僕の彼女
僕は亘理さんの部屋に居た。
ここに来るのはコックリサンをした時以来だけれど、あの時と全く変ってはいなかった。
「おはよう、浅木君」
亘理さん声に振り返ると、全裸にシーツを巻いた彼女がベットの上に寝ている。
「うわっ。何て格好してるんだ!」
「うふふ。脳死した?」
それを言うなら悩殺だけれど、童貞の僕には悩死も有り得る。
「そんな格好して恥かしくないのか!?」
「大丈夫、これは夢だから目が覚めれば全部忘れているわ」
そう言ってシーツを脱ぐと、裸体と共にとんでもないものが出てきた。
「それで僕に何をするつもりだ……」
「心配しないで、浅木君はこれ4回目だから」
「もうそんなにしてるのか!?」
うふふと怪しい笑みを浮かべながら、それを持って僕に迫ってくる。
「や、やめろ……やめてくれ。来るなあぁぁぁ……」
おかるとかのじょ
目が覚めると汗でシャツがびしょびしょになっていた。何か悪い夢を見ていた気がするけれど、内容は全く覚えていない。最近、決まって日曜日になるとこんな事が起きてしまう。一度亘理さんに相談した方が良いかなと思い携帯電話を開けるとメールのアイコンが光っているのに気付き、それを開く。
「12時に駅前の喫茶店に来て頂戴」
亘理さんからのメールだった。そのまま携帯のデジタル時計に目を移すともう11時を回っている。すぐにでも家を出ないと間に合わないけれど、汗まみれでは行くに行けず急いでシャワーを浴びて着替えた。その頃には11時50分になっていてもう完全に遅刻してしまう。急いで家を出ようとする僕を母親が呼び止めた。
「ちょっと裕也――」
「ごめん、急いでるんだ!」
母親の言葉を聞かず僕は玄関のドアを開けた。
駅前の喫茶店に着くとさすがに日曜日の昼時なだけあって盛況だった。家族連れもかなり多く席のほとんどが埋まっていて、亘理さんがどこにいるか一見分からない。けれど彼女には分かり易い目印があるのを僕は知っている。ぐるりと見渡してタワーパフェが置かれている席を探す。案の定奥の席にポツンと1人でそれを食べている女の子が居て、彼女は僕に気付くとそれを口に運ぶ手を止めた。
「私を待たせるなんて勇気があるのね」
僕は息を切らせながら亘理さんの向かいに座った。
「ごめん、何か変な夢を見ちゃって……」
「あら。私のせいにしないでくれる?」
「え? 亘理さんのせいには――」
僕の言葉を遮るように携帯が鳴った。画面には母親の名前が出ている。
「私といる時は携帯を切っておきなさいと、いつも言ってるでしょう」
「無茶言うな」
と電話に出る。
……もしもし。え? ああ……今から? ……分かった。
「誰から?」
亘理さんが目を細めて僕を覗き込む。
「母さんから。ちょっと駅まで親戚を迎えに行かなくちゃいけないみたい」
先約は私なのに。と頬を膨らます彼女だがおそらく本当の先約は親戚だと思った。タワーパフェを残している彼女を連れていくのは可哀想だし、喫茶店から駅まではすぐ近くなので住所を教えたあとはタクシーでも使ってもらえばいいと思い、僕は1人で駅に向かう事にした。
喫茶店は駅の目と鼻の先にあるのですぐ到着した。その親戚に会うのは何年ぶりだろう? 幼い頃は近所に住んでいて同い年だった事もあり、よく一緒に遊んでいたものだったけれど、僕が親の転勤と共に引っ越してしまってから会う機会がなくなってしまっていたので面倒だと思う反面、会うのが少し楽しみでもある。
「ゆう君!」
そう言って手を振る彼女が僕の親戚、水沢香苗だ。パッチリとした瞳で僕を見る彼女は白いブラウスを着ていて、しばらく見ないうちにずいぶんと大人っぽくなったような気がした。特に胸が大人っぽくなっている。うん。間違いない。
「カナちゃん、久しぶり」
「久しぶりだね! ねぇ、どこかで一緒にご飯食べようよ。お腹すいちゃって」
お腹が空いているのは同感だけれど、喫茶店に亘理さんを待たせているのでそれは難しそうだ。
「ごめん、あそこの喫茶店に彼女を待たせているんだ」
「えっ!? ゆう君彼女いるの!? 見たい!」
というわけで昼食も兼ねて亘理さんのいる喫茶店に連れて来てしまったのだが、この天真爛漫で元気一杯の彼女が亘理さんの逆鱗に触れるような事を言わないのを僕は祈った。
「それで連れて来ちゃったのね」
「ごめん……」
僕とカナちゃんは亘理さんの向かいに座っていて、テーブルにはパスタが3つ並べられている。
「初めまして彼女さん! 水沢香苗です!」
「……亘理、です」
亘理さんのイライラが僕にひしひしと伝わってくる。針の蓆とはよく言ったものだ。
「(ねぇ、何か彼女暗くない? 嫌な事でもあったの?)」
それは過去形ではなく現在進行形だ。
「亘理さんは、ゆう君のどこが好きなの?」
突然の質問だったが、そう言われると僕もその答えが気になる。亘理さんはあまり人と馴れ合うのが好きなタイプではないから(一部を除く)それを聞いた事はなかったけれど、彼女は僕の何が良くて付き合っているのだろうか?
