第50話 2つの大洋、2つの演習(中)
第50話『2つの大洋、2つの演習(中)』
1942年2月5日
アメリカ合衆国/ハワイ準州
オアフ島はカネオへ沖300マイル。パールハーバー泊地から島の反対側の端まで進出したところで、第8任務部隊司令官のウィリアム・F・ハルゼー中将は振り返った。星空は薄れつつあり、曙光がおぼろげに窓ガラスに反射していた。ガラス越しに映る光景もまた、闇夜に浮かぶ艦影の他、オアフ島の輪郭が徐々に浮かび上がってきていた。――夜を越したか。ハルゼーは胸に呟き、拳を握り締めた。
「閣下、ブラウン提督から入電です」通信兵は言った。
「内容は?」
「はッ!『ワレ、当作戦海域ニ到達ス。貴官ノ指揮ヲ乞ウ』」
ハルゼーは首を振った。ウィルソン・ブラウン中将率いる第11任務部隊だが、同機動部隊の到着は予定された作戦開始時刻を超えていた。怒気をあらわにして、水平線上に現れた第11任務部隊の艦影をじっと見つめている。『ブル・ハルゼー』の短気っぷりを認識していた参謀長マイルズ・ブローニング大佐は彼の感情を見抜き、慌てて対処した。
「第11任務部隊はサンディエゴからの出発です。それに今回は未曾有の作戦ですので、多少の遅れは当然といえましょう」
「そんな事は分かっている。俺が苛々するのは、奴が図々しくも電文を寄こしてきたことだ。戦時には無線封鎖でそんなことはご法度だ。それに詫びの一つもないのも気に食わん」ハルゼーは震える声で言った。「それに奴が遅れた理由も……だ。恐らく、増援戦力の戦艦『コロラド』のせいだろうよ。あんな病み上がりの鉄屑を連れてくるぐらいなら、補給艦の1隻でも連れて来いってんだ」
コロラド級戦艦第1番艦『コロラド』は最高速力21ノットの旧式戦艦である。史実では1942年3月までオーバーホールに入っていたが、今物語では戦艦『Y』や今回の『フリート・プロブレム22』を受けて、期間が短縮された。
「まぁいい……」ハルゼーは不満そうに言った。「戦力は揃った。これでパーティーが始められる」
1942年2月5日午前4時、ここに『フリート・プロブレム22』は開幕した。ハワイ海域としては第1回目となる今回の演習内容は、第8、第11、第17任務部隊を基幹とするブラック・チーム(侵略側)とオアフ島のホワイト・チーム(防衛側)である。ブラック・チームの総指揮官は第8任務部隊司令官のハルゼーで、ホワイト・チームの総指揮官は太平洋艦隊司令官のハズバンド・E・キンメル大将である。2つのチームはこの指揮官を中心とし、攻防戦を繰り広げる。
その内、ハルゼー機動艦隊の概要は――。
【ブラック・チーム・TF】
(総司令官:ウィリアム・F・ハルゼー中将)
・第8任務部隊
(司令官:ウィリアム・F・ハルゼー中将)
(参謀長:マイルズ・ブローニング大佐)
空母『エンタープライズ』
(艦長:ジョージ・D・マレー大佐)
重巡洋艦『チェスター』
『シカゴ』
駆逐艦:6隻
・第11任務部隊
(司令官:ウィルソン・ブラウン中将)
空母『レキシントン』
(艦長:エリオット・C・ギャロウェイ大佐)
重巡洋艦『ニューオリンズ』
『アストリア』
駆逐艦:6隻
・第17任務部隊
(司令官:フランク・J・フレッチャー少将)
空母『ヨークタウン』
(艦長:ロドニー・A・ランプキン大佐)
重巡洋艦『ルイビル』
『サンフランシスコ』
駆逐艦:6隻
・第3巡洋艦戦隊
(司令官:チャールズ・T・ジョイ少将)
旗艦『インディアナポリス』
重巡洋艦『ポートランド』
『クインシー』
軽巡洋艦『ナッシュビル』
『ヘレナ』
駆逐艦:8隻
・第5巡洋艦戦隊
(司令官:レイモンド・A・スプルーアンス少将)
(参謀長:カール・ムーア大佐)
旗艦『ノーザンプトン』
重巡洋艦『ソルトレイクシティ』
『ペンサコーラ』
軽巡洋艦『アトランタ』
『セントルイス』
駆逐艦:8隻
・特別混成戦艦戦隊
(司令官:ウィリス・A・リー少将)
旗艦『メリーランド』
戦艦『コロラド』
駆逐艦:4隻
・補給部隊
油槽艦:9隻
駆逐艦:8隻
