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時空戦艦『大和』  作者: キプロス
第11章 戦時の大和~1947年
150/182

第144話 コルフ事件(後)

 第144話『コルフ事件(後)』



 1947年2月14日

 大日本帝国/カムチャッカ地方


 P-47『サンダーボルト』戦闘爆撃機が木立すれすれの高度を維持し、迫ってくる。1機、また1機と迫るそのP-47の標的は、米軍の侵攻中継拠点たる山村に陣取り、迎撃を図る大日本帝国陸軍戦車第五師団戦車第二六聯隊だ。P-47は12.7mm機銃による銃撃やロケット弾攻撃、そして航空爆弾による爆撃を敢行した後、逃げるようにして飛び去っていく。民家の屋根が吹き飛び、畑に鋼鉄のシャワーが降り注ぎ、多数の戦車が炎上する。そんな悲惨な光景の中には、日米両軍の兵士達が決死の攻防を繰り広げる姿も存在していた。塹壕やトーチカに身を隠し、抵抗する日本兵と、物量に任せた波状攻撃を仕掛けてくる米兵。時間が経つにつれ、銃撃の応酬は激しさを増していた。

 「6時の方向、P-47!!」

 その時、戦車第二六聯隊司令部が仮設されていた村の一角では、数機のP-47が低空から侵入し、対地攻撃を敢行せんと企てていた。慌てて振り向いた数名の兵士は、肩に担いだ1門の噴進砲を構え、その射線上にP-47の機影を合わせていた。

 「六式22mm噴進砲、射ぇぇぇぇぇッッッ!!」

 刹那、数名の兵士が肩に担いだ携行式地対空兵器――六式22mm9連装噴進砲は咆哮する。この六式22mm噴進砲は、ドイツ軍が開発した携行式対空ロケット砲『フリーガーファウスト』をライセンス生産したものであり、その性能は折り紙付きだった。『空飛ぶ拳骨』、または『飛行機叩き』の意を持つこの地対空兵器は、1つの発射管を中央に配し、残り8門の発射管を重ねた外観が特徴的で、低空での対地攻撃を行ってくる戦闘爆撃機とは非常に相性の良い兵器であった。発射は2斉射式を採用。有効射程は500m、最大射程は2000mと短いものの、その精神的圧迫と高い命中率は敵パイロットの精神を削る上ではとても有効な代物だ。

 各門それぞれ、計4発の22mm噴進弾が射出され、続けて計5発の噴進弾も解き放たれる。そして計9発の噴進弾は空中に大きな円を描き、展開してP-47の眼前へと立ち塞がったのである。その効果は上々だ。複数の噴進弾が弾幕となり、P-47の重厚な機体に襲い掛かった。そして、その機体に直撃した途端、その信管を作動させ、内部の火薬を炸裂させたのだ。

 数秒足らずして先頭のP-47の機体が炎に包まれた。閃光が走り、黒煙が尾を曳くその機体は、確実に地上へと向かっていた。続くP-47もまた、六式22mm噴進砲の餌食となった。22mm噴進弾の1発がP-47のコクピットに直撃し、吹き飛ばしたのだ。風防が甲高い爆発音とともに粉砕された。と、同時にP-47のパイロットが爆風にその身を吹き飛ばされ、宙を舞う。数十秒後、そのパイロットを失ったP-47は機首から深々と突き刺さる形で地面に居たのだった。

 P-47のパイロット達は迷わず恐怖を覚え、眼前で繰り広げられる日本兵の行動に目を見開いた。あの凶悪な対空兵器に新たな弾を装填し、次の準備を済ませようとしているではないか。慌ててP-47のパイロットが機銃の固い引き金を引き、12.7mm機銃弾による対地掃射を行った。地上が鋼鉄の雨によって洗われ、六式22mm噴進砲を持った兵士達が次々と地面に崩れ落ちた。が、それでも高射砲と六式22mm噴進砲による防空部隊は存命であり、その応酬と言わんばかりに対空射撃が続けられたのだ。

 「戦車第一中隊より緊急電! 『北東ノ戦線瓦解ス』――以上です!」

 防空部隊がP-47を始めとする米軍機の猛攻を食い留める中、仮設司令部で図盤越しに渋面を浮かべる戦車第二六聯隊長の高橋清伍中佐は伝令兵の報告を聞き、思わず顔を上げた。

