第85話 オホーツク海海戦(後)
第85話『オホーツク海海戦(後)』
1943年9月6日
オホーツク海/南樺太沖
「射ぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」
戦艦『大和』艦橋。連合艦隊司令長官の吉田善吾大将は重い沈黙を破り、開口一番吼え立てた。刹那、耳を聾する爆音が轟き、鋼鉄の大地が揺れ動いた。戦艦『大和』が世界に誇る45口径46cm主砲の咆哮だ。その咆哮が残夏のオホーツク海に轟くやいなや、第一艦隊の戦艦群もそれに共鳴する形で、次々と咆哮を轟かせた。
『長門』『陸奥』『伊勢』『日向』『山城』『扶桑』計6隻の戦艦主砲が天を仰ぎ、霧空に向かって息もつかせず砲弾を撃ち出すその光景は、“圧巻”の一言だった。周囲を包み込んでいた筈の霧は、この巨砲の咆哮によって吹き飛ばされ、代わりに黒煙が舞い上がった。
「弾着まで30秒!」
艦橋にその声が轟くや、一同は押し黙ってしまう。それは緊張と不安の時間。実戦経験に乏しい戦艦『大和』にしてみれば、未知数の時間でもあった。
「10……9……8……7……6……5……」
カウントダウンが妙にじれったく感じたのは、吉田だけではなかった。戦艦『大和』艦橋の連合艦隊司令部一同と、『大和』乗員、それに第一艦隊も同様である。早く進め早く進め……と、吉田は時計の軸を眺めながら胸の内に呟いたが、この時、出し抜けに轟いたイギリス東洋艦隊の咆哮は、彼の耳には入ってこなかった。キングジョージ5世級戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』と巡洋戦艦『レパルス』の砲撃である。EU(ヨーロッパ同盟)海軍としては有数の実力を持つこの2艦の砲撃だが、戦艦『大和』の46cm主砲の咆哮に比べられれば、赤ん坊の泣き声とさして変わらなかったのである。
「4……3……2……だんちゃーく、今!!」
そんな声が響いたわけだが、この濃霧では水柱はおろか艦影さえも見えない。距離にしても、3万メートル程離れている。だが……。
「報告します。近近遠、夾叉!!」
戦艦『大和』砲術長を務める能村次郎中佐の声は、歓喜のあまり上擦っていた。彼は史実でも戦艦『大和』で砲術長を務めた砲術畑の専門家で、かの『レイテ沖海戦』では初射で夾叉を成し得た人物でもあった。その時も歓喜と興奮に舞い上がったことだろうが、今回は濃霧に包まれた海での戦いということで、目隠しされたような状態でこのような結果を叩き出したのだから、喜び具合が全く違っていた。
「電探室からも、夾叉報告が届いております!」
「うむ、よくやった」
にわかに吉田の口許が綻んだ。
「……で、『陸奥』の方はどうなってる?」
吉田がそう問いかけると、厳格な表情を崩さずにいた連合艦隊司令部参謀長の伊藤整一中将が答えた。「“成功”――とのことです。電探室からも、ソ連太平洋艦隊上に無数の輝点が画面上に現れたと」
これは戦艦『陸奥』と第一艦隊の巡洋艦が放った『電探欺瞞弾』の戦果である。三式弾を基に開発されたこの砲弾には、996個の榴弾子弾の代わりに対水上レーダー妨害仕様の電探欺瞞紙『チャフ』が詰め込まれていた。これが敵艦隊直上で炸裂、レーダー妨害を果たしていたのである。
「では、ここからは機械に頼らんこととしよう。帝国海軍人としての技量を見せ付けてやるのだ」吉田は言った。「第2斉射用意、撃ち方始めッ!!」
戦艦『ソビエツキー・ソユーズ』艦橋。ソ連海軍太平洋艦隊司令部を構えるこの戦艦は、先ほどの第1斉射により、若干の被害を被っていた。しかし、それはある程度許容できる。だが、“眼”を奪われてしまったのは、何より痛い所だった。
「こちらに残っているのは、飲んだくれてまともに目も見えない酔っ払いだけだ。おのれ、ヤポンスキーめ……」
