泣き虫の死神
その死神は泣き虫だった
人が死ぬ度、死神は死者の魂が道に迷わないように導く仕事がある
その時、道にはその死者の人生が縮図になって現れる
俗に言う走馬灯という奴であり、死神はどんな走馬灯でも泣いた
ある時は、幸せなおばあさんの走馬灯だった
あばあさんは財政は良くなく、学費も満足に払えないような家に生まれた
だけど、おばあさんは必死に勉強し、銀行に就職した
息子一人が産まれ、孫が三人もいて、その内一人は海外に行っていた為、おばあさんの死に目に会えなかった
死神は、上に頼んで海外までおばあさんを案内した
死神はおばあさんが孫に語りかけている様子を泣きながら見ていた
死神の先輩は、泣き虫の死神に渇を入れ、ちゃんとお役目全うしろと励ました
ある時は、事故で無くなった男の走馬灯だった
その男はお人よしで、困った人は放っておけない気質だった
小さい時から怪我をした仲間を負ぶったり、年配を気遣っていた
男の死因も名も知らない誰かを救ってだった
走馬灯を行く途中、男にやたら絡む糸があった
死神の役割として、このような縛り付けるような縁を切るのだが
切っても切れない為、男を連れて糸の元まで行った
そこには、男が昔助けた人達がいた
皆泣いて、なんでお礼を言わせてくれなかったんだと泣いていた
男はその時初めて号泣した
死んだ時でさえ、達観したように泣かなかった男が泣いた
死神もつられて泣いた
死神と男は、泣き止むまで泣いた
愛用のマントを涙と鼻水で世界地図みたいな染みが出来るほど泣いた
その後、三途の川までちゃんと案内した
ある時は、国家的な殺人鬼だった
行く先々の戦場で人を殺し、自分も殺した男だった
目が虚ろで、何も写していなかった
しかし、走馬灯を歩く中で殺人鬼に変化が起きた
一筋の涙を流していたのだ
走馬灯には殺人鬼の若い頃の記憶が写っていた
友と語り合い、理想を語り、共に切磋琢磨していた頃の話だった
だが、年を追う毎に仲間は減って行った
殺人鬼がいたのは、研究所だった
非人道的な研究をしていて、殺人鬼が成熟した年には瓦礫の山になった
殺人鬼は研究所の関係者を洗いざらい調べ上げ、関係者を呪詛の言葉と共に殺していった
復讐を終えた殺人鬼は、傭兵となって戦場に死に場所を求めた
自分が最高の力を発揮し、だけどそれでも敵わない相手を求めた
だけど、そんな者は現れず、最後は国単位の軍勢に焼き殺された
死神は泣いた……怖くて泣いたのではない
復讐しか知らなかった殺人鬼に同情したのだ
死神はいろんな場所を巡った……香港、イギリス、アメリカ、日本
戦争が無い国を巡った
殺人鬼は、人知れず涙を流した
死神は、来世で良いことあると良いねと言って、殺人鬼を案内した
死神は、今日も何処かで仕事をしている
多分、泣き虫なのも相変わらずだろう……