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時空戦艦『大和』  作者: キプロス
第7章 戦時の大和~1943年
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第90話 誅一号作戦(後)

 第90話『誅一号作戦(後)』

 

 

 1943年9月24日

 ソビエト社会主義共和国連邦/ウラジオストク

 

 日本海でEU海軍艦隊とソ連太平洋艦隊の一大決戦が繰り広げられている中、ウラジオストク市内では日英軍による大規模な空挺作戦が開始されていた。3個挺進中隊を乗せた一〇〇式輸送機27機と同じく3個中隊を乗せた零式輸送機25機、ク-8軍用グライダーを曳航する九七式重爆撃機40機、そしてク-7を曳航する一〇〇式輸送機15機は、第零特別海軍航空隊と帝国陸軍の飛行第六十四戦隊の護衛戦闘機部隊を伴い、ウラジオストクへの空挺降下を決行した。彼らの目標となるのは、ウラジオストク北の山地に位置する要塞群と飛行場、そして司令部の制圧であった。このウラジオストク要塞には、ガングート級戦艦がの主砲である52口径30.5cm沿岸砲が数門配備されており、またソ連海軍第12列車砲旅団の『TM-3-12』305mm列車砲と『TM-1-14』356mm列車砲が各1門ずつ配備されていた。第12列車砲旅団は他に1門のTM-3-12を有していたが、これは『虎頭要塞の戦い』で破壊されている。どの要塞砲、列車砲も強力な火力を誇っており、沿岸に進出せんとするEU海軍艦隊の妨げとなるのは間違いなかった。

 陸軍第一挺進集団と海軍空挺部隊に与えられた任務は、その要塞防衛陣の無力化であった。要塞の沿岸砲・列車砲をドイツ製の高性能爆薬で破壊し、隣接する飛行場・司令部を制圧する。そうしてウラジオストク要塞を陥落させ、陸路や海路から進出してくるEU軍の障害を排除する。いわば露払いだ。

 「降下始めッ!」

 乗降口が開かれ、落下傘を背負い込んだ挺進兵達は一斉に払暁の白みを帯びた空に向かって飛び出した。ク-7、ク-8グライダーは曳航していた一〇〇式輸送機と九七式重爆撃機から解き放たれ、緩やかな滑空を始める。その内、海軍空挺部隊は飛行場の東2キロの地点へ、第一挺進集団は1個挺進中隊が同じく飛行場へと降下し、それ以外は要塞陣へと降下する。対空砲火、弾幕、そして敵味方の迎撃戦闘機が入り乱れ、ウラジオストク要塞上空は大混戦となった。戦闘は続き、2機の九七式輸送機が撃墜され、陸軍の一式戦闘機『隼』3機がYak-9との空戦に敗れ、灰塵と帰した。海軍の零戦も2機が撃墜された。その一方、敵のYak-1が6機、Yak-3が4機、Yak-9が7機、P-40が5機撃墜された。残りの戦闘機も軒並み撃墜されるか、燃料不足で不時着するかのどちらかを辿った。

 そうこうしている内、陸海軍の空挺部隊は無事、降下を終えた。それまでの降下で全体の4分の1が戦死・若しくは行方不明となってしまい、敵の猛反撃の苛烈さを物語っていた。

 しかし作戦は止まらない。陸軍の1個挺進中隊と海軍の空挺部隊が前進、飛行場を狙う。黎明の帝国陸海軍による空襲で飛行場は壊滅的打撃を受けており、抵抗は少なかった。飛行場は僅か2時間ほどで制圧され、旭日旗が立った。

 問題は要塞である。制圧を担う陸軍第一挺進集団は要塞内に降下、高性能爆薬を用いての沿岸砲・列車砲の破壊を目指すが、敵の反撃は予想以上であった。吉澤益男中佐率いる挺進第一聯隊――毛沢東捕獲作戦の実行部隊――は理想ともいえるポイントに降下して敵の意表を突き、30.5cm沿岸砲1門の破壊に成功したが、要塞内のトーチカに苦戦していた。

