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時空戦艦『大和』  作者: キプロス
断章 策謀の大和~1944年
94/182

断章 第二次米墨戦争(後)

 断章『第二次米墨戦争(後)』

 

 

 1944年1月16日

 メキシコ/バハ・カリフォルニア州


 エンセナーダ――そこはメキシコ最北の州、バハ・カリフォルニアに属する港湾都市である。アメリカ国境から120kmという位置にあり、交易が盛んな都市だ。スペイン語で入江の意を持つエンセナダは天然の良港を備え、商船や漁船のみならず、メキシコ海軍の軍艦もここを利用している。故にメキシコ攻略を狙う米軍にとって、エンセナーダの初期制圧は必須だった。

 1月16日、サンディエゴと真珠湾を出発した米海軍太平洋艦隊は、メキシコ西海岸に展開を開始した。その陣容は空母4隻、戦艦8隻、巡洋艦8隻、駆逐艦35隻と、米国とメキシコの国力差を知らしめるに事足りない大艦隊であった。これに輸送艦、補給艦、潜水艦、揚陸艦等を加えると、その数は100隻以上に及ぶ。この艦隊の任務はメキシコ海軍の撃滅、沿岸部への艦砲・航空支援と上陸部隊の護衛である。とはいえ、メキシコ海軍は旧式の駆逐艦がメインの弱小海軍であり、現時点で十数隻の戦艦、空母を有する米海軍の敵では無かった。メキシコ海軍は開戦と同時に海軍の全艦艇に出撃命令を下したが、17日には駆逐艦3隻、水雷挺5隻、機雷敷設艦2隻を撃沈され、一気にその戦力を削がれてしまう。

 1月17日、制空・制海権を掌握した米軍はエンセナーダ、サリナ・クルス、そしてベラクルスの3つの港湾都市に対し、海兵隊と陸軍師団を上陸させ始めた。海軍の空母航空隊は艦載機による空襲を開始。一方、新型超重爆撃機B-29を配備した陸軍航空軍は首都メキシコシティに対する高高度爆撃を敢行した。急造された50機のB-29は、300tに及ぶ爆弾をメキシコシティに投下、市内を焼き尽くした。

 これに対し、メキシコのクーデター暫定政府はなけなしの迎撃戦闘機を出撃させて対抗したが、米軍の護衛戦闘機を前に旧式戦闘機は何の役にも立たなかったのである。暫定政府はEU(ヨーロッパ同盟)に支援を要請したが、アメリカという新たな敵を作りたくないEUは、これを黙殺する。

 


 1月19日、エンセナーダ攻略2日目。

 米陸軍西部方面軍司令官のジョージ・S・パットン中将は、陸軍5個師団と海兵隊1個師団を率い、エンセナーダ市内を進撃していた。M4『シャーマン』中戦車に大幅更新を済ませた第1機甲師団をその隷下に置き、ジープを駆らせて驀進する。

 中将星を刻んだ鉄兜を被り、鞭を握り締めたこの短気な男は、戦車を主体とする機甲電撃戦を以て、エンセナーダ制圧を狙っていた。パットンは保有する機甲2個師団のうち、第1機甲師団はエンセナーダ海岸に揚陸させ、ダウンタウンへと続く街道を、第2機甲師団は米墨国境から陸続きで南下させ、両方面から制圧する予定だった。

 1月18日、第2機甲師団はエンセナーダから北東35kmの地点に位置するグアダルーペに到達する。切り立った岩肌が覗く荒涼の地だが、同時にワイン生産でも有名な土地である。メキシコ軍守備隊は戦車を持たない3500名の兵士のみであり、第2機甲師団の敵では無かった。

 18日朝、攻撃は開始された。

 メキシコ軍は地形を利用した塹壕と貧弱なトーチカしか保有しておらず、その守備能力は低かった。対戦車砲も他国の旧式であり、新型中戦車M4には歯が立たなかったのである。また、クーデター暫定政府の指揮下にある軍の士気は低く、徴発された兵士の多くは軒並み投降するのだった。そして19日、第1・第2機甲師団は合流を果たす。

 1月11日、エンセナーダ陥落。攻略開始から4日と経たずしてのことだった。これにより、米軍は海路による西海岸の補給中継点を確保するとともに、メキシコに敗北の屈辱を味わわせた。それから数日後にはサリナ・クルス、ベラクルスも陥落し、いよいよ米軍はメキシコシティへの進撃路の入口に立つこととなったのである。

 

 

 しかし1月20日、事態は急転する。

 メキシコシティ攻略前夜、クーデター暫定政府首班がメキシコ市民の手によって失脚し、暫定政府が解体されてしまったのだ。翌日、新政府が樹立されると、メキシコはアメリカに対し、無条件降伏の締結を要請した。

 1月21日、かくして『第二次米墨戦争』は、1週間という短い期間を以て終結した。無条件降伏の調印式は首都メキシコシティではなく、戦艦『ニューメキシコ』の艦上で行われた。メキシコ新政府のミゲル・アレマン大統領とフランクリン・D・ルーズベルト大統領はにこやかに調印式を進めたが、その実態は全く異なっていた。

 無条件降伏を行ったメキシコに対し、ルーズベルトが要求したのは以下のものである。

 

 ①メキシコ油田の国有化廃止。

 ②米国との軍事同盟締結。

 ③人的資源の提供。

 ④サリナ・クルス、ベラクルスの99年租借権。

 ⑤1億ドルの賠償金。

 ⑥バハ・カリフォルニア州の合衆国併合。

 

 これは事実上の『属国化』であった。が、敗北したメキシコには他に選択肢がないのも事実であった。メキシコ新政府はこの要求を受諾、石油国有化を破棄し、石油メジャーに開放。また『米墨軍事同盟』が締結され、租借地となったサリナ・クルスやベラクルスは合衆国艦隊の軍港としての機能を始める。そしてバハ・カリフォルニア州は、アメリカ合衆国第52番目の州となったのである。

 

 

 




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