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時空戦艦『大和』  作者: キプロス
第11章 戦時の大和~1947年
153/182

第147話 幻号作戦(後)

 第147話『幻号作戦(後)』



 1947年3月1日

 アメリカ合衆国/ハワイ準州


 ハワイ時間2月28日午前8時30分。オアフ島北方近海に展開する第八艦隊機動部隊が第1次攻撃の打撃力不足の為、第2次攻撃隊を発艦。総勢132機の艦戦・艦攻機が翼を広げ、飛行甲板を蹴りあげて飛び立った。これらは第1次攻撃隊同様、特別攻撃(雷撃)隊、水平爆撃隊、急降下爆撃隊、制空隊の4つの集団に区分され、オアフ島東岸伝いに侵攻。途中、撃ち漏らした米軍迎撃機や爆撃機の残存機撃滅のため、カネオへ飛行場、ベローズ飛行場、ヒッカム飛行場に対し、攻撃部隊が振り分けられた。そして残る機については、真珠湾における地上施設及び艦艇への第2次攻撃を実施したのである。

 しかし第2次攻撃は、炎上する施設・艦艇から生じる煙と猛烈な対空砲火の結果、第1次攻撃のようにそう易々と敵を攻撃出来るような状況ではなかった。飛行場から既に離陸した迎撃機の数も増え、それに比例して第2次攻撃隊の損害も増加したのである。だが地上施設群の大半は未だその機能を維持しており、戦艦『ミズーリ』や空母『レプライザル』を始めとする真珠湾の艦艇は、一斉に湾内脱出を図り、ハワイ沖への進出を目指したのだった。

 だが、その結果として起こってしまったのが、湾口封鎖であった。戦艦『ミズーリ』が湾口で急降下爆撃と雷撃を喰らい、転覆。そのまま真珠湾の湾口を塞ぐ形で着底してしまったのだ。これにより、湾内に50隻を超える艦艇が取り残され、成す術も無く撃沈した。無論、それ以前に脱出を果たした艦もおり、エセックス級空母の『レプライザル』もその一艦であった。

 真珠湾を望む小高い丘陵の頂上に佇む米海軍太平洋艦隊総司令部では、そんな第2次攻撃への対処と、第1次攻撃における損失の確認に大わらわとなっていた。米太平洋艦隊司令長官のウィリアム・S・パイ海軍大将は、すぐに米太平洋艦隊情報部長のエドウィン・T・レイトン少将を呼び付け、現状と逐一報告される戦果、損害を聞き、思わず渋面を浮かべた。

 「ホノルル市街地のパニックはどうしようもありません。日系人の反米暴動に発展する前に、真珠湾の海軍守備部隊を暴動鎮圧に向かわせるべきかと……」

 情報参謀の1人がそう告げるも、レイトンは手を挙げてそれを制した。

 「日系人暴動は警察と州軍に任せれば良い。それよりも問題は、真珠湾に居る大量の負傷兵の回収、そして搬送だろう?」レイトンは言った。「それにまだ暴動が発生したという報告は耳にしていない。日系人の一斉蜂起が無いとは100%言い難いが、あるとも100%言い難い。つまり、五分五分だ。私は発生しない、という方に賭けてみたい」

 「……どちらにせよ、ホノルルに回す余力は無い」

 パイ大将は冷然と告げた。

 「それよりも敵の艦隊は捕捉出来たか?」

 「レーダー施設からの報告によると、オアフ島北東200マイル圏内には、敵機動部隊の存在が確認出来たそうです。現在、哨戒機・潜水艦が北東方角の索敵任務に従事しておりますので、発見も時間の問題かと存じます……」レイトンは言った。