 「T-26!」

 挺進兵の1人がT-26軽戦車を指を差し、悲鳴にも似た声を上げた。

 「噴進砲用意、射ぇぇぇぇッ!!」

 吉澤の号令一下、一式60mm噴進砲は強烈なバックブラストを放ちながら咆哮した。この一式60mm噴進砲は、帝国陸軍初の携行式対戦車砲であり、米陸軍のM1バズーカを基に開発されている。無論、このM1バズーカの出所は1946年から逆行してきた『夢幻の艦隊』の輸送艦である。M4『シャーマン』、ジープ、M3ハーフトラックとともに、陸軍では優先的に研究・開発が進められていた。空挺兵が放った一式60mm噴進砲は、その派生型で、M1A1のように折り畳み・軽量の工夫がなされている。

 「だんちゃーく、今!」

 T-26は爆散し、炎上しながら沈黙していた。

 「8時の方向、トーチカ!!」

 「火焔発射機用意、射ッ!」

 九三式火焔発射機を改良した一〇〇式火焔発射機が火を噴いたのは、その号令が放たれたすぐ後のことだった。噴射口から紅蓮の焔が吐き出され、20m先の強固なトーチカを舐め回した。内部で機銃を用い、反撃していたソ連兵は、次の瞬間、溶鉱炉を開け放ったような熱風を肌に感じ、やがてそれは刺すような痛みに変貌した。喉を焼かれ、ソ連兵は声にもならない悲鳴を上げた。火達磨になり、トーチカから命からがら這い出てくるソ連兵に対し、挺進兵達の容赦無き銃弾の洗礼が降り注ぐ。転げ回り、肉の焼ける芳ばしい匂いを振り撒くソ連兵だったが、苛烈な銃撃を受け、ついに息絶えた。

 「次、次だッ!」

 吉澤は別のトーチカを差し、火焔発射機を抱えた工兵を急き立てた。火炎放射器というのは、良心もへったくれもない残虐な兵器だが、機銃の前に何十と兵士の屍山が築かれていくという戦場の現実を目の当たりにすれば、使いたくないとは思うことのできない兵器でもあった。吉澤はそんな火焔発射機を用いて次々と塹壕・トーチカ等を制圧、沿岸砲や列車砲を破壊し、要塞を制圧した。



 1943年9月24日1030時。日本海。

 護衛の艦上戦闘機170機を置き去りにし、一旦は遥か海上に撤退したかに思われたソ連太平洋艦隊だったが、艦隊は200機超の陸上機を従えて帰ってきた。その中には、ソ連太平洋艦隊の艦攻・艦爆も含まれていた。この大編隊はまず計278機の陸上航空隊(『B-25』中爆25機、『A-20』双攻15機、『SB-2』中爆50機、『Ar-2』中爆26機、『Tu-2』中爆25機、『Il-4』中爆35機、『B-17』重爆15機、『ANT-46』複座戦26機、『P-39』戦闘機16機、『P-40』戦闘機20機、『Yak-9』戦闘機24機)からなり、さらにソ連太平洋艦隊に残存する艦爆・艦攻計224機(『TBD』艦攻46機、『SB2U』艦爆35機、『Il-2』艦攻98機、『Su-2』艦攻45機)の攻撃隊が加わっている。これは、ソ連海軍が保有する航空戦力の4分の3近くに相当する戦力であった。ソ連太平洋艦隊司令長官のイワン・S・ユマシェフ大将は、EU海軍艦隊に対し、『航空決戦』を挑んだのである。

 これに呼応する形で、連合艦隊司令部は残存の航空戦力を全て投入した。先の航空戦で生き残った護衛戦闘機隊、第1次攻撃隊、戦闘に参加せず、待機していた空母『赤城』『蒼龍』『瑞鶴』『葛城』『隼鷹』の飛行隊である。その数、およそ440機。やはり数の上ではソ連太平洋艦隊に劣るが、質や戦闘機の割合でいえば、圧倒的に有利であった。

 「敵機、接近ッ!?」

 航空魚雷を積んだ双発爆撃機『Il-4』編隊がイギリス東洋艦隊の巡洋戦艦『レパルス』に襲い掛かる。4本の航跡が濁紺した海面を疾駆するが、レパルスの動きは鈍かった。40口径40mmポンポン砲が怒涛の如き反撃を見せ、一度空は黒煙に包まれた。これに堪らんとIl-4は四散したが、4本の航跡は猛スピードでレパルスの左舷めがけて直進していた。

