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白雪の桜  作者: 鷹真
6/9

発覚

 夕焼けが眩しい。

 秋月家の前にある公園、その園の隅に西向きに設置されているベンチに座って、記憶を辿ってゆく。

 思い出せそうで、思い出せない。

 ・・・大切なモノ。それから、忘れてはいけない事。

 僕は、人が怖い。どうしようもない。

 人に見つめられると、足が竦む。息が出来なくなる・・・。

 でも、蒼と雪也。この二人だけは違う。怖くない。雪也に関して言えば、いつも微笑んでいるから・・・かな。蒼は、不機嫌に睨む時もある。でも、僕を否定していない。

 楽しかった。蒼の家に居れるようになって、本当に心地よい。このまま、ずっと。

 ずっと、このままでいられたらいいのに・・・。

 はっ。として、俯き加減でいた顔を上げる。

 知っている、この感覚。心地よい僕の居場所、守りたかった。

 ・・・なにを?・・・なにから?

 公園内には、もう既に人気はない。もう少し時間が早ければ、学校帰りの子供たちや、無駄話を繰り返す主婦たちがいた事だろう。

 しかし、既に太陽は、朱の軌跡を残して、自身の姿はほとんど隠れそうになっている。そこに、濃紺の夜色が浸食してきていた。

 

 女の手が動く。握られていたソレが、良く見えた。小型のナイフだ。

 ゆっくりと振り向いて、そして笑っている。嫌な笑い方だ。

「あなたの大切なモノを壊したいの。」

 は?なんだそれ。

「あなたが、私の大切な家族を奪ったのよ。だから、今度は、私があなたの大切なモノを奪うの。壊すんの・・。」

「言っている事が、良く分からないんだけど・・。」

 ナイフを突き付けられているはずの雪也が、場違いなほど間延びした声で言った。あまり動じていない様に見える。

 鈍いのか、大物なのか。

 女は、キッと雪也を睨んで、ナイフを雪也に近づけた。

「や、やめろ。」

 理由が分からないが、マズイ状況である事は変わらない。

 俺は、何かしたのだろうか?

「あなたが、殺したのよ。・・・13年前、あなたの所為で。」

 13年前?5歳?5歳の時、俺は人を殺した?

 キツク睨む。此方を向き直したはずの女の視線とは、重ならなかった。女の視線は、空中を彷徨う。焦点がズレている。

 ・・・こいつオカシイのか?

 女が言う。13年前、忌の森にあなたは入った。決して入ってはならない、忌の森の理を侵してしまった。その所為で鬼が、そこに住む鬼が下りてきてしまった・・・と。

 俺は、5歳の頃に突然高熱を出して、数日間魘されていた。その前後の記憶は、ほとんどない。覚えていない。気が付くと、元々、祖母と住んでいた家から、逃げるようにして現在の家へ両親と共に引っ越していた。

 それから、俺は、人が煩わしくて。・・・いや、怖くて。

 グレーの髪と目。ソレをみる人々は・・・。俺は、無意識に見ない振りをした。心を閉ざして、己を守った。

 両親は、守ってくれなかった。父は、年を越すごとに、家へ帰って寄り付かなくなっていた。そして、遂には帰って来なかった。母は、俺にいつも怯えていた。怖いものを見るような目を向けてきた。最後は、自身が壊れて事故を起こした。

 あの高熱は、森に入ったから?

 じゃ、下りてきたって鬼は?・・・俺の中・・・?

「なーに莫迦げた事を言ってんの?はあ。オニ?オニが怒って、あんたの所の家族を殺したって??いい加減にしなよ。森に入ったからといって、なんであんたの家族が殺される?あんたの家族になんの関係がある?それに、森に入ったのだって・・。」

 逆恨みもいいところだ!と、いつもヘラヘラしている雪也とは、別人の様な顔をしている。・・・怒ってる。

「う・・・うるさい!!家は、代々、森を管理してきた。父は、森に入ろうとしたそいつを止めたんだ!それなのに、無理やり森に入った!!だから、だから。」

「お前の目的は、俺だろ、ユキは関係ないじゃないか。」

 俺に恨みがあるなら、俺を狙えばいい。なぜ雪也を?

「あたしと同じ苦しみを与えてやる。・・・うふふ。ふふふふ・・。」

 壊れたように笑いだした。その手のナイフを雪也に向けたままで。それから、彼女は言った。

「もうちょっと、追いつめてからにしたかったのに。折角近づこうと思って、メールしてたのに、あなた。変えちゃうんだもの。」

 あの迷惑メールは、こいつか。何を考えているのか。

「でも、観察しててわかったのよ。あなたの大切なモノ。壊しちゃった方が、楽しそうじゃない?・・ねぇ、そう思わない?」

 不気味に笑っていた顔がゆがんだかと思うと、手に持ったナイフを振り上げる。刹那、俺は考えるよりも先に体が動いていた。

 並んでいた机を蹴り倒し、女を掴んで、脇へ押しやる。そして、雪也との間に身を滑り込ませた。

 ・・右腕に痛みが走った。

「蒼!!」

 雪也は慌てて叫んでいる。

「大丈夫だ。ちょっと掠っただけだ。」

 右腕の制服が切れて、その隙間から、赤い鮮血が滴っていた。

「お前!ふざけるなよ!!」

 遂にキレた雪也が女に飛び掛ろうとした、その時、廊下から数人が走ってくる足音が聞こえてきた。

「早く消えろ。」

 人が来る前に、ここから出ていけ。と、俺は女に言った。

 しかし、女が逡巡している間に、教室の扉が開かれ、数人の教師が中へ飛び込んできてしまった。

 俺の腕を見て、それから彼女の手に持っているナイフを見て、2人の男性教員が彼女を取り押さえ、ナイフをもぎ取る。

「蒼、大丈夫か?」

 雪也が心配そうに、切られた腕を見る。良かった。雪也は無事のようだ。

 オニ・・・。その言葉がグルグルと頭の中を廻っていた。


 いつものようにリビングで、テレビを見ている。

 おかしい。

 学校から帰って来た蒼の制服の腕の所が切れていた。そして、腕には白い包帯が巻かれている。

 どうしたんだろう?

 蒼があまり喋らないのは、いつのもこと。最近は、ちょっと話すようになったけど。雪也に関しても、ま、行動はいつも通り。

 しかし、何か空気が変だ。

 妙な違和感というか、小さな棘が刺さってるみたい。

 何があったのか気になる。でもそれを質問する事を拒まれている気がする。僕には、関係がない事だから・・・?

 いつにも増して眉間に皺を寄せて、黙り込んでソファーの端に座っていた蒼が、何かを思い出したかのように、ハッとして、立ち上がった。

 雪也も気づいて、

「蒼?どした?」

 蒼は、それに答えることなくリビングを出て行った。階段を上がる音がする、自分の部屋へでも行ったのだろうか。

「機嫌悪いの?蒼は。しかも、あの怪我はどうしたの?」

 雪也に向かって、質問するが、雪也は困った顔で肩を竦めた。

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