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時空戦艦『大和』  作者: キプロス
第1章 戦前の大和~1937年
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第6話 三羽烏の巣(中)

 第6話『三羽烏の巣(中)』

 

 

 【私は舞い降りた。三羽烏の巣へ】

 

 (伊藤整一口述回顧録-第1部第4章『三羽烏の巣』より抜粋)



 1937年7月4日

 東京府

 

 その晩、伊藤は青山南町の一軒に足を運んだ。『山本』という表札が目に付き、伊藤は目頭を抑えた。感慨無量だった。1946年から1937年に舞い戻り、死を迎えた筈の人間に会おうとしている。その人の名は――山本五十六。後に連合艦隊司令長官となり、ブーケンビル島に散る男。そんな彼は現在、海軍中将の位に着き、海軍次官の職を担っていた。その山本に伊藤が連絡を取れたのは、加藤呉鎮守府司令長官の尽力の賜物だった。

 青山南町、山本邸に足を踏み入れた伊藤はその晩、書斎で自身の事を伝えた。無論、加藤ほどではなくとも、最初は半信半疑だった。既に気付いていた伊藤は持ち合わせた証拠の類を見せ、何とか信じさせられる事に成功した。また謀略や陰謀でない事も、十分に伝えた。

 「それで、俺は如何に死を迎えるのでしょうか?」と、唐突に山本は言った。

 山本五十六の死は太平洋戦争中期の1943年、昭和18年4月18日。米軍は日本軍の暗号電報を解読、それは山本司令長官の前線視察を行うというものだった。ウィリアム・F・ハルゼーはこれを機に山本の抹殺を計画。ガダルカナル島ヘンダーソン飛行場よりP-38『ライトニング』18機を送り込み、山本の搭乗した一式陸上攻撃機を撃墜。山本はブーケンビル島上空にて戦死した。いわゆる『海軍甲事件』である。とはいえ、未だにその謎は多く、1946年からやって来た、事件に直接関わっていない伊藤としては、戦死の報と国葬の記憶ばかりが頭の中を埋めていた。

 「すみませんな」感慨に耽る伊藤の顔を見て、山本は言った。そしてトランプの入った箱を卓上に出した。「では、ポーカーなどは?ご一手願います、伊藤閣下」

 

 

 その晩遅く、伊藤は青山南町の山本邸の書斎で、山本と原とともにポーカーを興じ、酒を煽りながら、先の日中戦争や日独伊三国同盟についての見解と憤懣をぶちまけた。盧溝橋での騒乱から拡大する中国戦線、そして――ドイツ・イタリアとの軍事同盟締結。後に開戦を迎える太平洋戦争、大東亜共栄圏の占領戦略や通商路防衛戦略についてが話の主だった。

 「にしても、米国は恐ろしいものですな」

 山本は言い、チップを投げ出した。「帝国海軍とは桁違いの工業力を持つのは、以前より良く知っていましたが……相手は十隻以上の空母を建造し、尚且つ数百隻もの駆逐艦や巡洋艦が釣りに来るとは」

 訪米経験を持ち、アメリカの工業力をよく知る彼はエセックス級空母の数については然程、驚きはしなかった。それよりも恐れたのは、本当に建造出来るだけのアメリカの工業力だった。太平洋戦争中、アメリカは24隻のエセックス級を建造したが、大日本帝国海軍も戦前から30隻に及ぶ空母の建造を計画していた。戦後に急策として出された改マル5計画では、雲龍型空母を15隻(後に13隻に削減)、改大鳳型空母5隻の計20隻の建造が予定されていた。しかし、実際に戦況は悪化。起工されたのは6隻で、完成したのは4隻。改大鳳型空母に至っては、1隻も建造出来なかった。ミッドウェーで大敗を喫した結果の行為だが、それを計画出来ども、実際には造れない。一方、この改マル5計画の1年後となる1943年には、アメリカは12月8日までにエセックス級7隻、インディペンデンス級8隻を計画通りに竣工させた。

 「輝かしい大日本帝国海軍の大和魂も、空母戦力比15対1の前には役に立たなかった――という訳ですな」山本は言った。「では、大建造を……と、言いたい所ですが……」

 伊藤は静かに頷いた。「現在の日本では、無理でしょう。大和型戦艦の建造を中止し、仮にその資材と予算を空母建造に回したとして、最終的には20隻を越える数の空母を造る……いや、それ以上造れるだけの力を米国は持っている。彼等を相手にするには――」

 「……工業力の増強」山本はカードを卓上に置いた。「ですな」

 ポーカーやブリッジの名手である山本が出したのは――フォーカード。同数字が四つ並ぶ事で成立するその組み合わせは、4165分の1の確率で出る組み合わせだった。

 一方、伊藤はスリーカード。原はフルハウスで山本の勝利となった。



 

 「その運が妬ましいものですな」伊藤は笑みを浮かべながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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