勝敗
行政隊長の仮面が剥がれ、正体を知ったタカシだったが……
マンホール国家
7 勝敗
「……驚いたか。俺様と貴様はそっくりだからな」
目の前にいるのは、僕。………僕だ。
見た目が、同じ。声も…同じ。背丈も……同じだ。違う所といえば、狂気に満ちた目。そして、見える黒いもやもやとしたもの。それ以外は、鏡を見ているようだった。
まさか、黒幕が『こっちの世界での僕』だった…なんて…。僕はただ固まるしかなかった。
「な……なん…で……」
「それは、貴様が心の底ではこうってことなんだよ」
固まっていた僕に遠慮なく、もう一人の僕が攻撃する。上手く受けきれず、剣は弾かれ宙を舞った。カラン、と大きな音が隊長室に響き渡る。
首元には、剣が当てられた。少し刃が食い込んで、一筋の血が剣を伝って床に垂れる。
「俺様は破壊を望んでいる。こんな世界など、かっ消してしまえばいいんだ。どうだ?いいだろう?」
「い…いいわけあるか…っ」
「…だが、お前は日常がつまらなくて仕方がなかっただろう?いつまでもいつまでも…自分のやりたいことなど否定され、自分には才能がない、と…」
にやり、ともう一人の僕は笑って僕の耳元で囁く。
「………そんな世界、無くなってしまえばいいだろ?」
「ッ!」
そ…そんなこと、思ってなんかない、僕が認めても貰えずただ退屈な日々を過ごしていたのは事実。でもこうして、僕は今こんな風に必要とされてる。やるべきことがある。認めてもらっているんだ。世界を無くすなんておかしい、そんなことは僕は望んでいない!
「ち…がう…」
「あ?」
「そりゃ、退屈してたさ…何もできない自分にもうんざりしていた。でも、こうやって今僕は必要とされてるだろ…」
「貴様のことなんて誰も…」
「黙れ!!!!」
叫ぶと、もう一人の僕は一瞬怯えたような目をしていた。しかし、またすぐ元の狂気に満ちている目に戻った。
「……じゃあ俺様は何故こんな風に世界を崩壊させようとしているんだ?貴様も知っているだろう?ここは“表”の人間の本性だと。つまり貴様は世界の崩壊を望んでいるということだ!」
そんなことはない、僕がずっと望んできているのは崩壊なんかじゃない。誰かに必要とされたかったし、認められたかった。そして…ずっと抱えてきた夢だってあるじゃないか。
このもう一人の僕は僕じゃない……!
「僕は世界の崩壊なんて望んでない!おい、もう一人の僕!お前は本当に世界を崩壊させたいのか!今こうやって僕はいろんな人に頼りにされてる!必要ともされてる!僕がやりたいのは人を死なせたりすることじゃないだろ!」
すると、急にもう一人の僕は急に苦しみ始めた。ガシャン、と首に突き付けられた剣は落とされる。もう一人の僕は頭を抱え始めた。
「やめろ…やめろ!」
「……?」
もう一人の僕は一人でに何かと闘って苦しんでいるようだった。頭を抱えながら、僕の目を見つめる。
「…“表”の俺……」
その目は、さっきとは全く違っていた。優しさと力強さを持っていた目だった。僕は何が起きていたのか、良く分かった。このもう一人の僕は、元はこうだったんだ。
「お……俺は…世界の崩壊なんて望んでない……グッ、…出ていけ…俺の中から出ていけ悪魔め…ッ」
「も……もう一人の僕……?」
「う……俺は…お前の心の底の……黙れ!何もしゃべるな!!これ以上何もいうな!!……お前…自身だ…う…うう…」
目がコロコロと変わる。さっきもう一人の僕が『悪魔』と言っていた。きっと元々の僕は誰かに操られているんだ。このもう一人の僕も、身体の中で今戦っているんだ。
「貴……様…ッ…邪魔を………“表”の俺…悪魔を斬れ!俺と一緒に!」
「えっ……」
「自分を斬るのに抵抗がある…だろうが……大丈夫だ、…お前の剣なら…悪だけを斬れる……ハズだッ……」
ぐ、と苦しみながらもう一人の僕は僕に訴える。時間がない、と叫ぶ彼を見て、僕は急いで弾かれた剣を拾った。剣を構える。するともう一人の僕はもうそこにおらず、悪魔が身体を支配していた。
「……フウ……こいつ…まだ意識があったなんてな…」
「…悪魔…!」
「おっと?俺様を斬る気か?貴様には無理だ!この世界と貴様の世界は表裏一体…つまりどういうことか分かるか!」
…分かってる。このままもう一人の僕ごと悪魔を斬れば。きっと僕もただではいられないだろう。こっちの世界での自分が死んだら、もしかしたら自分も死ぬのかもしれない。
でも、さっきもう一人の僕が言った。時間がない、と。僕の剣なら、悪を……悪魔だけを斬れる、と。
僕は自分を信じ…覚悟を決めて剣を構えた。すると、悪魔は怯えた様子で叫び散らし始める。
「ほ、本気か貴様は!!いいのか!貴様も消えることになるぞ!!」
「……僕は消えない。消えるのはお前だけだ…」
「や、やめろ…やめろ――――!!」
覚悟を決めて剣を構えると、剣はまばゆい光を放ち始めた。温かくて優しくて、そして強い光はもう一人の僕を照らす。すると、もう一人の僕は光を見るなり苦しみ始めた。
「熱い、熱い!それを向けるな!!」
一歩、また一歩と近寄ると、もう一人の僕の中にいる悪魔は後退りながらも笑い始めた。まるで僕が甘いのだと言いたげに。
「ば、バカめ!そんなに眩しければ貴様も何も見えまい!俺を斬るのは不可能だ!!」
「………」
ザシュッ
僕は、悪魔の入ったもう一人の僕を斬った。
「かッ…!…な…何故……」
「……サングラスのお陰だよ」
僕はサングラスをかけていたから、眩しくてもちゃんと斬れたのだった。斬られたもう一人の僕はのたうち回り、口から黒いものを吐きだして倒れた。その黒いものは、だんだんと風に吹かれる砂のように消えていった。
戦闘シーンの描写を精進したいものです。反省。