 「――“第8艦隊”は?」

 パイが言った第8艦隊とは大日本帝国海軍第八艦隊のことではない。南太平洋方面攻略の為、急遽編制された新鋭機動艦隊のことを指す。その司令長官はあのレイモンド・A・スプルーアンス海軍大将で、空母5隻、戦艦6隻、重巡8隻、軽巡12隻、駆逐艦40隻という戦力を誇る大機動艦隊であった。旗艦は『モンタナ』級戦艦第5番艦『ニューハンプシャー』だが、これはモンタナ級戦艦後期艦であり、世界最大最強と言っても過言では無い――何故ならば、その主砲を45口径50.8cm連装主砲へと換装していたからだ。性能面ではドイツの『グロース・ドイッチュラント』級戦艦には負けるものの、当のドイツは1947年現在も建造中で、まず相手にならなかった。更に米海軍はこの20インチ砲搭載戦艦の建造計画を更に推進しており、『改モンタナ』級戦艦に代わる新鋭戦艦――『ロードアイランド』級戦艦の設計と予算確保を継続している最中である。

 「第8艦隊はサンディエゴを出港し、真珠湾に向かっている途中です」

 「司令長官のスプルーアンス大将とは連絡を取ったか?」

 レイトンは頷いた。「第8艦隊司令部に問い合わせ、現状を報告しました。勝手ではありましたが」と、レイトンは謝罪する。「スプルーアンス司令長官は旗艦『ニューハンプシャー』と編制艦全艦を含めた艦隊主力を以て、ハワイに到着後、近海の敵艦隊を撃滅すると」

 「それで、その敵艦隊の情報は?」パイは訊いた。「全く米本土を叩くとはとんでもない話だ。そんなことを実際に行った奴等の面を拝んでやりたいね」

 今回の第八艦隊による真珠湾攻撃は、米海軍どころか米政府でさえ、予想外の攻撃だった。何故なら、聯合艦隊主力はフィリピンとカムチャッカ半島に張り付き、米海軍への警戒を強めているものだと考えていたからだ。そこにこの攻撃は、まさに寝耳に水。意表を突かれてしまい、奇襲という形で第1次攻撃において、戦艦1隻、空母1隻、軽巡1隻、駆逐艦数隻を撃沈・大破され、オアフ島の航空兵力の凡そ半数を撃滅されるというお粗末な結果をもたらしてしまったのである。最早、更迭は逃れられないだろう。いや、退役を強要されるかもしれないと、パイは戦々恐々だった。

 「し……真珠湾口が戦艦『ミズーリ』によって閉鎖! 他艦艇の退路が断たれました!」

 「何だとッッッ!?」

 であるからパイは、敵艦隊の撃滅による汚名返上を強く望んでいたのだ。故に彼は、真珠湾内に残存する第8艦隊の先行艦隊に対し、湾内脱出とハワイ沖合の敵艦隊への攻撃を下命。更に第8艦隊をもその隷下に置いたのだ。これによって敵艦隊との海戦を挑み、勝利を勝ち獲ることで名誉挽回し、今回の失態を帳消しにしてやろうと画策していたのである。

 だからこそ、戦艦『ミズーリ』による湾口閉鎖は衝撃的な報告となった。

 「報告しますッッ! 燃料タンクが破壊されました!!」

 そしてこの報告もまた――パイにとっては刺激が強過ぎたのだった。



 1947年2月28日8時56分。真珠湾上空、高度6000mの高みを疾駆するその25機の機影は、ジュラルミンの巨躯を震わせ、驀進する。両翼に6基の28気筒3800馬力レシプロエンジンと4基のターボジェットエンジンを搭載したその巨人機は、帝国陸海軍が渇望した戦略超重10発爆撃機『富嶽』だった。1938年から始まった鹵獲発動機R-4630『ワスプメジャー』解析、そして機体設計。それらは史実、中島飛行機創始者、中島知久平の『必勝防空計画』と一部の信奉者によってのみ支えられた“夢”――であり、その域を達することは叶う筈も無かった。何しろ当時、2000馬力エンジンの製造も困難だった大日本帝国に規格外である5000馬力エンジンや、100t以上もの超重量級機体の量産を強いたのだ。それは全くもって実現不可能な話であり、計画が頓挫したことは言うまでも無かった。

 しかし今物語においては――話は違った。


 ■『七式超重戦略爆撃機“富嶽”』性能諸元

 