「私には殺したくなるくらい生理的に受け付けない人間がいるわ。見るだけで虫唾が走り吐き気を催してしまい、未来永劫呪ってやりたくなるの」
僕はその人を不憫に思った。
「浅木くんはその逆……だから、どこが。と聞かれても困るわ。運命みたいなものよ」
僕は亘理さんの答えに感動した。優しいだとか一緒にいて楽しいだとか、そういうありきたりな答えじゃないのも意外だったし何かこう胸にグッとくるものがあった。うん。僕は照れながら頬を指で掻いて運ばれてきたパスタにフォークを通して、口に運ぶ。
「運命なんてとんだ勘違い女だね」
ん?
カナちゃんの言葉に僕の口元でフォークを持つ手が止まった。
「ちょっと見ない間に変な女に捕まっちゃったんだね、ゆう君」
「カ、カナ……さん?」
横目で僕を見るカナちゃんの瞳がスッと黒に染まる。こんな光景は亘理さん以外では見た事なかったけれど、カナちゃんのそれは亘理さんと全く同じで背中がぞくぞくしてくる。亘理さんはそんなカナちゃんを無表情で見ているが、心の中ではどんな事を思っているか想像もできない。
「ゆう君が彼女なんて言うから心配したけれど、騙されてるだけなんだね。さ、家に帰ろ?」
そう言ってにこりと笑ってその手で僕の腕を引いた。
「浅木君は今私とデートしている最中なの、勝手に連れて行かれては困るわ。あと、その汚い手を離しやがり下さい」
亘理さんが必死に怒りを堪えてるのが伝わってくる。もしここが喫茶店ではなく人気の無い路地裏であれば、きっと赤いペンキをぶちまけていただろうと思う。カナちゃんはそんな亘理さんに怯む事なく言う。
「デートは私が代わりにやっておくから安心して」
僕は安心できないが。
「それと、汚い手がダメなら――」
少し声のトーンを下げるとカナちゃんが僕の腕を大きな胸で挟むようにぎゅっと抱き締め肩に頬を寄せると、どうだと言わんばかりに亘理さんの方を見た。
「綺麗な胸ならいいのかな? 貧乳さん?」
「――!」
間髪入れず亘理さんが立ち上がると、その勢いで椅子が倒れた。
「あなた、何様のつもり?」
相当に怒ったらしく、テーブルに乗せた手が震えている。確かに亘理さんの胸はそれほど大きくはないけれど論点はそこじゃないだろうと思う。
亘理さんに触発されるようにカナちゃんも立ち上がる。
「あんたこそ、ゆう君を騙して何なの!? 私はゆう君の婚約者なんだからっ!」
いや違う。
「私は妻」
それも違う!
「私は離れていたって、ゆう君の事は何でも知ってるんだから!」
「私は近くで何でも知ってるから、私の勝ちね」
勝ち? 一体何の戦いが始まったんだ!?
僕はその場の雰囲気に飲まれ何も言えずに2人を交互に見る事しかできない。
「中学時代のバトミントンをしてるカッコイイ写真も持ってる!」
なぜ!?
