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おかるとな彼女  作者:
10/11

イヌのカミサマ(2)


呪言の用意をしていたのは、既に亘理の意志一つでイヌガミを制御できない現状の為である。しかし、制御できないのと駆逐できないのはまた違う。亘理沙織とイヌガミの戦闘力の差は圧倒的だ。その気になれば一瞬のうちに消滅させる事もできるのかもしれない。そして亘理はそのつもりだったのかもしれない。しかし、それができない要因があった。それこそ今、この部屋のベットに寝てる男が原因かつ要因だ。亘理のイヌガミの首を締める力が強まる。

「躾がなってなかったようね」

「首輪が外れちゃっててね・・・」

亘理とイヌガミが視線を合わせる瞬間、その緊張を切り裂くようにベットが軋む。


「・・・ん? 美幸?」


寝ぼけた浅木がベットから起き上がろうとしていた。


((マズい!! こんな所を見られたら--!! ))


瞬間的に亘理とイヌガミの思考が合致する。眠い眼をこすりながら振り返る浅木よりも一瞬早く、亘理がその間合いを詰めると浅木の顔を胸に埋める。

「!? な、なに!?」

ふにゃりと柔らかい感触がする。イヌガミは呪言から開放されると霊力を開放し瞳が赤く発光する。そして次の瞬間、イヌガミの胴回り蹴りが浅木の腹部に直撃する。あまりの衝撃に吹き飛ばされ壁に大きな音をたてて衝突する。哀れにも何が起こったのかも分からずに、浅木は壁からずり落ち、そのままベットの上で失神した。以心伝心のコンビネーションこそ犬神憑きの真骨頂だ。

「・・・お兄ちゃん? どうしたの?」

騒音で妹が起きてしまったが、そこにはベットの上に失神したように眠っている浅木がいるだけだった。いや、眠ったように失神してるが正しい。



  オカルト な カノジョ



一応、お弁当は食べる事ができた。

「亘理さん、相談があるんだけど・・・」

「何かしら?」

「今朝、起きたら腹痛が酷くて、凄い痣ができてるんだ」

「それは霊の仕業かもしれないわね」

「マジですか!? どうすれば・・・」

「とりあえず見てみないと・・・脱いでくれる?」

「うん・・・」

「これは酷いわね。一応写メを撮るわね」

「一体どうなってるのか」

「じゃあ次は下も脱いでくれる? 一応写メを撮るわね」

「うん・・・ちょっと待て!!」


結局一緒に帰る時も亘理さんは何も言わなかった。僕は一人お腹をさすりながら机に向かう。進学校の勉強量は決して少なくない。宿題はさる事ながらテストの多さにも頭を痛める。毎日毎日、自分の頭の悪さにうんざりしている。ふいに携帯がピリリと鳴る。・・・朝日だ。

「もしもし・・・」

「ごめん、今忙しい?」

どうやら本当に朝日らしい。話をしないと朝日かイヌガミなのか分からない。

「大丈夫だよ。どうしたの?」

「あのね・・・私、昨日浅木の家に行った?」

「は? 来てないだろ?」

「あはは、そうだよね!」

何でもない、ありがとう。と電話が切れた。少しずつ何かが変っていくような気がした。でもそれが何か、その時の僕には分からなかった。窓を開けると暖かい風が入って来た。空には厚い雲が流れていく。夏が近づいてきているのだ。



ーー・ーー



夏休みは目の前だが、その前にやる事がたくさんある。たくさんあるという表現をしたのだが、その内容は一つしかない。要は勉強なのだが期末テストのために死ぬ思いで勉強しないといけない。もしこれに失敗したならば夏季講習といって夏休みの半分を返上して、学校へ行き補修を受けなければならない。若干十六歳の僕にとってはこの夏休みは彼女と遊ぶ事に時間を捧げたい。もちろん性的な意味で。という事で今回の期末テストで赤点をとるわけにはいかないのだ。そんな期末テストまであと一週間。

「浅木くん。勉強してる時までご飯食べないで頂戴」

「それは逆だ。僕を食いしん坊みたいに言うな」

最近は寝る間、食べる間を惜しんで勉強している。その甲斐あってか勉強もずいぶん手応えを感じている。

「ずいぶん、勉強熱心なので浅木くん」

「学生の本分は勉強だからね」

「そう。良い心がけね。そんな浅木くんに良いニュースをあげる」

「なにかな?」

「もうすぐ夏休みだけれど」

「そうだね」

「夏休み、親が留守にするわ」

「留守? 旅行とか?」

「ええ。だから、テスト頑張って」

「頑張ります!!」


という事で駅のホームで亘理さんを見送った。そしてやがて来る自分の電車に乗る。自分の駅からは歩いて十分程度だ。近からず、遠からず・・・と思っている。典型的な住宅街で公園を抜ければ僕の家だ。もちろん帰ったら勉強しなくてはならない。亘理さんの一言で完全に火が付いた僕は、猛烈な勢いで勉強している。しかし、普通子供を置いて両親が旅行に行くだろうか? 亘理さんの家の事はあまり詳しく知らないけれど、そういうものなのだろうか? ふと公園に目を向けると、僕の学校の制服がブランコに乗っている。朝日によく似たそれが口を開く。


「久しぶりだな。アサギ」

「イヌガミ?」

 



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