米海軍としては過去最大級の陣容であろうハルゼー機動艦隊は、空母を主体とする機動戦術でオアフ島を圧倒するつもりであった。ハルゼー自身がパイロット経験を持つ実力者であり、参謀長のブローニングも優れた航空参謀だった。
「我が艦隊の第1攻撃目標はオアフ島の海軍航空戦力の撃滅にあります」ブローニングは言った。「まず、第1次攻撃隊は艦載爆撃機を中心とした布陣で挑みます。同隊は島北側から侵攻し、先鋒はカネオへ飛行場を攻撃。その後、パールハーバー泊地に侵入して、停泊する空母『サラトガ』と戦艦群、そして飛行場を叩きます。最後には海兵隊のエヴァ飛行場と海軍のバーバースポイント飛行場を攻撃して、第1次攻撃隊の仕事は終わりです」
「となると、やはり問題の焦点となるのは『奇襲』の成功と、第1次攻撃隊が如何に海軍の航空戦力を叩き潰すか――だな?」
ハルゼーの問いに、ブローニングは頷いた。
「第1次攻撃で全体の8割方を地上で撃破すれば、後は恐るるに足らんでしょう。しかし、万一にも奇襲が失敗し、迎撃の隙を与えてしまえば――」
「目も当てられん結果になる……か」
「オアフ島の海軍レーダー設備は、10年前のそれとは訳が違います」ブローニングは指摘した。「ハリー・E・ヤーネル提督の偉業を成し得る為にはレーダーへの対応と、迅速な機動戦術を発揮するのが最重要です」
ハルゼーは頷いた。「もう一つ、“数”もある。空母を3隻も呼んだのは、その問題を“数”で解決する為だ。もっとも、私としては最低でも4隻は欲しかったところだがな」ハルゼーは首を振った。「しかし演習のせいで大西洋の空を手薄にする訳にもいかんからな。空母1隻分のハンデは、うちのボーイズ達の力量に補って貰うこととしよう」
1942年2月5日
オアフ島/カネオヘ海軍飛行場
ドスッという低い音がカネオへ飛行場の海兵達の眠りを妨げた。と同時に、滑走路周辺に無数の模擬爆弾が降り注ぎ、粉塵が舞い飛ばされた。陸地が無数の爆弾に覆い隠されているなら、空は無数の艦載航空機によって覆い隠されている。SBD『ドーントレス』艦上爆撃機と護衛のF4F『ワイルドキャット』艦上戦闘機が、次から次へと北東の空から来襲しては南の方へと去っていく。そして、それを迎撃しようと模擬弾を搭載した陸上戦闘機が飛び立とうとしたら、SBDの模擬爆弾やF4Fの模擬弾が上から覆い被さってきた。眩しい閃光が薄明の闇を切り裂き、模擬兵器が鈍い音を立てて砕け散った。
その音は徐々に止んでいった。しかし飛行場に映るのは――敗北である。攻撃を見ていた判定員は、2月のオアフの風が頬に妙にひんやりと感じられた。飛行場の防衛を担う海兵達も同様であり、得も言われぬ風の冷たさを感じ取った。
判定員は顔を上げた。40~50mほど向こうの滑走路近域に無数の模擬爆弾が落ちている。雹やフットボールのように、模擬爆弾の多数が地面に突き刺さっていた。そしてその大半が、駐機されていた戦闘機や爆撃機の近くに着弾しているのだ。
「『――第1波攻撃成功。同隊ノ損害軽微ナリ。ワレ、パールハーバー方面ニ侵攻中』」通信兵が電文を読み上げた。
「第1波成功、おめでとうございます」
ブローニング参謀長は笑みを浮かべ、ハルゼーに言った。
「これで1つ目の問題はクリアした訳だ。だが、これからが本番だぞ」ハルゼーは言った。「カネオへ飛行場を落としたとしても、それは小規模の航空拠点を叩いたに過ぎん。我々――いや、ジャップにとっての真の相手は太平洋艦隊だ。油断大敵といこう」
カネオへ飛行場に爆弾と砲弾の雨が降り注いでいた同時刻、第8、第11、第17任務部隊から成る一大航空編隊は轟音を立て、オアフの空を驀進中だった。これはカネオへ飛行場を迂回せず、オアフ島最北端のカフク岬から侵攻した編隊である。カフク岬といえば史実、米陸軍が防空用に配備していたSCR-270が奇襲を図った南雲機動艦隊の第1次攻撃隊を130マイルの距離で捉えた場所だ。しかしこの時、陸軍の監視
員がもたらした発見は、「米本土よりやって来るB-17」とする当直将校の身勝手な判断――数、接近コースが常時よりも大きく異なるにも関わらず――により、黙殺されてしまった。
