困惑
自分の部屋の前を素通りし、今は誰にも使われていない二階の最奥の部屋、両親が使っていた部屋のドアノブを握る。
握ったその手が、一旦離れる。しかし、深く息を吸い込むと、もう一度ドアノブを握った。今度は、ゆっくりと回し、扉を内側へ開く。
入って直ぐ脇の壁にあるスイッチを手探りで見つけ、数年ぶりに明かりを点す。
厚手の遮光カーテンで遮られて、昼間でも日の光は入ってこない。
使われなくなって、久しいことがよく分かる。床や寝具、家具には薄らと埃が積もっている。それらを一瞥し、反対側、入り口側の壁際にあるクローゼットの方へ進む。
乱雑に荷物をあさり、目的のものを見つけ出した。
・・・古いアルバム。
目を閉じ、記憶を探る。覚えている限りでは、写真を撮ったことなどなかった。覚えていない幼い頃。それくらいのモノならあるかもしれない。
ゴクリ。
唾を無理やりにも飲み込む。咽喉が乾いた感覚がある。どうやら緊張しているらしい。
浅く息を吐出し、アルバムを開く。
最初のページ。
白っぽい壁にクリーム色のカーテン、それに清潔そうなベットに横たわり、照れたように笑う母親と、生まれたばかりの赤ん坊が写っていた。
・・・俺?・・・母さんは、こんな風に笑えたんだな。
見たことのない母親の表情。目的と違う所で、意外な発見をしてしまった。
気を取り直して、次々とページを進めていく。
アルバム1冊。それを埋め尽くすだけの写真は、撮られることがなかった。後半部分には、何も挿まれてはいなかった。
最後に撮られた写真。幼いころに住んでいた祖母の家、その家の前で黄色い園児バックを斜めに肩掛けし、子供らしく笑って、ピースサインをしている。
黒い・・・。
髪も眸も・・・・。
そして、一緒に仲良くピースしているのは、間違いなく・・・。
その写真を取り出す。写真を裏返す。
―――蒼と雪也くん、5歳の秋。
森の中、ヤマザクラの木の根本で蹲って泣いている、幼い雪也。
――見つけた。ユキ、帰ろう。
――うっ。うう。ソウ・・・。ううううぁ。
――大丈夫だよ。お家帰ろう。
ずっと見守ってやるからな。突然、聞こえた声。一陣の風が吹き抜ける。
さっきまで咲いていなかったヤマザクラが満開になっている。真っ暗な筈の森の中で、ヤマザクラが淡く光を放っていた。白い花弁が舞う。
一瞬、俺の頭に幼いころの記憶が蘇った。
「あ・・・なんだ・・。この記憶は、俺の記憶?」
雪也と会ったのは、小学校だったはず。小学校に入る頃に、離婚した母親の実家のあった、ここへ来たはず・・だよな。
じゃ、その前は?
そして、森・・・。