レーダー室から電探欺瞞弾によるレーダー妨害の報告を受け取ったイワン・S・ユマシェフ大将は唸った。伊藤ら連合艦隊司令部の予想は的中し、この戦艦『ソビエツキー・ソユーズ』を始め、艦隊の所属艦の多くは、アメリカ製の高性能対水上レーダーを搭載していた。それによって質の面を補い、勝つとまではいかなくとも、帝国海軍に大損害を与えてやろうと画策していたのである。しかしレーダーを塞がれてしまった今、その目論みは呆気無く崩れ去ろうとしていた。
「揺さぶりを掛けてやるべきかもしれん。後方の機動部隊との連絡を繋げ」
数十分後、ソ連太平洋艦隊に所属する『アストラハン』級重航空巡洋艦(71B型空母)から12機のIl-2T『シュトゥルモヴィーク』艦上攻撃機が発艦した。この艦攻型Il-2は胴体下に500kgの航空魚雷を1発搭載していた。Il-2編隊は一寸先も見えない濃霧の空を手探りで疾駆し、連合艦隊司令部のある戦艦『大和』目指して驀進する。
『敵機接近、数12!』
対空電探を統括する電探室から報告があったのは、Il-2が霧海の先にぼやけた艦影を見つけたのとほぼ同時刻のことだった。Il-2編隊は戦艦『大和』とその直衛艦目指して一直線に向かい始め、一方の『大和』では、吉田の号令で対空戦闘準備が進められていた。
「12.7cm高角砲、射ぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
吉田の号令一下、戦艦『大和』の対空戦闘の要たる50口径三式12.7cm連装高角砲が火を噴いた。対空電探と連動した12.7cm高角砲は乳白色の空で正確無比な軌道を描き、中高度で接近してくるIl-2艦攻編隊を叩き落とした。これはアメリカの至宝、『VT信管』を基に開発された『無線近接信管』による戦果だった。この信管は内部に小型レーダーを搭載しており、15m範囲内で一定の金属物体が通過すると、探知して自ら炸裂する。そしてその炸裂した砲弾が飛び散らかす破片によって、敵機に甚大なダメージを与えるのだ。それは、通常の近接信管よりも先進的且つ合理的だった。
また、ボ式40mm高角機関砲や九六式25mm高角機銃も、空に向かって撃ちまくる。それは帝国海軍射撃手とソ連海軍パイロットによる意地と意地の張り合い、海と空の一騎打ちに他ならなかった。低空から雷撃アプローチに入るIl-2にボ式40mm高角機関砲が鋼鉄の洗礼を浴びせ掛けると、『空飛ぶ戦車』と呼ばれたIl-2も、流石に火を噴き始めた。さらに25mmが加勢する。幾条もの火箭に貫かれたIl-2は、ここで息絶えた。
「長官、全機撃墜しました!」
だからといって油断ならないことは、吉田も承知していた。これが敵艦隊の全航空戦力である筈がない。艦攻もいれば艦戦もおり、艦爆もいる筈だからだ。勝負はこれからだった。
「対空見張りを厳となせ。敵の手の内はこんなものではあるまい」
吉田は素気なく言うと、双眼鏡を掲げて海を見張った。どこまでも果てしなく続く、忌々しいこの乳白色の世界が早く消え去ってくれないものか……。吉田はそう胸の内に呟いた。かの『日本海海戦』であれ何であれ、ここ一番の大舞台ではコンディションは最高でなければならないのだ。
「た……大変ですッ!!」
出し抜けに叫んだのは、慌てた様子で駆け込んだ電信員だった。
「む……陸奥が……」
「なんだ……どうした?」
吉田は青ざめた電信員の顔を見て訊いた。
「陸奥が――“轟沈”しました」
史実、長門型戦艦第2番艦の『陸奥』が沈没したのは1943年6月8日のことだった。その原因は――“原因不明の爆発”である。後世の戦史家達は、その原因に関して複数の説を唱えたが、その真相は未だ明らかとされていない。