今回は海軍の演習ということも知っていた為、陸軍は何も口答えもせず、カフク岬のレーダー情報は再び沈黙してしまっていた。島内に見事侵攻出来たこの本隊は南に真っ直ぐ進み、パールハーバーへと直走った。
「全機、パールハーバーに浮かぶ鋼鉄の海獣共に攻撃しろ!」
F4Fの機上から、空母『エンタープライズ』飛行隊指揮官のクラレンス・w・マクラスキー大尉は叫んだ。「速く……速くしろよ!」急き立てる気は無かったが、見事と言って良い程に敵の不意を突けたので、マクラスキーは無線に向かって早口になっていた。
「同時に正確を期さなくてはならんだろうに……」
SBD爆撃編隊の1機に搭乗していたルイス・レイクウッド中尉は呟いた。同隊は先手を取った訳で、そこに迅速な行動が加われば敵側に甚大な損害を与えられるだろう。しかしこちらは雷撃機を保有しておらず、そうなると精密な急降下爆撃によってしか装甲の厚い戦艦等は沈められない。
だがここに私を送り込んだのはハルゼー中将だ。猪突猛進の武将『ブル・ハルゼー』に送り込まれてきたのだ。彼は荒削りながらも幾多の演習で甚大な損害を敵側に与え、戦果を挙げてきたことはハルゼーのボーイズなら誰でも知っていることだった。「つまるところ、やはり力押し……か」レイクウッドは呟き、SBDのパイロットに2000mまで降下するように下命した。
前下方には太平洋艦隊司令部施設があるが、部隊は誰も攻撃しようとはしない。理由はいくつかあるが、眼前に広がるパールハーバーに視線が釘付けになってしまうからだろう。フォード島近岸には多数の戦艦が停泊しており、その周辺には海軍の工廠施設群、巡洋艦群、潜水艦基地、そして重油タンク群が密集して配置されていた。レイクウッド率いるエンタープライズ艦爆隊は戦艦群の両翼に回り込み、そこから急降下爆撃を敢行した。
パールハーバーは戦慄に包まれた。紅い閃光が迸り、それが空一点に向けて放たれる。
「一体、何事だ!」
「ハルゼーの攻撃らしい」
「応戦しろ!ありったけの模擬弾を奴らに向けて撃ってやれ!」
そんな声がエンタープライズ艦爆隊の猛攻撃を最初に受けた戦艦『アリゾナ』内に広がる。最初は誰もがぽかんと口を開けてエンタープライズ・ヨークタウンの両艦爆隊を見上げていたが、第1戦艦部隊司令官にして戦艦戦闘部隊司令官補佐のアイザック・C・キッド少将の指揮統制処置が入ってからは、対空砲手以外、誰も空を見なくなった。血も凍るような警報の嵐と怒号、そして対空火器の咆哮に水兵達の足音は掻き消されていた。
「キンメル司令官からの連絡は?」
「はッ!閣下は太平洋艦隊司令部から電文を打電してきました」水兵はキッドの問いに答えた。「内容読み上げます……。『逐次攻撃に対応し、反撃の準備を整えよ』――との事!」
キッドは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。「既に攻撃は受けている。私が聞きたいのは、パールハーバーやエヴァやバーバースポイントの飛行場からどれだけの航空戦力を送ってくれるか――ということなのだ」
「右舷よりドーントレス接近中!数は12」
「弾幕を形成しろ。艦爆隊の接近を許すんじゃない!」艦長のフランクリン・V・ヴァルケンバーグ大佐が騒音に負けじと声を張り上げる。
「もう遅い」双眼鏡を掲げ、キッドは荒っぽい口調で言った。「間合いに入られた……模擬爆弾の雨が降り注ぐぞ」
そうこうしている内、キッドの読み通りSBD編隊は多数の545kg模擬爆弾を投下し始めた。模擬爆弾の雨だ。本来なら炎に彩られた深紅の煙柱が噴き上がるところだが、模擬攻撃なので実感は出来なかった。しかし、誰もが敗北感を感じ取ることが出来た。
「見たところ……爆弾3、4発命中か」キッドは呟いた。「それも1番、2番砲塔に攻撃が集中している。弾薬庫への誘爆は必至だろう」
更に言えば、模擬爆弾の多数が風の影響を受けて横に流されていた。これは重量等の問題で、本来の爆弾ならもっと多くの被弾が確認されたであろう。その点も含めて、キッドの判断は妥当と言えた。
