エピローグ
卒業式が間近に迫った。
俺は、大学へ進学する事に決め、希望大学への入学が決まっていた。
春になったら、この家を出よう。両親が無くなってら、一人で住んでいたが、やっぱり広すぎる。今まで一人で住んでいた事が不思議でならない。
祖母が此方に来てはどうか。と言ってくれたが、今更な気がする。心配してくれるのは、嬉しいがもう子供ではない。
引っ越しの準備の途中で、居間にあるL字ソファーの短辺へ座る。
チクリ。
今まで暮らしていた家。そこを離れる事が寂しいのではない。
オカシイ。
数ヶ月前に祖母の家へ行ったはいいが、風邪を引いたらしく暫く寝込んだ。その後からだ。
・・・何かが足りない気がする。
・・・誰かを呼ぼうとして、それが誰なのか分からない。
ホームルーム時の出席確認。俺の名前が呼ばれれ、次の井川が呼ばれる。誰か足りなくないか?いや、このクラスになって、聞きなれたはずの順番だ。
・・・そのはず、だよな?
人と接するのは苦手なだから一人でいるのは馴れているはずなのに、何処か違和感があって、その違和感が何なのかが分からない。
壁に立て懸けてある鏡をなんとなく覗く。
見慣れたはずの自分の顔。真っ黒の髪をちょっと弄ってみる。
鏡の中には、真っ黒な髪の真っ黒な眸の自分が、此方を見つめていた。何もおかしな所はない。いつも通りだろう・・?
そんな小さな違和感。気にしなければ、何という事もない。
しかし、心が空ろになった感じだった。足りないもの、求めてるもの、忘れているものが分からないジレンマ。
そんな空ろを抱えたまま、ただ忙しく日々が過ぎて行った。
満開ではないが、咲き始めた桜の花に迎えられ、入学式を行う大講堂を目指して大学校内を歩く。
大講堂の近くまで来ると、そこに1本だけ離れて、しかも1本だけ満開のサクラが悠々と枝を広げていた。
不意に風が吹いた。サクラの花びらが舞う。
白い花弁は、ユキのように舞い落ちてくる。
「この木だけ満開だね。」
後ろから、声を掛けられ、少し吃驚した。細めた眼を声のした方へと向ける。
トクリ。
何か言い知れない感情が、心の奥底から湧いてくるようだった。
トクリ。
柔らかそうな長めの髪を掻き上げた綺麗な顔の男は、優しげに微笑んだ。