 「ぎょ……魚雷命中! レパルス、被雷しましたッ!!」

 「くそッ……やってくれたな……」

 イギリス東洋艦隊旗艦『プリンス・オブ・ウェールズ』艦橋。東洋艦隊司令長官のトーマス・フィリップス大将は、傾斜する巡洋戦艦『レパルス』の艦影とその左舷に立ち聳えた複数の水柱を見て、憮然と言った。爆発音とともに火柱が上がり、黒煙が立ち昇り始めた。沈没は時間の問題だった。

 「ダグラス大佐より打電! 『総員退艦セリ。サレドワレ、退艦セズ』」

 退艦しない。それは即ち沈み行く巡洋戦艦『レパルス』と運命を共にする――ということだった。フィリップスは静かに頷き、そして沈黙した。



 「トトトトト……(全軍突撃セヨ)」

 『艦爆の神様』こと江草隆繁少佐の“ト連送”と風を得た三式艦上爆撃機『彗星』と九九式艦上爆撃機は、高度3000mから航空戦艦『オクチャブルスカヤ・レヴォリューツィヤ』めがけて急降下を開始した。

 「対空迎撃用意ッ! 撃て撃て撃てぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」

 ソ連太平洋艦隊司令長官イワン・S・ユマシェフ大将の号令一下、護衛駆逐艦群と軽巡洋艦『モロトフ』が織り成す対空砲火の旋律が、空母『蒼龍』艦爆隊の九九式艦爆と彗星を次々と火球に変えてゆく。鮮紅に染め上げられた艦爆は、光り輝く海面へと叩き付けられ、四散し、小さな水柱を上げた。オクチャブルスカヤ・レヴォリューツィヤを護る輪形陣は、想像を絶する密度の対空弾幕を周囲に張り巡らせていたのだ。しかしその一方で、江草少佐率いる艦爆隊の攻撃の手は緩むことはなく、航空戦艦には刻一刻と“死”が迫っていた。

 「射ーーッ!!」

 高度450m。空母『蒼龍』の命知らずな艦爆隊員達は、急角度を付けた艦爆機体から次々と搭載していた爆弾を解き放った。刹那、眩い閃光と鮮やかな火炎がオクチャブルスカヤ・レヴォリューツィヤの飛行甲板に迸り、真っ赤な火柱と黒煙が立ち昇った。

 「投弾、命中ッ! 当たったぞ!」

 次々と放たれる250kg爆弾は、オクチャブルスカヤ・レヴォリューツィヤの空母としての能力を著しく削り取ってゆく。さらに投弾された500kg爆弾の1発が艦橋部に直撃、上部構造物が音を立てて崩れ落ちる。

 「結局、希望など無かったか……クククッ。哀れだな、俺は」

 短く、苦々しい笑い声。足元に転がる参謀長マレンコフ少将の骸を見下ろし、硝子の破片に傷付いた右腕を震わせながら、業火に包まれてゆく艦橋の中で最期を迎えた。飛行甲板で巻き起こる爆発と火災は、ついに下層部の40cm主砲塔にまで到達し、誘爆を引き起こしたのだ。まるで火山が噴火したかのように4基の砲塔から巨大な火柱が舞い上がり、飛行甲板を粉砕した。艦橋も上空数十mまで飛ばされ、跡形もなくなってしまう。主砲塔に誘爆し、炎と黒煙を上げ続けること5分、異形の軍艦オクチャブルスカヤ・レヴォリューツィヤは――日本海に散った。


 他の所でも、似たような光景が広がっていた。航空戦艦『オクチャブルスカヤ・レヴォリューツィヤ』の轟沈から数分後には、軽空母『チャパエフ』が撃沈、さらに同級艦『チカロフ』も、大破されて漂流を始めた。また正規空母『アストラハン』も、飛行甲板と舵を破壊されて“海に浮かぶ下駄”へと成り下がってしまった。

 そして、残るはアストラハン級2番艦『ノヴォシビルスク』を残すのみだった。

 

 

 一方、ソ連空海軍陸上航空機による反撃は、イギリス東洋艦隊と帝国海軍機動艦隊に少なからず出血を強いていた。イギリス東洋艦隊では、巡洋戦艦『レパルス』及び駆逐艦2隻を喪失しており、帝国海軍にしても駆逐艦2隻を喪失していた。