爆撃を終えたエンタープライズ、ヨークタウン爆撃隊の多くは、戦闘機群に守られながら戦線を離脱していく。本来なら沈んでいたであろう戦艦アリゾナの艦橋からキッドとヴァルケンバーグはそれを見据え、何かしらの得も言われぬ感触を抱いていた。
「各艦観測員、及び第1次攻撃隊より送られてきた報告によりますと、投弾前撃墜判定数8、投弾後撃墜判定数15、大破・中破判定数は23で、再出撃可能と思われる機体数は40機前後とのことです」
ハルゼーは唸った。「半数近くの損失……か。演習ということで過大やら過小やらの報告は多いが……」
「航空機の軽視ぶりを見れば、これは妥当な数ではないでしょうか?」ブローニングは言った。「我が方の損失も甚大ですが、ホワイト・チームの損失も相当なものと報告が入っています」
ハルゼーは顔を上げた。「具体的には?」
「カネオへ飛行場の航空機損失率8割強、パールハーバー飛行場損失率は7割で、エヴァ飛行場も同様の7割。更にバーバースポイント飛行場は半数の損失が確認されました」ブローニングは報告を読み上げた。「更にパールハーバーでは、空母『サラトガ』が飛行甲板使用不能判定で中破、戦艦『アリゾナ』が撃沈判定、『テネシー』が大破判定、『オクラホマ』が中破、『カリフォルニア』『ウェストバージニア』『ペンシルべニア』が小破判定となり、更に駆逐艦1隻が中破判定されました。これは少なく見積もった戦果とは言えないでしょう」
「いや……当初の目的を達した訳ではない。現に『サラトガ』を仕留め損なった」ハルゼーは言った。「次は予備のTBD『デバステーター』も飛ばすぞ。パールハーバーは水深が浅くて魚雷は使い物にならんが、デバステーターは爆弾も積めるからな」
「では、第2次攻撃の決定を?」
「それが当然の帰結ってもんだろう。手負いの獲物を全力で駆るのが、獅子の醍醐味だ」ハルゼーは言った。「第2次攻撃では飛行場の壊滅、損傷した戦艦、空母群の撃沈、そしてパールハーバーの工廠や重油タンク群を撃滅する。これで太平洋艦隊は半年近く活動が出来なくなるだろうな」
パールハーバーを一望する丘の上に立地する太平洋艦隊司令部は、第1次攻撃でエンタープライズ・ヨークタウン両爆撃隊の攻撃を受けなかった施設である。司令部に籠って陣頭指揮をしていた太平洋艦隊司令官のハズバンド・E・キンメル大将は、ホワイト・チームの最高司令官として全く防衛に徹せられず、チームの戦力に多大な損失を及ぼしていた。
「くそッ、何たる失態だ」キンメルは呻いた。「敵の存在は掴んでいた。演習という前提や、レーダースクリーン上に映る輝点として――だ。何故、対応出来なかった!?」
「遅すぎたのです、我々が」太平洋艦隊作戦参謀であるチャールズ・H・マクモリス大佐は言った。「この際、それにはこだわらず、各飛行場に残存する破壊判定のされなかった哨戒機を片っ端から集め、ハルゼー機動艦隊の位置を掴むことが賢明といえましょう」
キンメルは唸った。「PBYはその大半が叩き潰されんだ。そう上手くいくものか」
「ならば他に手段がおありで?」マクモリスは鋭い口調で言った。そんなマクモリスの言葉に、キンメルは沈黙してしまった。「無いのなら口答えしないで頂きたい。こうしている内にも、敵機は再び我が軍の戦略目標に迫っているのです」
「分かった。一刻も早く本隊の位置を掴み、その間は敵機を各個撃破して――」
「第2次攻撃隊の来襲です!」
キンメルの言葉はそこで掻き消されてしまった。
TBD『デバステーター』を加えた第2次攻撃隊は損傷艦艇と航空戦力、そして各種施設群の攻撃に更なる打撃を与えようと目論んでいた。エンタープライズ攻撃隊は第1次攻撃で各飛行場を攻撃したレキシントン攻撃隊とタッグを組み、再びパールハーバーへと侵攻する。
「『レディ・レックス』の航空隊か」レイクウッドは呟いた。「その伝統に負けないような古参のパイロット達が集まっていると聞くが……実力はどれほどのものかな?」
