第51話 2つの大洋、2つの演習(後)
第51話『2つの大洋、2つの演習(後)』
1942年2月12日
英領マレーシア/シンガポール島
碧海と蒼穹の間、燦々と日が照り付ける夕刻のシンガポール湾にはイギリス・日本・オランダ・オーストラリアと、4つの国籍の軍艦が乱雑していた。空には北東から風に乗って運ばれてきた羊の毛のような、ふわふわとした雲が増えてきた。時計の針が5を刻む頃には、それが固まって厚い灰色の毛布となり、地を衝くような豪雨が降り注ぎ始めた。
車内はしんとしていて、タイヤが雨に濡れた路面を走る音と、ワイパーが静かにフロントガラスを擦る音の他には、拳のような雨粒が車体を殴り付ける轟音しか聞こえなかった。やがて椰子に囲まれた緑の道の間から『ラッフルズ・ホテル』が忽然と姿を現した。くねりくねった通りを走り抜け、伊藤らを乗せた車はビーチ・ロードに入った。
この街――シンガポールは長大な植民地を持つ英国にとって重要な位置付けにあった。東南アジアと東アジア、ヨーロッパや中東、オーストラリアを結ぶ交通の要衝である為、東西貿易の拠点となって古くから繁栄し、海運産業と石油化学産業においては東南アジア域最大規模の発展を見せていた。そしてEUの誕生後はアジアの準加盟国の軍事力を統率する司令部となり、益々価値を持つようになる。
そんな司令部にとって今一番必要としていたのは軍艦や航空機などではなく、『兵舎』や『港湾設備』だった。十分な海軍戦力を持つEU加盟国はその兵員・艦艇をシンガポール方面に駐屯させるべく、せっせと送り込んでいた。が、同時にそれは許容範囲外の兵員・艦艇を継続的に置くこととなるので、それらを迎え入れる施設を用意しなければならなくなったのである。その困窮的な問題は今月、『第1回アジア合同軍事演習』が開催されることになってから急速に具現化した。一般の兵士達はバラックや民家に詰め込まれ、軍艦はシンガポール港から溢れ出ていた。それら人間や軍艦の腹を満たす食糧や燃料を積んだトラックが街を走り、各道は常に渋滞状態となった。
将兵や下士官達が汚らしいバラックや民家で寝泊まりする中、高級将校達は市内各地に点在する高級ホテルに宿泊していた。その1つにあったのが――『ラッフルズ・ホテル』だった。パラディアン様式の3階建ファサードで、周りに奥行きの深い回廊とベランダを巡らし、コーナー部分にエントランスホールを設けた建築様式となっている。横に長い形、白い漆喰壁、フローリング張りの床、広いベランダと庇を備えた独特のコロニアル様式の建物だ。元はバンガローから始まり、『ビーチ・ハウス』と呼ばれていたラッフルズ・ホテルだが、粗末な過去を思い起こさせない優雅な建物だった。全盛期の20年代には、ゴム景気に浮かれ、羽振りの良い成金や英本国の紳士達が毎晩出入りしていた。
そして1942年、シンガポールはEU特需に再燃され、このラッフルズ・ホテルも最近までは20年代の再来となっていた。しかし今ではイギリス海軍やオーストラリア海軍の高級将校達の住居となり、そういった人達は来れなくなっていた。
車はラッフルズ・ホテル前の通り、ビーチ・ロードの前で停まった。横殴りの豪雨の中に飛び出した伊藤整一と山本五十六は身を屈め、必死でラッフルズ・ホテルへと走った。マレー人の純白のボーイ――白い制服と帽、そして手袋に身を包んだ――が駆け寄り、傘を頭上に掲げてくれたので、2人は何とか難を逃れた。
「いやいや、酷い目に遭いましたな」
扉が開き、2人が濡れた体で入ってきた。エントランスホールに立っていたイギリス海軍の警備兵がこれを見て折り目正しく敬礼し、持っていたハンカチを渡してくれる。「thank you」やや日本訛りの英語を2人は警備兵に返した。