「私はそれをDVDで持っているし、たくさんお世話になったわ」
僕のDVDに何の世話をさせた!
「部屋の本棚の裏にあるビデオだって知ってる!」
なんだと!?
「私はそれを使ってる浅木君のビデオを持ってる。今でもお世話になってるわ」
オイィィィィィィ!!
「ちょ、ちょっと待って!」
僕も立ち上がりテーブルを挟んで睨みあう2人の間に割って入った。このまま僕の柔らかい場所をドスドスと刺され続けると恥かしくて死んでしまう。それでなくとも、既に喫茶店にいる店員や他の客の視線が痛いほど僕等に集中しているのだ。
「僕が亘理さんと付き合ってるのは騙されているわけでも何でもない、普通に好きなだけなんだよ!」
言った……。やるな……。
などと、客や店員の冷やかす声が聞こえる。外野は何も知らないけれど亘理さんを怒らせると只では済まない。もはや手遅れかもしれないけれど、早く事態を収拾させないとカナちゃんの命が危ないのだ。下らない修羅場を楽しんでる余裕なんてない。
カナちゃんは僕の言葉に驚いたような顔してから、ぎゅっと握った拳を振るわせた。
「会えなかったけれど……ずっと……好きだったのに!」
そう呟くと喫茶店を飛び出して行った。カナちゃんはこの街の地理をよく知らないので追いかけないと迷子になるかもしれない。と思ったけれど亘理さんを置いて行くわけにもいかないし、後で携帯に電話すればいいと思い椅子に腰を降ろした。亘理さんも僕に合わせて座るとため息混じりに呟いた。
「変った子ね」
「亘理さんもね」
僕達はコーヒーとカフェオレを注文した。運んできた店員がにやにやしていたのは気のせいだと思いたい。カナちゃんに電話しても出ないので、母親に電話してみたところ既に家にいるらしく安心した。
「浅木君、私はそれほど怒ってはいないわ」
そう言ってカフェオレに口を付けた。
「そうなのか? 怒り心頭に見えたけれど」
「私から浅木君を奪える人間はこの世にはいないもの」
なるほど確かに言われてみればいないのだろうと思ったけれど、それは少し違う。正しくは「私から浅木君を奪える人間はこの世からいなくなるもの」だ。
「さて、浅木君本題が遅れてしまったけれど……」
カチリ、と音を立ててカフェオレのカップをソーサーに置くと、テーブルに身を乗り出した。
「今日はとっておきの魔法を教えてあげようと思って呼んだの」
「とっておきか。どんな魔法なんだ?」
「これを使ったら童貞が卒業できるかもしれないわ」
「ほ、本当ですか!?」
「簡単な呪文を唱えればいいのよ」
「ごくり……」
「まず私の目を見つめて」
「じ――……」
「これから僕の部屋に来ないか? と唱えるのよ」
おかるとかのじょ
魔法の効果によって僕と亘理さんは僕の部屋にいる。
まだ日は高いけれど、どうやらそういう状況らしい。さあどうぞ。と言って亘理さんはベットの上で手を組んで仰向けになって目を閉じた。こんな経験のない僕にはさあどうぞ、では何をどうしたらいいのか分からない。とりあえず服を脱がす必要があるのは分かる。僕はゴクリと唾を飲み込むと恐る恐る寝ている亘理さんの着ている服に手を伸ばした。
が、亘理さんの着ているワンピースの脱がし方が分からない。
事もあろうか僕はワンピースという衣服の構造をよく理解していない。とりあえず胸元のボタンに手を向けたけれど、ボタンは2つしかないので脱着のためではないのが分かる。たぶんそういうデザインなだけだ。その胸元から手を下げていくがワンピースはシャツとジーンズのように上下で分かれているものではない。このままでは裾の方まで行ってしまう。という事は……。
ワンピースの裾の部分を持って、ガバッとめくり上げるように脱がすしかない!
僕は激しく頭を振った。
いや待て。そんなバカな脱がし方はない。大体、初めてなのにそれは大胆過ぎやしないか僕!?