そんな中、レキシントンの艦爆隊は攻撃を開始した。R-1820『サイクロン』星型エンジンが雷鳴の如く唸り、その雷鳴とともにSBD急降下爆撃機が雲の下へと下ってくる。彼らの標的は手負いの戦艦『オクラホマ』で、対空砲火のベールを引き裂いて545kg模擬爆弾を投下した。
「判定、戦艦『オクラホマ』撃沈!」
偵察機に搭乗していた観測員が判定する。オクラホマは活動を停止し、仮死した。
しかしレキシントン攻撃隊の猛攻は止まらない。F4Fは完璧な防空態勢を築き、それに味をしめたSBDは急降下爆撃で大破、漂流判定の戦艦『テネシー』を攻撃した。テネシーは左翼からの猛攻を受けて転覆、事実上の撃沈判定を受けることとなる。
それを傍観していたエンタープライズ艦爆隊指揮官のレイクウッドは関節をポキポキ鳴らしながら、パイロットに下命した。「『カリフォルニア』を狙うぞ」彼の前で操縦するパイロットは頷き、艦爆隊はレイクウッド機に率いられて戦艦『カリフォルニア』爆撃を開始した。
バーバースポイント飛行場より迎撃機が離陸したとの報告がエンタープライズ飛行隊指揮官であるマクラスキー大尉の下に入ったのは、ちょうどレイクウッド達がカリフォルニアに攻撃を仕掛けた時であった。ホワイト・チームの印が描かれたF4F『ワイルドキャット』が現れると、恐怖も現実のものとなった。
「迎撃するぞ!」
マクラスキーはF4Fを駆り、ホワイト・チームの迎撃部隊に立ち向かう。パールハーバー直上で対峙した双方は12.7mm機関砲を咆哮させ、ここに空戦が始まった。
「模擬弾を使うぞ!奴らを蜂の巣にしてやれ」
マクラスキー以下エンタープライズ戦闘機隊は卓越した戦闘技術により、迎撃隊を不利な状況に追い込んだ。マクラスキーは2機の僚機と協同し、12.7mm機関砲によって敵のF4Fを撃墜した。今回の空戦によってホワイト・チームの航空戦力は撃滅され、ブラック・チームの優勢は決した。
「報告が届きました」
ブローニング大佐は言った。「まず、カネオへ飛行場は損失率9割、パールハーバー飛行場は8割、エヴァ飛行場は8割、バーバースポイント飛行場は7割の損失となりました。ホワイト・チームの航空戦力は最早、役立たずといえましょう」
「戦艦は?」
「新たに戦艦『オクラホマ』『テネシー』が撃沈判定。『カリフォルニア』が大破で、『ウェストバージニア』が中破、『ペンシルベニア』は小破です。空母『サラトガ』は大破しました。また、数隻の巡洋艦と駆逐艦が大破判定となりました」
「よし、いいぞ」ハルゼーは言った。「施設はどうだ?」
「工廠群に多大な損失を与え、重油タンク群はその7割が撃滅されました」
この施設攻撃には、予備戦力として温存されていたTBD『デバステーター』雷撃機の活躍があった。SBD艦爆隊と協同した攻撃は、太平洋艦隊の施設に甚大な損傷を与えた。
「こちらの損失数は投弾前撃墜判定数25機、投弾後撃墜判定数20機、大破・中破判定数23機です。再出撃可能と思われる機体数は30機前後とのこと」ブローニングは言った。「やはり第1次攻撃に比べれば損失率は高いですが、戦艦3隻の撃沈と航空戦力・施設群の壊滅は十分に見合った戦果といえましょう」
ハルゼーは頷いた。「作戦は成功した。これで艦隊決戦――といきたいところだが……」ハルゼーは言った。「敵に残された戦艦は『ウェストバージニア』と『ペンシルべニア』だけだ。勝負を見えている。キンメル提督が良識的な人間なら、これが無謀な戦いになると判断し、降伏を選ぶだろう。それに、ジャップならこれ以上の長居は拒むだろう」
「他愛もありませんでしたな」ブローニングは言った。
ハルゼーは首を振った。「血塗れのパイロットや、穴だらけの機体をみればその考えも変わるだろうさ。現実は人を恐怖させる」ハルゼーは言った。「もっとも、ジャップに恐怖心があるかどうかは分からんが……」
「では、撤退といこうか」
ハルゼーは言い、紅色に染まった払暁の空と、そこに漂う航空機の機影を見据えた。
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