「そうだ、アドミラル・フィリップスはいらっしゃるか?」伊藤は訊いた。
「はッ、フィリップス閣下は『ティフィン・ルーム』にて、軽食を摂られているかと……」警備兵は言った。「ご案内致しましょうか?」
2人は頷いた。
純白の眩い内装、コロニアル様式独特のフローリング張りの床、天井が高くファンが回り、背筋を伸ばした白い制服のウェイター達が、軍服を着た男達の間を歩き回る。ホテルロビーの左手奥にあるこのレストラン――『ティフィン・ルーム』は現在、イギリス海軍とオーストラリア海軍の提督達の憩いの場となっていた。プライドの高い彼らは、一般士官達のように昼間から2階の『ロング・バー』で酒を飲んで酔い、暴れ回る訳にいかないからだ。それでは誇り高きロイヤル・ネイヴィーの名が廃る。とりわけ、東洋艦隊司令官のトーマス・フィリップス大将はティフィン・ルームがお気に入りだった。
外は雨脚が弱まってきていた。2人が店内に入った頃には細かい霧雨に変わって、途切れ途切れになった雲間から紺碧の空が覗いている。
フィリップスは真っ白にテーブルクロスが掛けられた4人用テーブルに1人で座り、書類の山に囲まれながら執務にあたっていた。ウェイターがサンドイッチやスコーンを載せたケーキ・スタンドを運んできて、フィリップスは胃袋へ送り込む作業に取り掛かった。伊藤と山本はその席に歩み寄り、折り目正しく彼に敬礼した。
「アドミラル・フィリップス」山本は言った。「私は帝国海軍海相のヤマモトです。隣はバイス・アドミラル・フジイ」伊藤は会釈した。
「お会い出来て光栄です、山本海相」フィリップスは立ち上がり、2人と握手を交わした。「さぁ、どうぞ、お掛け下さい」フィリップスは書類の山を掴むと、手を挙げて従兵に退けさせた。そして彼は山本と伊藤に、席を勧めた。
数分後、2人分のティーセットがウェイターによって運ばれてきた。温かな紅茶が純白のティーカップに注がれ、焼き立てのスコーンとヨークシャー・プティング、そしてソーセージが白磁の皿に盛り付けられる。伊藤はクロテッド・クリームを塗ったスコーンを頬張り、山本はサンドイッチを口に入れた。
フィリップスは2人の顔色を伺った。「ティフィン・ルームの味はいかがですかな?」
「素晴らしい味ですよ」山本は言い、紅茶に下鼓した。「流石はラッフルズ・ホテルのレストラン。やはり他とは違いますな」
「では、本題に入りましょうか」伊藤は言った。
「そうですね。確か――“明日”の演習の事でしたな?」
山本と伊藤は頷いた。マラッカ海峡で開催される『第1回アジア合同軍事演習』は明日に迫っており、シンガポール各所では4ヶ国の海軍関係者達がその調整に奔走していた。演習内容、演習の所要時間、開始時の天候、各海軍の状況等、複数の条件が整っていないと、演習も成功しない。
「我が帝国海軍は万事整っておりますが、英海軍はいかがですかな?」
フィリップスは頷いた。「我々も同様です。戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』は機関の不調がありましたが、昨日解消しております」フィリップスは言った。「それよりも、『大和』の調子はいかがです?是非、演習には参加して欲しいですからな。それに、英本国からも要請が来ておりますので……」
山本は頷いた。「それは御心配無く、『大和』も戦いたくてうずうずしていましょう」