 全長:48.50m

 全幅:68.0m

 全高:13.15m

 主翼面積:430.0㎡

 自重量:62,000kg

 全備重量:163,500kg

 発動機:ハ-52-2/28気筒3600馬力エンジン×6基

    :ハ-430(推力:2390kg)×4基

 最高速力:650km

 実用上昇限度:12,000m

 航続距離:16,000km

 武装:爆弾搭載量×20t

   :20mm機関砲×6門

   (胴体前方上方、胴体後方下方 尾部各2門)

   :13mm機銃×4門

   (機首、胴体両側 各2門)

 乗員:7名


 1940年の『東京五輪』成功、インフラ整備、工業力増強、EU(ヨーロッパ同盟)との技術交換・共同研究、そして『日ソ・欧ソ戦争』の勝利による国力増強により実現した七式超重戦略爆撃機『富嶽』製造計画――通称“Z計画”は、1946年の暮れにようやくその実を結んだ。今現在、オアフ島上空に浮かぶ計25機の巨大な機影こそ、その先行試作型機なのである。対米本土及び独本土爆撃を視野に入れて設計、製造された『富嶽』は、増槽搭載で最大16000kmもの長大な航続距離を誇り、爆弾6tを搭載してもその航続距離は10000kmを維持する。

 オアフ島に進出するこの『富嶽』は、それぞれが各6tもの爆弾を搭載し、南太平洋の帝国海軍根拠地――『大日本帝国のハワイ』と謳われるトラック環礁から出撃していた。それでも富嶽の元々米本土を爆撃すべく付加された航続距離ならば、往復可能な範囲であったのだ。

 「――編隊を維持し、爆撃針路を取れ。目標は燃料タンク群だ」

 統合戦略航空団戦略爆撃隊飛行長の野中五郎中佐は『富嶽』派生機の1つ、『Z指揮機』に搭乗し、隷下の富嶽に指示を下していた。このZ指揮機は最新鋭の対空・対地機上電探、通信機器、そしてチャフと対VT信管用ジャミングシステムを搭載した富嶽派生機で、優れた指揮能力と探知能力を有する――いわば現代でいう所の『早期警戒管制機』である。また偵察任務も兼任しているため、撮影機器等も装備しており、乗員数や機銃数が従来機と比べて多いのも特徴だ。

 そのZ指揮機――野中中佐機による指揮の下、計24機の富嶽はオアフ島の空を征く。高度6000mの高みを駆るその機影に対し、米軍の迎撃機が急上昇を始めるのにそう時間は掛からなかった。数分後、対空砲火と迎撃機の銃撃が鮮やかな閃光となって富嶽隊を襲い始めた。しかし富嶽の間には制空隊の護衛機が居座っており、米軍迎撃機がその間合いに入るのは困難を極めた。また、対空砲火についても野中機が搭載する対VT信管ジャミングシステムの妨害電波により、弾頭は途中で次々と自爆し始めたのである。これにより対空弾幕の密度が薄くなり、迎撃機の心配もなくなった。

 「よーし……いくぞッ、テメェらあああああああああッッ!!」

 野中が無線機を握り締め、富嶽各機に檄を飛ばす。彼の士気鼓舞は凄まじく、設立からまだ1年も満たない統合戦略航空団においても、最も士気が高く、最も団結力の強い部隊として知られていた程だ。無論、『野中一家』の渾名を冠したことは言うまでも無い。

 「爆弾投下用意ッッ! 爆弾扉開けッッッ!!」

 野中は下命し、富嶽各機が爆弾倉の扉を開閉する。爆弾倉には総重量6tに及ぶ爆弾が山と積まれ、投下の時を粛々と待機していた。

 「イ号誘導弾でいくぞ。照準合わせ!」

 イ号誘導弾『爆龍』はドイツの『フリッツX』や『Hs293』を基に開発された目視誘導式爆弾で、優れた命中精度を有した爆弾だった。その重量は1tを誇り、『日ソ戦争』後期ではクラスノヤルスクにおける強制収容所への精密誘導爆撃で、その優秀さを証明している。今回、そのイ号誘導弾が各機2基ずつ搭載され、その殆どが燃料タンク群に向けて叩き付けられる予定だった。

