表と裏
レドニューで見たヒロアキ、そして地上で見たヒロアキ。
全く別人であった彼に困惑したタカシだったが……
マンホール国家
4 表と裏
「君!君!大丈夫!?」
「…う……」
目を開ければ、目の前にはレビルさんが。目を開けた僕を見てはぁー…と安心したように溜め息をついた。あ、さっき案内してくれた彼女も一緒だ。…じゃあレドニューにまた戻ってきてしまったんだ。
「良かった…まさか暴動の攻撃に巻き込まれるなんて…」
「あ…ごめんなさい、僕…」
「どうして彼を外に出したの!」
「え、いや、私は……」
彼女はおどおどとし、目に涙を溜め始めた。僕が、僕が待っていろと言われたのに勝手に出たから、彼女は悪くないんだ。
「レビルさん、僕が勝手に出たんです。彼女は悪くないです」
「…!」
「……そう。じゃあ下がっていいわ、キヅハ」
彼女は…キヅハさんは今にも泣きそうな顔をしていたが少し驚いたような表情をしながら部屋から出ていった。どうやら僕は石を頭にぶつけられてそのまま気を失ったみたいだった。でもここは治療室じゃなく僕の為に用意されていた部屋だった。
「とにかく無事でよかったわ…やっぱり君は治りというか生命力がすごいわ」
「………」
「…君?」
「ああ、すいません…僕、名前思い出しました。…タカシです」
ぼんやりと考えていた。地表で最後に見たヒロアキくんの本の挿絵。頭の中にこびりついている。こっちの世界で見たヒロアキくんなら、きっと好みそうな絵だった。思い出すだけで少し震える。
僕の心には、なんとなくあることが浮かんだ。
「タカシくん、か。とにかく無事でよかった。…どうしたの」
「レビルさん、僕…この世界が一体何なのか何となく分かってきたんです。この世界と、僕の住む世界と……」
僕の考えはこうだ。 “地表の僕たちが生活する世界と時間を共有している地下の世界”であるレドニュー…時間も並行していた。この世界にはきっと僕の住む世界と全く同じ人物が住んでいるんだ。でも、地面の下…僕らが水面に近付けば顔が映るように、地面の下にも僕らと同じで違う“僕ら”がいるに違いない。地表と地下と正反対だから中身が正反対なんだ。きっと。僕はそう思う。大体の人は普段“本当の自分”を隠しているから、こっちの世界だとそれが反映されるのだろう。
まだヒロアキくんしか見ていないし、この考えは正しいかは分からないけど…僕はそんな気がする。ということはこっちの世界の人に問題があるというときは地表のその人に何か問題がある事なんじゃないか、と。
しかも僕は地表で眠っているとき(気絶しているとき)は地下へ、地下で眠っているときは地表へ意識が戻るみたいだ。だったら…
「行政隊長と同じ人を地表で見つけて、どうにかその人の問題を解決すればきっと行政隊長も昔のように戻ると思うんです」
こうして表と裏を移動できるのはきっと僕しかいないんだろう。だからそれが僕の出来ること。それを成功させればきっとレドニューは元通りになるんだろう。
「だから、僕…あっちの世界の行政隊長探してきます。なので顔を教えて下さいませんか」
「……そのことなんだけど…私も見たことがないのよ、行政隊長」
「え……」
どうやら行政隊長の顔を知っているのは支部ではなく本部の上層にしかいないらしく、全く謎らしい。このままだと手探りでの作業となるけど僕の住む街だけでもかなりの量の人はいるし不可能に近い。じゃあどうすれば…
「実はどこの行政隊支部も本部への地下通路が繋がっているのよね。普段はあんまり使ったらいけないんだけど…しかも上層となるとかなりの潜入が必要になる」
「…じゃあ無…」
「でもタカシくんは小柄だからきっと出来るわ。潜入向きだもの。」
確かに、学年の中でも少し小柄な僕。…え、ちょっと待ってくれ。今レビルさんは何て言った?潜入向き?まるで僕が潜入するかのような言い方だ。冗談じゃないぞ、僕は体育はあまり得意な方ではない。
そもそも、僕はただの男子高校生だ。全くの素人なんだ。そんな、潜入なんてできないだろう。
「えっ、ちょっと待ってくださいよ、僕は……」
「さあ、そうと決まれば支度をしよう。君用にサイズを調整しなければならないし。」
僕は、レビルさんに強引に腕を引かれ、倉庫の方へと連れていかれたのだった。
主人公である僕、及びタカシは本当に冴えないごく普通な小柄な男子高校生です。さて、これからどうなっていくのでしょうか。