その後、3人は明日についての打ち合わせを続けた。打ち合わせが終わると、伊藤達はティフィン・ルームを後にし、フィリップスは再び店内に1人残された。時は既に夜だ。車中に戻った2人は短い沈黙の後、明日の演習が起こすであろう影響について、語り始めた。
「英海軍の最新鋭戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』は仮にも戦争の抑止力だ。『大和』もそうだと言える」伊藤は言った。「もし、抑止力と抑止力が本当に激突するようなことがあれば……凄惨な結果となるのは明白でしょう」
山本は微動だにせず、渋面を浮かべた。「では、我々は勝ちを譲ってイギリスの面子を守り、そのような結果を起こさないべきでしょうか?」
「それでは『大和』の抑止力としての効果が消え、各国海軍が続ける戦艦の建造競争が途切れてしまうやもしれません。ここは完膚無きにまでプリンス・オブ・ウェールズを叩くか、五分五分かの結果が望ましい」
「では、我々に負けは許されないのですね?」
伊藤は頷いた。「フィリップス大将は本来、去年12月に死を迎える筈でした」伊藤は言った。「しかしその歴史も改変させてしまった。ならば、我々はとことんこの歴史を変え、焦土と化した未来を迎えないようにすべきでしょう」
山本は頷いて言った。「では、変えましょう」
三菱『金星43型』星型14気筒エンジンの咆哮が雷鳴のように響き渡って艦橋の窓を揺らすと、零式水上偵察機がぼやけて窓の外を飛び去っていく。それが1機、2機と増え、6機が合流すると扇状に展開して、海上索敵を開始する。
戦艦『大和』を先頭とし、戦艦『長門』、『陸奥』と続く単縦陣はマラッカ海峡をひた走っていた。その単縦陣を構築するのは、帝国海軍最強の艦隊『第一艦隊』と、連合艦隊直属艦隊の猛者達だ。
艦隊は旗艦を『大和』として、戦艦『長門』、『陸奥』の連合艦隊直属第一戦隊。『伊勢』、『日向』、『扶桑』、『山城』の第一艦隊第二戦隊所属の戦艦4隻が続く計7隻の陣容である。その単縦陣の左翼には軽巡洋艦『北上』、『大井』所属の第九戦隊と、軽巡洋艦『川内』を旗艦とする第三水雷戦隊所属の4個駆逐隊、駆逐艦計14隻が布陣し、更に後方に第六戦隊所属の重巡洋艦『青葉』、『衣笠』、『古鷹』、『加古』が加わる。
一方、これに対して英海軍は旗艦『プリンス・オブ・ウェールズ』を先頭とし、『レパルス』、『レナウン』の同級巡洋戦艦2隻、戦艦『レゾリューション』、『ロイヤル・サブリン』、『ロイヤル・オーク』のリヴェンジ級戦艦3隻が続く。更に重巡洋艦『エセクター』、『ドーセットシャー』が続き、その後ろにオーストラリア海軍の重巡洋艦『キャンベラ』が加わっている。その後方にはイギリス・オーストラリア・オランダ3海軍所属の軽巡洋艦7隻、駆逐艦21隻が展開していた。
「数では劣しているが、それは承知の上だ。性能と経験の差で埋められよう」吉田連合艦隊司令長官は幕僚達に告げる。そんな間、帝国海軍が総力を挙げて製作した新型電探と零式水偵が索敵を続けていた。
先に敵艦隊を見つけたのは――電探だった。英豪蘭3国連合艦隊は23~24ノット近い速度でマラッカ海峡を北進している。やがて視認圏内に到達すると、両艦隊は初めて敵艦隊の核たる旗艦の艦影を目視で見張ることが出来た。
「あれがロイヤルネイヴィーの最新鋭戦艦か……」吉田は呟いた。「巨大で、強そうだ」
「しかし、この『大和』には及びますまい」そう言ったのは、連合艦隊参謀長の伊藤整一少将だった。「あの艦隊は旧式艦と3つの国の海軍から成る烏合の衆といえましょう。その烏合の衆にしても、纏め上げる人間がいれば真価を発揮出来ましょうが……」