 「イ号誘導弾――投下ッッッッッ!!」

 次の瞬間、整然と隊列を組んだ24機の富嶽のうち、12機から順々にイ号誘導弾が投下され、燃料タンク群目掛けて降下する。富嶽の爆撃照準手はただちにイ号誘導弾制御装置を抱えた。彼らはその投下されたイ号誘導弾の姿を目で追いながら、制御装置のジョイスティックを巧みに操り、誘導弾の降下針路を調整していく。先のクラスノヤルスクでは、誤差50m範囲での精密爆撃が成功していたが、その時は超低高度を飛行していたからである。超重戦略爆撃機たる富嶽の場合、五式陸攻『連山』のような地上すれすれの飛行は機体の運動性能からほぼ不可能であったし、何分高価な機体であるために消耗が許されず、比較的高度を上げなくてはならなかったのだ。

 しかしそれでもイ号誘導弾は燃料タンク群に甚大な被害をもたらした。数のこともあり、第1次攻撃隊による事前の爆撃もあったからなのだが、それでも燃料タンク群は巨大な火柱を上げ、暁の空を更に紅く染め上げた。猛烈な業火はその燃料タンクのみならず周辺施設をも飲み込み、全てを焼き尽くしたのである。その様はまさに黙示録――破滅的な光景だった。



 米太平洋艦隊総司令部を沈黙が支配する。太平洋艦隊司令長官のウィリアム・S・パイ大将は瞠目し、情報部長のエドウィン・T・レイトン少将は眉を顰めている。刹那、爆撃の衝撃波が作戦司令室を襲い、窓ガラスが爆散した。尻餅を突くパイの下に駆けつけたレイトンは、彼を守るようにして覆い被さり、手天井から降り落ちる塵埃に背中を汚す。それは富嶽による爆撃だった。どうやらこの太平洋艦隊司令部をも襲い始めたのだ。作戦司令室の被害は軽微だったものの、施設の一部が倒壊し、壁が崩れて外に剥き出しの状態となってしまっていた。

 埃を払いつつ立ち上がるレイトンは、未だ信じられないといった様子のパイに手を差し出す。パイはようやく我に帰り、その手を掴んで立ち上がると、散乱したガラス片の海と炎上する外の光景をまじまじと見つめた。

 「何と……言う……ことなのだ……」

 彼は無意識のうちに目から涙を零していた。黒煙と炎に包まれた真珠湾。戦艦『ミズーリ』が湾口に横たわり、そこから脱出を図るも足止めを食らった艦艇群は、第2次攻撃隊の雷撃と急降下爆撃、そして富嶽の誘導弾攻撃によって次々と沈んでいく。港湾のドックは跡形も無く吹き飛ばされ、修繕機能は1つとして生き残ってはいなかった。そして肝心の燃料タンク群に至っては、巨大な煙柱となってただただオアフ島の空を駆け上るばかりだった。

 それはあまりにも衝撃的な光景であったし、非常にまずい光景でもあった。日本本土侵攻の要たる海軍根拠地、ハワイ準州オアフ島真珠湾の壊滅。海軍工廠が破壊されてしまったため、当面の間の艦艇整備は工作艦やサンディエゴに頼らざるを得ないだろう。また、真珠湾湾口を閉塞してしまっている戦艦『ミズーリ』の移動にも莫大な労力を必要とするだろう。

 だが特に悲惨なのが燃料タンク群の喪失である。この時、真珠湾には500万ガロン以上の重油が貯蓄されていたが、それが今回の攻撃によって一瞬のうちに吹き飛んでしまったのだ。更に、同様に貯蓄してあった軽油や航空機燃料等についても、そのことごとくが攻撃対象となってしまっており、多大な被害を出してしまっていた。これでは少なくとも2~3ヶ月……最悪の場合は半年近く、太平洋艦隊は足止めを食らってしまうだろう。そうなれば、日本本土侵攻計画にも大きな遅れを取らせてしまう筈だ。


 「第8艦隊……第8艦隊はまだか!?」



 パイは思わず狼狽し、悲鳴にも似た声で第8艦隊の到着を懇願した。




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