 「……これで3つ目だ。防御線が3つも突破された」

 そう呟き、高橋は頭を抱え込んだ。カムチャッカ方面軍から派遣された増援の第七七師団到着は、早くとも明日。更に第八八師団による攻撃は米軍による先制航空攻撃によって既に瓦解しており、実際に進軍出来たのはたった5キロである。そもそもこの状況下では敵陣突破はおろか、戦線維持もままならない状況であった。そしてその具体例が、戦車第二六聯隊によって敷かれた3つの防御線が突破される――という現状だ。

 「このままでは……」

 高橋は顔を顰め、神にでも縋るかのように天を見上げるのだった――。



 「P-80!」

 刹那、主翼や尾翼を捥がれながら緩降下するB-29『スーパーフォートレス』戦略爆撃機編隊の間を縫い、その姿を現すP-80『シューティングスター』ジェット戦闘機の形貌。火の粉と黒煙の嵐を一身に浴びつつも、全速力で迫るその光景は恐怖を思わせる所があった。P-80は計23機。その中には、篠原弘道少将率いる『統合戦略航空団』第一戦闘飛行隊が先ほど見逃した機体もあった。一方、七式噴進戦闘機『迅雷』は数だけでいえば大きく劣る。だがそれでも、迅雷の性能はP-80とは比較にならないものであり、しかもパイロットの大部分は史実のエースと今物語で新たに誕生したエース達によって固められているため、その実力差も十分にあったのだ。

 「20mm機関砲、射ッッ!」

 五式30mm機関砲や三式55mm噴進弾は絶大な破壊力を誇る一方、弾数が少ないことで知られる。そこで帝国陸軍が迅雷に採用したのが、この二式20mm機関砲だった。威力では五式30mm機関砲の比較とはならないが、それでもB-17やB-26程度の爆撃機ならば撃墜は容易である。

 言うが早いか、二式20mm機関砲による鋼鉄の洗礼を浴びたP-80は、その機体装甲を容易に撃ち抜かれてしまった。装填不良もなく、命中精度は抜群だった。そんな好条件時の一撃をもろに受けたP-80は、強烈な衝撃を受け、クルクルとまるでバレリーナのように高度1万mの碧空を乱舞する。やがて20mm弾の直撃を食らったP-80の右翼が歪曲し、ゼンマイの如く巻き上がってしまった。

 「ちッ! キリがねぇ」

 統合戦略航空団第一戦闘飛行隊長の上坊良太郎少佐は、コルフの町を今にも焼き払わんとするB-29の大群を前に悪態を吐いた。計300機のB-29がコルフ市街地に侵入し、今まさに爆弾と焼夷弾による空襲を敢行しているのだ。その様はさながら、地獄であった。

 上坊の駆る迅雷は天を蹴り、B-29の右側面に突っ込む。一閃、30mm機関砲による銃撃がジュラルミンの巨躯を引き裂き、その腸を抉り出した。搭乗員、爆弾、焼夷弾、燃料等が滝の如く空に降り落ち、爆発と同時に黒煙へと変換される。続く第2射もまた、B-29の1機を撃破する戦果を挙げたものの如何せん、B-29の数が多過ぎたのである。零戦や隼といった機体は高度1万mを駆るB-29編隊を叩けるほどの高高度性能を有しておらず、『飛燕』や『疾風』も米陸軍の戦闘機を叩くのに必死だった。残る『閃燕』のような新鋭機もその数は乏しく、決して頼りにはならなかったのだ。

 かくして統合戦略航空団の初陣は――終わりを告げた。



 1947年2月14日、日米両軍が激突した『コルフ事件』は、両軍の引き分けに終わった。『コルフ航空戦』では米軍側は航空機630機を撃墜されたものの、帝国陸海軍側にも航空機425機の損害を被らせることに成功した。とはいえ、制空権の奪取は叶わず、そこで米陸軍による侵攻作戦は一次中断されることとなったため、帝国陸海軍の勝利ともいえた。しかしコルフ市内の約40%が全焼し――戦闘機による迎撃と高高度爆撃による命中精度の欠如による結果――、コルフ要塞にも甚大な被害が出てしまったため、大日本帝国にとっても痛手を感じない訳にはいかなかった。また、同地域防衛を担う第八八師団が反攻作戦のために戦力の4分の3を喪失、事実上の壊滅状態に陥ったという事実もまた、大本営やカムチャッカ方面軍総司令部は無視しない訳にはいかなかったのである。



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