「東洋艦隊には居ない――か?」
伊藤は頷いた。「冷静且つ適切な対処を行えば、勝機は十分にあります」
「分かった」吉田は頷いた。「全艦砲戦用意!第九戦隊・第三水雷戦隊は敵駆逐艦部隊を迎撃、撃破せよ。第六戦隊も駆逐艦部隊を撃破する為、第三水雷戦隊に続け!」
開戦の火蓋を切ったのは、戦艦『大和』の主砲、三連装45口径46cm砲の咆哮だった。右舷に向けられた全砲門がその砲火を上げ、計9発の演習用砲弾が先頭の戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』に襲い掛かった。
約1分後、プリンス・オブ・ウェールズの周囲に9本の水柱が聳え立った。その大半はプリンス・オブ・ウェールズの艦体に掠りもしていない。第2射もまた同様である。斉射はド派手で威圧的なものだが、その命中率は望まれない。砲術長の西宮勲中佐は『蟹眼鏡』と呼ばれる照準器を覗き、そこに映るプリンス・オブ・ウェールズ目掛けて、射撃を命じた。
「射ッ!!」
再び46cm砲から飛び出した砲弾は唸りを上げ、プリンス・オブ・ウェールズに襲い掛かった。砲弾2発が1番砲塔、戦闘艦橋に直撃、判定によって1番砲塔が使用不能となり、艦橋に居たトーマス・フィリップス大将とその幕僚達は沈黙してしまった。
「何だ、今のは……」フィリップスは呟いた。「私は気付かぬ内に死んでしまったというのか?」
その後、第3射、第4射と続き、第5射目でプリンス・オブ・ウェールズは致命傷を負って撃沈判定が下りた。無論、プリンス・オブ・ウェールズもぼーっと『大和』の砲撃を眺めていた訳ではない。主砲たる35.6cm砲をもって反撃の砲火を上げていたのだが、理論上『大和』は46cm砲弾の直撃にも耐えうる装甲防御力を持っており、35.6cm砲の直撃弾は全く効果が無いと判断されたのである。
一方で、強靭な防御性能を誇る『大和』が35.6cm砲弾を跳ね返せたとしても、後続の艦はそうもいかなかった。戦艦『長門』は艦尾に直撃弾を受け、操舵不能。戦艦『陸奥』は史実の不幸を表すかのように、英海軍戦艦群の砲撃を次々と受け、弾薬庫の誘爆が生じたという判定で撃沈。『伊勢』は無事だったが、『日向』は1番砲塔付近に直撃を食らい、使用不能になった。後続の『扶桑』、『山城』も小破した。
もちろん、損害の甚大さは日本側だけではなかった。3国連合艦隊は早くも総旗艦を失い、続く『レパルス』は前部甲板、艦橋下部、左舷後部のそれぞれに戦艦『長門』の41cm砲弾が直撃し、大破判定を受けた。その後続である『レナウン』は撃沈。戦艦『レゾリューション』は前部甲板に直撃を受け、1番、2番砲塔が使用不能。また、3番砲塔も『伊勢』の砲撃で使えなくされていた。『大和』の砲弾の1発が艦橋に直撃したとして、司令部以下全員が死傷判定を受ける。『ロイヤル・サブリン』は機関部に損傷を受けて停止。『ロイヤル・オーク』は三脚式の前部マストが崩壊し、方位盤測距室は戦艦『日向』の35.6cm砲弾によって一掃された。
これまでの双方の戦果は――。
・帝国海軍連合艦隊
戦艦『大和』:小破
『長門』:大破、操舵不能
『陸奥』:撃沈
『伊勢』:小破
『日向』:中破
『扶桑』:小破
『山城』:小破
・英豪蘭3国連合艦隊
戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』:撃沈
巡洋戦艦『レパルス』:大破
『レナウン』:撃沈
戦艦『レゾリューション』:大破
『ロイヤル・サブリン』:大破、機関停止
『ロイヤル・オーク』:中破
重巡洋艦『エセクター』:撃沈
