交錯
透き通るように広がる晴れた青空。小春日和。
「そぉう~。おはよう。」
にこやかに雪也が近づいてくる。
俺の席は、窓際の一番後ろのベストポジションで、雪也の席はその反対側、廊下側の前の方ではなかったか。
にも関わらす、この晴れ渡る青空の様な爽やかさで微笑みながら俺の席の前、まだ登校していない生徒の椅子へ腰掛けた。
「何だ。」
昔から、いつも俺の近くにいたが、ここ数年、以前にも増してやたらと俺に纏わり付いてる気がする。
雪也ファンの女子がチラチラと雪也を盗み見ている。
・・・鬱陶しい。
「お前さぁ。ケータイ貸してみ。」
雪也は、右手の手のひらを上に向けた状態で、その手を上下に動かし、携帯電話を出せと急かす。
「・・・お前だろう?」
俺は、そんな雪也を見据えて、あのメール女にアドレス教えたのはお前だろうと確信して言った。どれほど迷惑だった事か。
「え?俺じゃないよ。」
どうやら犯人ではないらしい。すっかり、雪也の所為だと思い込んでいたが、予想が外れた。
では、どうして・・。
数日前を懸命に思い出す。少年を拾うより前・・・。
・・・まさか、あの時?
俺の携帯電話が紛失した事があった。
結局、何処かに落としていたらしく、他のクラスの女が教師へ預けて、それを教師から返してもらった。誰が拾ってくれたかは、確認していない。
誰でもいいと思ったから。
「あれ?なんだろ??」
今更どうでもいい事を思い出していた俺に、雪也の疑問符付きの言葉が聞こえた。
雪也の視線を追って、外、正門の方へ視線を遣る。
刹那・・・我が目を疑った。
俺の目が捉えているモノは、数日前の深夜に公園前で拾って、次の日に追い出した、あの少年が映っている。しかも、がっつり校門にしがみついている。
怪しいぞ・・。かなり不審者に見える。
気がつくと俺は、勢いよく立ち上がってしまっていた。雪也がポカンと俺を見上げていた。
その口が開く前に、俺は教室の後ろのドアを蹴破るが如く開けて、脱兎の如く廊下に飛び出した。
何も考えていなかった。
少年・・ハルは、登校してくる生徒たちに怯えているのか、人が近くを通るたびにビクッと肩を竦ませている。そして、俺を見つけると安心したように表情が緩んだ。
そんなハルの腕を掴んで、校門から、外の方へ、あまり人が通らない路地の方へ引っ張って行った。
「何をしているんだ。」
辺りに人が見えなくなると、立ち止ってハルに詰め寄った。
ハルは、俺を探していたと言った。
・・・なぜ?
疑問に思って、訳を聞こうとしている時だ。
「よーし、じゃ蒼ん家行こう~。」
予想外の声が、後ろから聞こえてきた。雪也の声。
「ユキ。お前、」
何で付いて来ているんだ。と、振り返って睨んだが、既に俺を見ていない。逆行で良く見えないが、ハルの顔を見ているであろうことは分かった。
ちょっと泣きそうな、困った様な表情・・・。
と、見えたのは、思い違いか。近づいて来た雪也の表情は、いつものゆるーい笑顔だ。その手に二つの鞄を持っている。
現在、秋月家のL字型リビングソファーの短辺に俺が座っている。長辺の端には、雪也が長い脚を優雅に組んでニコニコしている。
で、間には、少し居心地悪そうにしているハルが座っている。
言いたい事は、沢山ある。疑問に文句。
大体、なぜ家なんだ。
・・・まぁ、それは分かるか。
秋月家の住人は、俺一人。他の家族は、誰もいない。そして、平日昼間っから、制服着て行けるような所はない。
しかし、面子がオカシイだろ。
「ユキ。なんでお前まで・・・。」
引きつりそうな頬を何とか堪えて、雪也に質す。
「いいじゃないか。ねぇ。俺、雪也。君は?」
ニコニコしたまま、ハルに話しかける。
ハルは、一瞬、ビクっとしたが、雪也の笑顔に安心したのか、やや笑顔になりつつ自分の名前を言った。
「で?」
何か忘れ物でもしたのか?と聞いてみたが、首を横に振る。
言葉を言いかけて、止める。・・・俯く。そんな事を何度か繰り返して、チラリと雪也を見てから、言葉を発した。
「僕、帰る処・・・ない。」
はい?
思わず、雪也を見てしまった。雪也はいつもの笑顔に、少し驚きの表情が混じって、少し変な顔になっていた。
「僕、ずっと探してるんだ。」
※
探してるんだ。・・・何か、大切なモノを。
僕は、何を探してるんだろう?ずっと探してるはずなのに。
僕の両サイドに座った二人、蒼と雪也は、顔を見合わせて明らかに困った風な様子をしている。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
気持ちばかりが焦ってしまう。探さなきゃ。時間がない。
探しているもの・・・分からないけど、早く探さなきゃいけない気がする。きっと、消えてしまう。無くなってしまう・・・また。
答えあぐねていると、雪也が助け舟を出してくれた。
「んー取りあえず、ここに居れば?」
「おい!ユキ!!」
ただでさえ、怖そうな顔の蒼が目を眇めると、より一層怖い。
「蒼ぅ~。お前、カオが怖いよ。怖がってんじゃん。」
あ、バレてた。
チラリと蒼を盗み見る。・・・あ、大丈夫。そんなに怒ってない。
盛大な溜息とともに、事情が良く分からん、話せ。と、僕に言う。
「僕、覚えてないんだ。何かを探して、フラフラしてて、それで、その公園のまで来たのは、なんとなく覚えてるんだけど、探したいモノとか、帰る処とか・・・わからない。」
そう言うと、二人同時に記憶喪失?と首を傾けた。
「じゃ、病院?警察?記憶喪失の迷子だろ?」
蒼が首を捻りながら言う、僕は慌てて止めた。
「だ、だめ。ダメなんだ。」
「どうして?」
・・・どうしても。たぶん、どうしても。
答えられなくて、また俯いてしまった僕の頭に、温かい手の感触が伝わってきた。
ポンポンっ。とその手、雪也だ。
「はぁ。記憶が戻るまでな。」
答えたのは、蒼だ。またもや盛大な溜息つき。
「じゃ、俺も泊るぅ~。」
思わず、二人を交互に見てしまった。ニコニコしている雪也。顰め面だが、何も文句を言わない蒼。
この二人は、すっごい仲いいんだ・・。
冗談だと思っていたのに、雪也が泊るのは本気だったらしい。一旦、居なくなったと思ったら、でっかい荷物を抱えて戻ってきた。
「いつまで居るつもりなんだよ、お前・・・。」
呆れたように、雪也にむけて言うが、そんなに迷惑そうな感じでもない?嬉しいとかじゃないけど、嫌そうでもない。よくわからない。
でも。
この二人は、大丈夫。怖くない・・・というか、―――みたいだ。
―――?僕は、何みたいだと思ったんだろ?
いいか。とにかく僕の。
僕の居場所が出来た。