そして今物語での戦艦『陸奥』の最期も、“原因不明の爆発”がその一因にあった。1510時、ソ連太平艦隊に向けて電探欺瞞弾によるレーダー妨害砲撃を加えていた陸奥は、突如として爆発。船体は真っ二つに割れ、すぐに沈んだという。
「まさか『陸奥』を失うとは。歴史は繰り返すのか……」
吉田は渋面を浮かべた。
「敵砲撃、来ますッ!!」
刹那、次々と戦艦『大和』の前方に水柱が立ち昇った。これまでの射撃精度を考えると、格段に向上していると言える。しかし、これがレーダーによる成果なのかコツを掴んできた射撃員の腕前なのかは定かでは無かった。
「フハハハハハッ! 見たかヤポンスキー!」
戦艦『ソビエツキー・ソユーズ』の艦橋にユマシェフの不敵な笑い声が谺する。陸奥の爆沈によってレーダー妨害の枷を外すことができた同艦は、戦艦『大和』と連合艦隊に向けて巻き返しを図ろうとしていた。次の斉射では、重巡洋艦『加古』が弾薬庫に砲撃を受けて誘爆、爆沈。そしてさらに次の斉射では、戦艦『日向』に直撃、中破した。
「露助どもめ、調子に乗りおって……」
流石の伊藤も焦りを感じ始めていた。ここまでで挙げた連合艦隊の戦果は、ソ連太平洋艦隊の戦艦1隻大破、1隻中破。重巡洋艦1隻撃沈。軽巡洋艦1隻小破。駆逐艦2隻撃沈。(1隻は味方の戦艦『マラート』の誤射による)だった。確かに4隻の軍艦を戦闘不能に追い込んだのは良かったが、一方で連合艦隊側も先ほどの重巡1隻撃沈、戦艦1隻撃沈、戦艦1隻中破、そして駆逐艦1隻の大破の損害を受けている。これでは日本海海戦のようなパーフェクトゲームとは言い難かった。
「こちらは既に『陸奥』と『加古』を喪失しておる。今一度、気を引き締めるのだ」
吉田のそんな掛け声は、戦艦『大和』と連合艦隊をにわかに熱くさせた。戦艦『大和』の斉射がソ連太平洋艦隊の戦艦『マラート』を撃沈したのである。既に大破していたため、手負いの獅子を討ったようなものだが、それでも戦意は沸き上がった。
「射ぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
ソ連太平洋艦隊も負けてはいない。次の斉射で戦艦『扶桑』が中破したのだ。しかしながら、姉妹艦である『山城』の砲撃により、軽巡洋艦『マクシム・ゴーリキー』が撃沈され、その仇を返す形を取った。こうして戦いは、また平行線を辿ることとなる。
「ジョンブル共は何をしておる? 午後のティータイムでも取ってるのか?」
にわかにイギリス東洋艦隊の砲撃の手が緩まったのを見て、吉田は苛立った。それはイギリス東洋艦隊への苛立ちと不満から漏らした皮肉の言葉だが、実際にイギリス東洋艦隊司令長官のトーマス・フィリップス大将が紅茶片手に指揮を下していたという事実は、当の吉田も知る由はなかった。
『敵艦隊捕捉、距離1万5千メートル!』
と、見張り員からの唐突な報告が轟いたのは、第一水雷戦隊旗艦『阿武隈』である。その報告を聞いた木村昌福少将は、満足げにトレードマークであるカイゼル髭を擦り、ニヤリと笑みを浮かべた。
「平行反航の後、回頭せよ。十八番の“丁字戦法”を決めてやるんだ」
第一水雷戦隊司令官であり、『ショーフク』と渾名される彼には、この海に1つの因縁があった。史実の1943年7月、北部太平洋アリューシャン諸島の一島、“キスカ島”で行われた『キスカ島撤退作戦』である。冷静沈着で実戦一筋の木村少将は、『濃霧』という心強くも危険極まりない存在を味方に付け、不可能に近かった“無傷”での撤退作戦を完遂することとなる。それはひとえに、木村少将の冷静な分析力と豊富な実戦経験の賜物であろう。
