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おかるとな彼女  作者:
11/11

イヌのカミサマ(3)


まだ夕方だというのに、イヌガミはこの公園にいる。上機嫌にブランコに乗っているのだ。イヌガミとは言っても見た目は朝日なわけで普通の女子高生にしか見えない。ただ中身は人間ではない。亘理さんの抑止力のおかげで自由に動けないだけで憑き物なのだ。

「今日はどんな用事なんだ?」

「用事がないと会いに来てはいけないかな?」

ブランコに乗りながら足をパタパタとさせる。

「そんな簡単に朝日を自由にできるのか?」

「簡単さ。朝日自身が会いたがっていたのだからね」

「どういう事だ?」

「ふふ。アサギは何も分かっていないのだね」

朝日の頭にイヌのような耳がピンと伸び、腰から生えた白い尻尾を胸辺りで抱えた。

「イヌガミとは一体なにか?」

「・・・」

「ふふ。正直なのだね。アサギは蠱術というものを知っているかい? 蠱術、蠱道とも言われるのだけれど動物の霊を使役する呪詛だ。つまりワタシはその中でイヌを媒体にしたもののに過ぎない。所詮、ワタシという存在は蠱術なんだよ。アサギ。神様なんかじゃなく、人が作り出した呪いなんだ」

「・・・」

「ワタシは憑いた人の願望を成就させるようにできている。アサギ、つまりワタシがアサギを想う気持ちも全部、この朝日という女の願望なのだよ」

「待って。それは亘理さんの願望じゃないのか?」

「元々はそうだった。そうだったはずだ。けれど、偶然にもそれが一致してしまった。だからワタシは亘理の抑止から逃れ朝日に混じってしまった。ずいぶん皮肉な話だけれどね」

「そんな事あるのか・・・?」

「分からない。現実はそうだとしか言えない。ただ、全ては蠱術が生み出した幻だ」

イヌガミはブランコから降りるとまっすぐ僕を見据える。

「ワタシのこの感情も、気持ちも、全部作られたもので本当のワタシなど、どこにもいない。朝日を通して見える世界にワタシの居場所なんてないんだよアサギ。学校や友達、家族やアサギでさえワタシの世界じゃなかった」

イヌガミの瞳が赤く染まっていく。

「ワタシはどこにいる? ここにいるのか?」

「お、おい。落ち着こう・・・」

「今アサギと話しているのはワタシか? 朝日か?」

イヌガミの体がガクガクと揺れる。まるで犬のようにフ。フッと短い息を吐く。以前学校で襲われた時と同じような感覚だった。

「ワタシはワタシの体が欲しい!!」


一瞬の跳躍。


僕の頭上を軽々と飛び越え公園から消えて行く。マズい。イヌガミといっても体は朝日だ。放っておくわけにもいかない。僕は携帯電話を取り出す。もちろん亘理さんに連絡するためだ。おそらく今のイヌガミの行動は亘理さんには届いていない。一刻も早く連絡しないとイヌガミが何をするか分からない。けれど、ダイヤルする手が止まる。

このまま亘理さんに連絡すると間違いなくイヌガミは殺されるだろう。そしてそれは間違いじゃない。不安定で危険な存在でだからだ。でもなぜだろう、そうしてしまう事にためらいを感じている。イヌガミの言うように所詮は亘理さんの蠱術で生きているものではないし、本人の言うように存在自体が幻だ。本来ならば存在すらしてはいけない。でも・・・。

僕は携帯をポケットにしまうと公園を駆け出した。



  おかるとなかのじょ



闇雲に街を探し回ったけれど、見つからなかった。それも当然、僕にはイヌガミが行きそうな所などわからないのだ。そんな事をしているうちにすっかり日が暮れて夜になってしまった。このままだと朝日が家に帰っていない事が問題にもなってくる。よく考えろ・・・いやダメだ。分からない。イヌガミがどうするつもりなのかも、今どこにいるのかも検討もつかない。


これは以前から感じていた事だ。


イヌガミは少しづつ人間に近づいてる気がしていた。考え方、話し方。それらに違和感も感じない。それはどういう事なのか? 亘理さんが最初に言っていたように、そしてイヌガミ自身が言っていたように、混じっているのだ。イヌガミと朝日が混じっていっているのかもしれない。今まで朝日一人の体で二重人格のように捉えていた部分が、一つになってしまう気がする。そうなった時、イヌガミが、朝日がどうなるのか分からない。イヌガミは消えてしまうのか? それとも朝日が...?

僕はぶんぶんと頭を振った。


(そんな事はない。あり得ない)


けれど混じってしまった。だから亘理さんの拘束も受けなくなってしまったのではないか? だって、それは朝日だから。そう考えると今までの疑問にも合点がいく。ああ。けれど今はそんな事を紐解いている場合じゃない。イヌガミは、朝日は今どかこにいるんだろう?

結局、僕は最初の公園まで戻ってきてしまった。イヌガミの行きそうな場所なんて他に思い当たらない。が、もちろん誰もいない。世の中そう簡単にはいかないようにできている。僕は深いため息ひとつ、ブランコに腰を下ろした。ギシと音をたてて静かに揺れる。


「浅木、ごめんね」


どこから現れたのか、朝日が隣のブランコに腰をかける。

(お前、どこにいたんだよ。体は大丈夫なのか!?)

僕は言葉を飲み込んだ。きっと何が起こっているのか一番分からないのは朝日本人だと思った。

「朝日?」

「私、分かっちゃったんだよね」

「なにを...?」


朝日は勢いよくブランコを漕ぎ出した。



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