僕はじっと亘理さんのワンピースを見つめるが、どこにも隙が見当たらない。水も漏らさぬ鉄壁の布陣で僕をあざ笑うかのようだ。何で人類はこんな非機能的な服を開発してしまったのか悩ましい。亘理さんは完全に僕に身を預けてるように動かないが、肝心の僕がその身を持て余している。
くそっ。ここまで来て何もできないのでは僕は一生童貞だ。覚悟を決めた僕はそっと亘理さんのワンピースの裾に手を伸ばす。
そしてその端を指で摘みゆっくり捲り上げていき、亘理さんの綺麗な脛から膝へと徐々に肌を露出させていく。あまりの緊張に体が強張る。いや体も強張る。よくアニメなどで小学生がスカートめくりをしている描写があるがそんなものは18禁だと思った。更に裾を捲っていくと、亘理さんのふとももが露になってくる。他人がどう思うか分からないが、亘理さんのふとももは細すぎず太すぎず、僕にとってベストなむっちり感が漂っている。もうこの時点で頭がくらくらしてきていたが、ここで死ぬわけにはいかないと、ふとももの奥を目指す。
その時、あまりの緊張に震えた手が亘理さんのふとももに触れてしまった。
「あ……んんっ……」
亘理さんが微かに声を漏らし、もじもじしながらふとももを擦るように身を捩った。
くすぐったくて身を捩ったのだろうが、その姿は童貞の僕を瀕死に追い込んだ。このままでは目的は果たせないけれど果たされてしまう。そこから導き出される答えはもはや1つしかない。
(やられる前にやれ!)
僕はワンピースの裾を掴む手に力を込めた。
「させないっ……!」
その瞬間だった。僕の部屋のドアを蹴破りカナちゃんが入って来たのだ。そういえばカナちゃんが家にいると母親が言っていた事を今更ながらに思い出す。
「今助けるからね!」
と言ってベットに寝ている亘理さんに飛びかかった。すぐにパチリと目を開けた亘理さんはベットの上にあったシーツをカナちゃん目掛けて放り投げると、視界を奪われたカナちゃんがシーツを取ろうともがいている間に、真直ぐ僕のタンスの右から2番目の引き出しを開けベルトを手に持ち、瞬く間にカナちゃんをそのベルトで縛り上げた。
「何で僕のベルトのしまってある場所を知ってるんだ!?」
そんな事どうでも良かったが突っ込まずにはいられない。
亘理さんは僕を無視して、頭にシーツを被ったまま縛られたカナちゃんの体に足を乗せ見下ろした。
「あなたはここで、私達が愛し合うのを見てればいいわ。……ああ、聞く事しかできないのね」
うふふと悦に浸りながら歪んだ笑みを浮かべている。
やがてくるりと後ろを向くと、背中にあるワンピースのファスナーを降ろし始めた。
(そこか!)
と思ったが今更そんな事どうでもよかった。当然ながらこんな状況で続きをするなんて僕には無理だ。
ガタリと音を立て亘理さんのワンピースが床に落ち、下着姿をさらけ出したのだが、今の音はワンピース以外の何かが落ちた音に間違い無かった。亘理さんはその場で屈むと床に落ちたワンピースの中からとんでもない物を拾った。
「そ、それで僕に何をするつもりだ……」
「心配しないで、浅木君はこれ5回目だし、これは夢だから目が覚めれば全部忘れているわ」
うふふと怪しい笑みを浮かべながら、それを持って僕に迫ってくる。
「や、やめろ……やめてくれ。来るなあぁぁぁ……」
目が覚めると汗でシャツがびしょびしょになっていた。何か悪い夢を見ていた気がするけれど、内容は全く覚えていない。最近、決まって日曜日になるとこんな事が起きてしまう。一度亘理さんに相談した方が良いかなと思い携帯電話を開けるとメールのアイコンが光っているのに気付き、それを開く。
「12時に駅前の喫茶店に来て頂戴」
亘理さんからのメールだった。そのまま携帯のデジタル時計に目を移すともう11時を回っている。すぐにでも家を出ないと間に合わないけれど、汗まみれでは行くに行けないので急いでシャワーを浴びようと思った時、手に持つ携帯電話が鳴った。
「もしもし、浅木君?」
亘理さんの声だった。
「そこに私のあげたストラップはあるかしら?」
僕は携帯電話を耳から離し、それを見下ろすけれど……。
