始まり
「わたし、鳥になりたいわ。でも鳥かごの中でピーピー鳴くだけの鳥は嫌よ。広い空をバサバサと自由に飛び回れる鳥になりたいの。」
行きつけの喫茶店。窓際で日当たりの良い僕のお気に入りポジションで昼食をとっていたときだった。別に聞き耳を立てていた訳ではない。そもそも人の話を横聞きするような趣味は生憎持ち合わせてもいない。
それでも確かに聞こえた。いや、聞こえてしまった。しっかりと、はっきりと。
鳥になりたい。僕も小さい頃にそんな内容のファンタジー映画を観終わった後にそんな気持ちを抱いたことはある。あとは、机の上に置いてきた山積みの課題から目をそむけようと現実逃避をしたときくらいか。
しかし、結果から言えばそんなことは不可能だ。人間として存在している以上それはかなわない夢なのだ。空を飛びたいと努力して飛べるなら、過去の偉人も飛行機を作ろうと頭を悩まさず、翼を羽ばたかせるための筋力を身に着けたはずだろう。
そんな夢物語をどんな人物が話しているのかと声の聞こえた方に視線を向けてみた。そこにいたのはこの喫茶店の近くにある高校の制服を着た少女だった。店のカウンター席に腰かけ真向いの店主に身を乗り出しながら話しかけている。店主は表情こそあまり変化は見られないが、細い目の横に店主独特の微笑みによりできるシワがあるので、少女の話を心から聞いてあげているのだろう。そもそもここの店主は例え僕が「ドーナツが好きだからドーナツ屋さんになる!」とか大学生にもなってそんな子供じみた話をしても同じように話を聞いてくれるはずだ。背は高いがひょろりとした外見で髭を蓄えていかにもマスターと言える服装に身を包んでいる店主は温厚な性格で知られている。中には店主に話を聞いてもらいたいからと喫茶店に来る人もいるくらいだ。
「ひとつ確認しても良いかな?」
少女が話に息ついてミルクを入れて色が変わったアイスコーヒーを飲み始めたときだった。それまで話を聞きっぱなしの店主が質問を投げかけたのだ。少女をそれに対してかまいませんよと一言返した。
「きみは空を飛びたいのではなく、鳥になりたいのかい?」
正直僕はその質問は必要かと疑問を抱いた。仮に僕が女性から鳥になりたいと、鳥のように自由に空を飛びたいと言われたら「そうなんだ、空を飛びたいんだね」と飛ぶことに関して話を拾う。だが店主は鳥になりたいという部分をピックアップしたのだ。そう返された少女はほんの少し驚いた表情を見せたあと、ぱっと表情を笑みに変え返答した。
「そうね。わたしは鳥になりたい。もちろん空も飛びたいわ。けれど空を飛べることも含めてわたしは鳥になりたいの」
はじめまして、オシノと申します。この作品のこの話が初投稿となります。小説を投稿してみたいという思いのみで始めてしまったので、まだまだ構想が完成してないままスタートしてしまいました。私の日常事情で投稿のスパンも安定しないかもしれません。まあ、初めての投稿で私の作品を心待ちにしていただける方が現れるとは自分自身思えませんが、少しでも見ていただければなと思います。今後よろしくお願いします。