『ドーセットシャー』:大破
『キャンベラ』:小破
性能の差はあれど、旗艦を最初に失い、巡洋戦艦と戦艦と重巡洋艦それぞれを1隻ずつ撃沈され、少なくとも4隻が戦闘で役に立たなくなってしまったというこの結果は、ロイヤル・ネイヴィーにしてみれば屈辱の極みともいえるものだった。同海軍の艦艇が目も当てられない損傷を受けているというのに、オーストラリア海軍の重巡洋艦『キャンベラ』だけが比較的被害が少なかったのも、世界最強の海軍のプライドを傷付けるのに十分な材料であった。
一方で、帝国海軍もこの戦果に喜んでいられる場合では無かった。かつて、帝国海軍の象徴ともいえた戦艦『長門』を操舵不能にされ、『陸奥』を撃沈されたというこの事実は許されない。操舵不能になった『長門』は、場合によっては自沈処分としなければならない状況も考えられるので、これは事実上の『長門型戦艦』の消滅に直結する結果なのだ。
「第三水雷戦隊と第五・第九戦隊はどうだ?」吉田は訊いた。
「駆逐艦14隻中、3隻が撃沈、2隻が大破、3隻が中破の判定を受け、軽巡洋艦『川内』が中破に至りました。第九戦隊は『北上』の損傷が小破で抑えられましたが、『大井』は撃沈されました」伊藤は言った。「更に第五戦隊では『衣笠』が撃沈、『青葉』が大破、『古鷹』及び『加古』は小破に留まりました」
「4隻撃沈、3隻大破か……」吉田は呟いた。「敵側は?」
「駆逐艦21隻中、7隻撃沈、5隻大破、3隻が中破判定を受けました。軽巡洋艦は英海軍のものが1隻撃沈、オーストラリア海軍も1隻、オランダ海軍も同様です。大破は1隻、中破は1隻、小破は2隻」
以下の戦果を纏めると――。
・帝国海軍連合艦隊
駆逐艦(14隻)
撃沈:3隻
大破:2隻
中破:3隻
小破若しくは損傷皆無:6隻
軽巡洋艦『川内』:中破
『北上』:小破
『大井』:撃沈
重巡洋艦『青葉』:大破
『衣笠』:撃沈
『古鷹』:小破
『加古』:小破
・英豪蘭3国連合艦隊
駆逐艦(21隻)
撃沈:7隻
大破:5隻
中破:3隻
小破若しくは損傷皆無:6隻
軽巡洋艦(7隻)
撃沈:3隻
大破:1隻
中破:1隻
小破若しくは損傷皆無:2隻
帝国海軍側は撃沈5隻、大破3隻。3国海軍側は計10隻という2倍近い撃沈数が算出された。これもまた、戦艦部隊同様にロイヤル・ネイヴィーを傷付けるのに十分な結果と言え、同時に帝国海軍にとっても恥ずべき損害であった。
「しかしこれは大いなる戦果です」伊藤は言った。「少なくとも、我々は3つの国の海軍に勝利したと言えましょう。数の劣勢、地の劣勢を覆したのです。『長門』と『陸奥』の損失は甚大ですが、これからは『戦艦』ではなく『空母』の時代なのですよ」
吉田は頷いた。「もしここに『武蔵』が居れば。そして、第一航空艦隊の機動部隊が居れば、我が艦隊は1隻の損失も無くこの海戦に勝てたろう。戦争は『数』と『才能』によって決まるのだ」吉田は言った。「戦艦1隻を失ったら、2隻の空母を報復に向かわせるまでだよ、伊藤君」
伊藤はその点については正解とも言え、同時に不正解とも言えると思った。日本は37年から着実に力を付けてはいるが、工業力を用いた『物量戦』ではアメリカに大敗するだろうと考えていたからである。アメリカなら、1隻の戦艦の喪失に4隻の空母を報復に向かわせることだって可能だろう。『才能』にしても、年月がそれを解決してくれる。日本がアメリカに見出せる勝機は、緒戦から中期に至るまでの時期に持てる力の全てを投入し、持久戦にアメリカを持ち込ませないことだろう。そう伊藤は考えていた。
ご意見・ご感想等お待ちしております。