 そして今、その危機は戦艦『大和』にも迫っていた。

 『電探に感あり、敵機編隊認む。数12』

 電測員の報告を伝声管越しに聞いた吉田は、渋面を浮かべた。

 「主砲、対空戦闘用意。三式弾、撃ち方始め!」

 戦艦『大和』は眼前に望む蒼穹めがけて吼えた。出し抜けに艦体は横にがくんと着底したかのように揺れ、主砲46cm砲の砲口は紅蓮の炎を吐き出した。数十秒後、前方に接近していたB-25『ミッチェル』双発爆撃機は、その眼前で粉々になった。あまりにも呆気無く、拍子抜けする程、B-25は脆かった。そんな様子を見てか、吉田は長官専用の椅子に腰を下ろし、背もたれに頭を預け、天井を見上げた。

 「12.7cm高角砲、撃ち方始め」

 戦艦『大和』はまたがくんと――先程よりは小さく――揺れ、振動した。外から12.7cm高角砲の甲高い射撃音と、ソ連爆撃機の悲鳴が聞こえる。案の上、ソ連爆撃機は次々と炎に包まれ、海面めがけてダイブしていた。当の吉田は、背もたれに任せていた身体を起こし、背筋を伸ばして事の結末を傍観していたが、目は藪睨み気味であった。彼は、この海戦の勝利を確信していたのだ。

 「これからの時代は航空機であるとの、山本の言葉は本当であった訳だ」

 と、吉田は呟く。圧倒的な航空戦力を盾にした戦艦『大和』と、護衛戦闘機すら伴わず猛進してくる爆撃機。この光景を目の当たりにすれば、嫌でも実感することだろう。吉田はそう思った。

 「長官、戦果報告届きましたッ!」

 電信員が駆けつけ、吉田に敬礼しながら発言した。

 「うむ。それで戦果は?」

 「はッ。機動部隊からの報告によれば、敵航空戦艦1隻、空母3隻、重巡洋艦1隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦6隻を撃沈若しくは大破にせしめたとの事です」

 吉田は頷いた。「こちらの損失は?」

 「戦艦『伊勢』中破。駆逐艦2隻撃沈」電信員は言った。「現状での報告は、以上です」

 「よろしい。“パーフェクト・ゲーム”だ」

 

 

 こうして『第二次日本海海戦』は、EU海軍機動艦隊側の大勝利によって幕を閉じた。ソ連太平洋艦隊は最終的に旗艦『オクチャブルスカヤ・レヴォリューツィヤ』と空母3隻、巡洋艦2隻、駆逐艦8隻を喪失した他、航空機586機を失った。また、同海戦の裏で繰り広げられていた潜水艦戦では、6隻の潜水艦が第一護衛艦隊によって撃沈されていた。


 一方、EU海軍機動艦隊側の喪失は、空母『ハーミーズ』、巡洋戦艦『レパルス』、駆逐艦4隻のみという比較的軽微なもので、航空機喪失数も203機と敵側を大きく下回る数であった。吉田曰く、帝国海軍にしてみればまさに『パーフェクト・ゲーム』といえる結果だった。また、この一連の海戦と陸海軍空挺戦力による要塞攻略作戦によってソ連海空軍は壊滅的打撃を受け、沈黙。EU側が制海・制空権を奪取し、ウラジオストクの戦いでソ連軍側は側面攻撃とシベリア鉄道の破壊によって補給網を遮断され、市街はさながら地獄と化した。約1ヶ月の包囲殲滅戦の後、ソ連軍は降伏する。

 

 

 こうして沿岸州の一大軍事拠点を失ったソ連軍は、徐々に満州国境から押し戻されていくこととなる。特に海軍拠点を失ったことで通商路破壊戦にも従事できず、海路の補給線を断たれたも同然となってしまったことは、ソ連軍にとっては大きな痛手であった。米国によるアリューシャンからの支援を受けられなくなってしまったからだ。さらに、航空戦力の著しい喪失によって防空能力が低下し、日本軍爆撃機の往来を許すこととなってしまう。シベリア鉄道の各運輸拠点が次々と爆撃を受けたことによって、ソ連軍は陸路からの補給線も断たれてしまった。一方、生産能力の拡張を順調に進めていく大日本帝国は、中国同盟軍に携行式対戦車砲や機甲戦力を供与し、その反撃の手を強めていった。


 

 徐々にではあるが、戦局は大日本帝国側の優勢に傾きつつあった。

 

 

 


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