記憶
・・・見守っている。
はっ。
一瞬にして、目覚める。
・・・夢か。また、同じ。
最近、ハルと出会ってから頻繁に見るようになった。
そこは、・・・・。
木々が生い茂る森を彷徨っている。
・・・ここは?忌の森?
明るいのか、暗いのか、分からない。
流れる汗を拭う事もせずに、ただ只管に奥へ奥へと・・・。
なぜこんな所に居るのか。
滑る足元には、湿った苔と疎らに生えた雑草。朽ちた木の枝。頭上を覆い尽くす、無数の木々の根。
視界に入るのは、それらだけ。聞こえるのは、風の音。
心に響いてくるのは・・・・。
枯れそうな老木が、咲いている。
満開に咲き誇るヤマザクラ・・・・。舞い落ちる花弁は、白い雪のよう。
温かく、優しい光に包まれて・・・・・。
軽く頭を振って、上半身を起こし、カーテンの隙間から外を覗く。
まだ暗い。
ベットの枕元に置いておいた、携帯電話を開いて、現在時刻を確認すると、3時を少し回ったところだった。
ふぅ。
嫌な夢ではない。少なくとも、怖くもない。不快でもない。
しかし、単なる夢とも思えない。視線の高さから、俺が子供である事は間違いないが、あんな森に行った記憶はない。
忘れているだけだろうか?
携帯電話を閉じ、枕元に無造作に投げる。そして、布団にもう一度潜るが、目が覚めてしまった。
俺は、きつく目を瞑る。
※
暗い部屋の中で、雪也がゆっくりと口を開いた。僕の方に体が向いたのは、身動ぎをする音で分かった。
「蒼は表すのが下手なんだよ。」
僕が先程、蒼はいつも怒ってるみたいだね。と言った事に対する返答だろうか。
そのまま、話始めた。
昔、まだ小さい頃で、なんでそんなところに行ったのかは覚えていないけど、森の奥へ入ってしまって、気が付いた時には周りの景色は木ばかりで、辿ってきた方向が分からなくなってしまって、迷子になっちゃったんだ。寂しくて、怖くて。
蹲って、泣いてたらね、蒼が見つけてくれたんだ。
「見つけた。」
蒼は、泣いている俺の手をギュっと掴んで、ユキちゃん帰ろうって。
懐かしそうに、嬉しそうに雪也は話してくれた。そして、きっと、蒼は覚えていないだろうけどね。と付け足して、
「蒼はさ、あんま心開かないから、友達いないじゃん?」
せめて俺だけでもずっと友達でいよう、傍にいようと思ってるんだ。と言った。
・・・蒼も怖いのかな?
僕は、人が怖い。不思議なモノを見るように、奇異の目で見られる。そして、忌わしいものを見るような・・・・。
僕は必死に震えそうになる手をギュっと握り込んで、耐えた。
「大丈夫。」
えっ。僕が考えていた事に返答するように雪也が呟く。
大丈夫。・・・そうだね。
もう、大丈夫。
※
雪也とハルが家に居座ってから、数日が過ぎた。
俺と雪也は、学校に来ているが、ハルは何をしているのか。本当の家族が心配しているだろうに。
・・・。俺はいつから人の心配をするようになったんだ?
放課後、帰り支度をしていると、担任教師に呼び止められ、教室の片隅に放置されていた地理の授業で使った地図を片づけてくれ、と頼まれてしまった。他の生徒は、既に皆教室から出ていた。
地図を社会科準備室に片づけ、もう学校に様は無い。鞄を取りに、教室の前まで歩いてくると、教室の中から話し声が聞こえた。
それに構わずに、扉に手を掛けて、一気に開く。
「あ・・。蒼。」
そこにいたのは、此方側に顔を向けている雪也と・・・。背を向けているのは。
知らない女だ。制服を着ているから、この学校の生徒なのは間違いないだろうが、同じクラスのメンバーでさえも覚えていない俺は、全く見覚えのない後ろ姿。
女にしてはやや背が高めで、肩甲骨あたりまで伸びてる髪は、茶色に染められている。
「邪魔したか。」
いや、おかしい。
「何してる。・・・何、持っている。」
その女の手、その中で何かが窓から入る光を反射して、煌めいている。
俺は、咄嗟に雪也に近づこうとして、教室に踏み込んだ。