そんな彼が今回、第一水雷戦隊の司令官となり、この北部太平洋――それも霧海――に舞い戻ってきたのは、数奇な巡り合わせだった。当の彼としては、ただ任務を完遂し、帝国海軍人と皇国の民としての務めを果たさんとする一心であったが、この世界では“第三者”たる『大和会』の逆行者達がここに居たら、そのことを指摘したかもしれない。しかしここにはそんな人物は一人もおらず、そこに存在するのは戦場の殺気と興奮だけであった。
「はたして露助には、骨のある奴はいるのかね?」
木村は腕を組み、仁王立ちで軽巡洋艦『阿武隈』艦長の篠田清彦大佐に尋ねた。普段は釣りをしたり、将棋を打ったりと享楽に興じ、笑ってしまうほどおっとりとした昼行燈のような彼だが、今は違う。日常からは想像できない、冴え澄んだ冷徹さを漂わせている。これが『才』あるものの差か、と篠田は胸の内に呟かずにはいられなかった。
「奴らは年中酒に潰れた役立たずと司令部では評判ですが」
「実際、そうなのかねぇ? いや、そりゃあそうかもしれんがね、彼らにだって守りたい者の一人はいるんじゃないかと思ってね」
木村はそう言い、カイゼル髭を再び擦った。
駆逐艦12隻を引き連れて、軽巡洋艦『阿武隈』は白濁した濃霧に紛れて敵艦隊の前方1万メートルまで進んだ。各艦はそれぞれ砲戦・水雷戦準備を整えており、木村の下命を受け次第、順次攻撃可能な状態にあった。
「閣下」
「うむ。全艦、主舵一杯。回頭せよ!」
木村は右腕を高々と掲げ、右に90度振り下ろした。間もなく、旗艦『阿武隈』の舵は左に大きく切られ、隷下の第六・第十七・第十二駆逐隊の計12隻の駆逐艦がこれに続いた。波濤が海面に迸り、鋼鉄の艦首が霧海を切り裂きながら回頭する。いわゆる『丁字戦法』の序盤である。数分後、第一水雷戦隊は敵艦隊との距離を9000mまで詰めた。
佇立する木村はまた右腕を掲げ――。「全艦、左舷砲戦・水雷戦用意! 撃ち方始めッ!!」そして力を込めて、振り下ろした。砲弾が装填され、天に向かって打ち上げられる。左舷の魚雷発射管はシュポンッ! と間の抜けた音を発し、九三式酸素魚雷を霧海に向けて発射した。砲弾は孤を描きながら宙を舞い、九三式酸素魚雷は扇状に展開して、速力48ノットで海中を疾駆する。主砲はともかく、アウトレンジ性に富んだ九三式酸素魚雷を使用するには距離が近すぎはしたが、これは正確さを期した木村の大きな“賭け”でもあったのだ。電探欺瞞弾による影響で電探機器が使えない今、勝機を確信するには“人の目”に頼らなければならなかったからだ。
刹那、鋼鉄の体躯を引き裂かれ、悶絶する海の怪物が放った悲鳴が第一水雷戦隊に轟いた。それもちゃちなものではない、戦艦クラスの悲鳴だ。濃霧では分かり辛いが、霧に紛れて巨大な戦艦のシルエットが投影されており、もうもうと噴煙を立ち昇らせている。禍々しい火柱も見えた。
「こりゃあいい。敵さん、弾薬庫に誘爆したと見える」
木村は笑みを漏らし、そう呟いた。彼の指摘通り、砲雷撃を受けた戦艦『ガングート』は、その攻撃の余波が弾薬庫に到達して、大規模な誘爆を招いていた。このガングートは1943年4月12日の『ヴィープリ湾海戦』時、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル率いるJu87『シュトゥーカ』急降下爆撃機中隊を受け、大破した苦い思い出があった。その後、レニングラード工廠で1年間に及ぶドック入りを与儀なくされたのだが、この『9月の嵐作戦』に際して再戦力化されるため、僅か1ヶ月の突貫作業を受けての参加だった。そのため、ガングートには不備も多かった。今回のオホーツク海海戦では、その作業時における溶接の甘さが露呈し、九三式酸素魚雷1発で呆気なく轟沈させられてしまうこととなったのだ。
「いくらなんでも骨が無さ過ぎだ。タコか、露助の戦艦は」
