1.休日
ある日の午後。
「光希、どこか行きたいところないか?」
父が尋ねてきた。
今日は機嫌がいいらしい。
ここで、ない、とだけ言ったら、
また機嫌を損ねてしまうだろう。
「ごめん、今はないや。課題しなきゃ」
たまの休日。
課題もだけど、父と一緒に過ごすなんて。
そんなの気疲れを考えただけで、気が遠くなる。
「俺、緑陽丘に行きたい」
突然、横で漫画を読んでいた弟が言った。
緑陽丘は、隣町にある見晴らしのいい丘だ。
ただ、遊具も何もないので、人気はないらしい。
なんで、いきなり。
まあ、私には関係のないことだからいいけど。
「おぉ、そうか。じゃあ行こう。
光希は?」
……関係、あった。
行きたくない。
が、緑陽丘。あの落ち着いた雰囲気の場所なら行ってもいいかな、という考えが出てきた。
「うーん……」
「なんだよ、行かないのか?」
父の機嫌が少しずつ悪くなっているみたいだ。
「行く、行くよ」
私は焦って言った。
「なんだ、来たくないならいいんだぞ」
私もイライラしてきたが、ここで怒ってもいいことがない。
長年暮らしてきて、もうこんなことには慣れた。
「行く」
私たちのやり取りをみて、文句を言いたげな弟を尻目に、私は支度を始めた。
この珍しい出来事は、もしかしたら、
このあと起こる運命に導かれて起きたのかもしれない。
「姉ちゃん、早く」
「はいはい」
空の色が、青からオレンジに変わろうとしている。
雲の隙間から漏れる光が綺麗だった。
「あれ、お母さんも行くの?」
「うん、たまにはいいじゃない」
父の車に乗り込む。
燃費の悪い、長年使っている車が、唸った。
緑陽丘に向かって走り出す。
高校生の私には、家族全員を乗せた車が、少し気恥ずかしかった。