――ない。
どこかに落としてきてしまったのか? 亘理さんからもらったストラップがない。
「そう。電話を切らずに私の言う通りにして頂戴」
と言われ亘理さんの言う通りに姿見鏡と、500mlの空きペットボトルのフィルムを剥がして、 水道水を3分の2ほど入れたものを部屋に用意した。
「亘理さん、こんな事してたら時間なくなるよ?」
「なくならないわ」
何を言っているんだと携帯電話をを耳から離して時計を見たけれど、時間は11時を回ったところから動いていなかった。今でも携帯電話からもしもしと亘理さんの声が聞こえるし、携帯電話が壊れているようには思えない。こんな僕でも何かがおかしいと気付く。そう思うと家に、部屋に、僕に、全てに違和感を感じる。いや倒錯感だ。
僕は知っているんだ。今日の予定は亘理さんに喫茶店に呼ばれ、母親に頼まれ親戚に会う。そして……。
「うっ」
吐き気が込み上げてくる。
未来の記憶がある。という感覚は何と言えば伝わるか分からないが、強いて言うなら頭の中をかき混ぜて過去も未来も同じものにしたようだ。つまり記憶の時系列がめちゃくちゃなのだ。幼い頃の記憶も去年の事も、僕の頭の中では同時だ。
込み上げて来た吐き気を、何とか飲み込んで携帯電話を耳に押し当てる。
「亘理さん、これをどうするんだ?」
「まず姿見鏡に自分を写して頂戴、それからそのペットボトルで肩を何度か叩いて」
言われた鏡の前に立ち、とんとんと肩を叩いてみたが別段これといった変化はなかった。
「――どう?」
「どうと言われても何もないよ」
そう言いながら僕はペットボトルを机の上に置いた時、そのペットボトルの水が灰色に濁っているのに気付いた。振ったから気泡が……などと言うレベルじゃなかった。その灰色はまるでコンクリートのような濃い色をしているのだ。僕は焦った。
「わ、亘理さんっ」
「分かってる、そのペットボトルの水は適当に捨てていいわ」
この水を? どう考えても普通の水ではなくなっている。こんな物を洗面所などに流して大丈夫なのだろうか?
「浅木君の目にその水がどんな色に映っているか分からないけれど、それはただの水。それよりも鏡を見て」
亘理さんの言葉にペットボトルから姿見鏡に視線を移す。
そこには驚いた顔をしている僕の体に巻きつく蛇のようなものが写っていた。とっさに腕や体を見るけれど、そんな物じゃ見当たらず鏡の中にだけ、それは存在していた。
「亘理さんっ、蛇が!」
「大丈夫だから落ち着きなさい、だらしないわね」
そうは言われても落ち着いてなんかいられない。
「上手くいったみたいだし、後はその鏡を割って頂戴」
今の僕にためらいなど考えてる余裕も無く、携帯電話を机の上に置くとすぐに姿身鏡に手をかけると力一杯をれを床に叩きつけるように倒した。ガラスが割れるような音と共に鏡の破片が部屋に飛び散った。
「もしもし、浅木君? 大丈夫?」
携帯電話から亘理さんが僕を心配する声が聞こえる。僕はそれを手に取った。
「たぶん……大丈夫」
「そう。それじゃ早く起きてね」
と言って電話が切れた。
おかるとかのじょ
「いつまで寝てるの?」
亘理さんの声に目が覚めた。今日は日曜日で学校は休みなのだけれど、どうして亘理さんが僕の部屋にいるのか分からない。置時計に目をやるとまだ10時前だった。
「良い天気ね」
そう言って亘理さんが部屋のカーテンを開けると日差しが眩しい程に差し込んでくる。僕は思わず手でそれを遮った。
「なんでここに亘理さんがいるんだ?」
僕は手をかざしたまま聞く。
「私から浅木君を奪おうとする者を消すため」
「なんだそれ?」
僕の方をチラリと見て、うふふと笑うと窓際から離れ机の上のペットボトルを手に取ると、窓からその中身を外へ流してしまった。
「何を捨てたんだ?」
「邪魔者」
全く会話がかみ合わないのだが、亘理さんはそんな事は意にも介さずに僕をまじまじと見る。
「浅木くん、先に言っておくけれど……」
そして僕を指差して雄雄しく告げる。
「ワンピースのファスナーは背中についてるのよ!」
「そ、そうなんだ……」
今日も亘理さんは変な人だった。