双眼鏡を手に木村は独りごちた。戦艦『ガングート』は業火に包まれ、オホーツク海に沈み行く。その周囲でも似たような光景が広がっていた。結果として第一水雷戦隊が挙げた戦果は、戦艦1隻撃沈、重巡洋艦1隻大破、駆逐艦2隻撃沈、1隻大破だった。一方で第一水雷戦隊が被った損失は、駆逐艦2隻の中破で撃沈は1隻もなかったという“奇跡”の戦果であった。まさに『日本海海戦』の再現である。
「閣下、敵が逃げて行きますが……」
篠田は濃霧に紛れ、一目散に退却する敵駆逐艦部隊を見て言った。
「追撃は不要だ。“奇跡”は3度までしか起こらん」木村は言った。「1度目は日本海、2度目はここオホーツク海。そして最後に――」
木村は言おうとしたが、躊躇った。「いや、言わずもがな……か。俺は美味しい物は最後に取っておく主義なんだ」
第一水雷戦隊による攻撃の後、ソ連太平洋艦隊は回頭、一目散に撤退を開始した。1943年9月6日に勃発した『オホーツク海海戦』は、ここに終結を迎えたのだ。その海戦における両陣営の損失を纏めると――。
・帝国海軍連合艦隊(機動艦隊除く)
駆逐艦(26隻)
撃沈:2隻
大破:1隻
中破:4隻
小破若しくは損傷皆無:19隻
軽巡洋艦(5隻)
『阿武隈』:損傷皆無
『川内』:損傷皆無
『北上』:小破
『大井』:損傷皆無
『神通』:中破
重巡洋艦(11隻)
『加古』:撃沈
『衣笠』:小破
『青葉』:損傷皆無
『古鷹』:小破
『高雄』:中破
『愛宕』:小破
『鳥海』:小破
『摩耶』:損傷皆無
『那智』:損傷皆無
『羽黒』:小破
『妙高』:小破
戦艦(7隻)
『大和』:小破
『長門』:小破
『陸奥』:爆沈
『伊勢』:損傷皆無
『日向』:中破
『扶桑』:中破
『山城』:小破
・英海軍東洋艦隊
駆逐艦(16隻)
撃沈:2隻
大破:1隻
中破1隻
小破若しくは損傷皆無:8隻
軽巡洋艦(2隻)
『グラスコー』:大破
『バーミンガム』:小破
重巡洋艦(1隻)
『エセクター』:小破
巡洋戦艦(1隻)
『レパルス』:小破
戦艦(2隻)
『プリンス・オブ・ウェールズ』:損傷皆無
『レゾリューション』:小破
・ソ連海軍太平洋艦隊
駆逐艦(25隻)
撃沈:5隻
大破:1隻
中破:3隻
小破若しくは損傷皆無:16隻
軽巡洋艦(1隻)
『マクシム・ゴーリキー』:撃沈
重巡洋艦(2隻)
『ヴォロシーロフ』:大破
『クラースヌィイ・カフカース』:中破
戦艦(3隻)
『ソビエツキー・ソユーズ』:中破
『ガングート』:撃沈
『マラート』:撃沈
航空戦艦(1隻)
『オクチャブルスカヤ・レヴォリューツィヤ』:小破
――となる。日英艦隊の総喪失数は、戦艦1隻、重巡洋艦1隻、駆逐艦4隻であるのに対し、ソ連太平洋艦隊側は、戦艦2隻、重巡洋艦1隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦5隻とその倍を記録した。これは戦力差を鑑みれば、当然といえる戦果ではあったが、吉田が狙っていた『日本海海戦』の再現とまではいかなかった。しかしながら、戦意高揚に繋がるのは確かであった。
「吉田長官……」
そんな大戦果を挙げたにも関わらず、伊藤の顔は浮かなかった。というよりも、死人のように青ざめていた。
「どうした。そんな顔を――」
「この作戦は失敗です」
伊藤の言葉に吉田は眉を顰めた。
「何故だ? 確かに『日本海海戦』の再現とまではいかなかったが――」
「敵の狙いは、こちらにはなかったようです」伊藤はかぶりを振った。「先ほど、緊急連絡が入りました。ソ連沿岸州から多数の爆撃機が出撃し、帝都を目指して進攻中……と」
吉田は唖然とした。「それでは……まさか……」
伊藤は頷いた。「――“陽動”です。我々を本土から引き離すための」
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