったことのように。僕はあの後、何度もまたあっちの世界に行こうとしてあのマンホールを探した。けれど、あったはずの道を行ってもそのマンホールは無かった。けれど、今でも行政隊本部の制服は大事に取ってある。そんな不思議な話、誰も信じてくれはしなかった。だけど、あのときもう一人の僕からもらった言葉は今の僕を支えている。


「隊長!訓練終了しました!」

「よし、今日はここまで!」


 僕は、小さい時からの夢を叶えた。あれだけ貧弱だったからだも、あの日から鍛えた。勉強もたくさんした。僕は今、自衛隊の一隊員として、人々を守っている。あの幼き日、僕をこっそり助けてくれた優しい隊員のようになるのが、今の僕の夢だ。そのためにも今、コツコツと訓練を頑張っている。

 僕の事務机には、あの日から毎日欠かさず読んでいる……少し角がよれた、自衛隊の心得が書いてある本が置いてある。


 普段生きている世界には、“表”があれば“裏”がある。ひょんなことから“裏”へ行ってしまう人が極稀にいるらしい。壁に頭を打ってとか、変なところで転んでとか。僕の場合は、マンホールに落ちて。

 でも、その時に本当の自分を見つけられることもあったりして。



おしまい



 はい。今回で「マンホール国家」は完結です。尾山 湊洋です。

 「マンホール国家」、一番最初にオチは思いついていたのですがあまりにもつまらな過ぎたのでまた練り直し、となかなかの難産でした。どうだったでしょうか。

 途中で二重人格になっている部分の描写が難しくて、自分でも正直納得がいかない部分が多かったです。力不足…もっと上手く表現できるように頑張りたいと思います。

 主人公である僕、タカシの小さい時からの夢や望みは、誰かに必要とされて、認められて、そして…みんなを守る自衛隊になりたい、というものでした。私もタカシのように夢を追いかけられたらいいな、と自分に対してのメッセージも込めた作品となります。

 みなさんもきっと夢があったりすると思います。こんな奇妙な出来事が起こることは無いと思いますが(笑)どうぞ、自分の心の底をもう一度見直してみて下さい。

 拙い文章でお見苦しい部分が多かった中、ここまで読んでくださってありがとうございました。次回もまたこんな風に長いお話を書けたらいいなと思います。

(当時のあとがき)


初めての連載、読み直すと死ぬほど恥ずかしいですね。

加筆修正しながらでしたが、どうもうまくいかないものです。

ストーリーを書き換えてしまおうかとまで思いましたが、当時の自分の思ったこと、感じたことを大事にしようと思いましてあまり変えずに。

拙い文章でしたが読んでくださりありがとうございました。


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