鬼が島の戦いの記録
桃太郎をモデルにしています。温かい目でみてもらえると幸いです。
その時はまだ鎌倉の幕府がある時代だった。 私は吉備の国のある村に生まれた。沖合には小島があった。私が子供の頃は人は住んでいなかったが、私が元服する少し前からその島のそばを通る漁師が襲われて命を失うことが増えた。何が起きているのか、大人たちは話し合っていた。
大人たちは近づかないことを決め、子供たちにもそのように伝えた。私は何が起きているのか知りたくて友人たちとともに小舟で島のそばに近づいた。朝の霧がかかった島の海岸に人影が見えた。友人の一人が「髪の色が違うように見える」と言った。私も目を凝らしてみると確かに髪が黄色や金色に近い色に見えた。体格も大柄で私たちは鬼がいると確信した。
私たちは浜に戻ってくるとそこには村長たちがいた。私たちはとても怒られたが見たことを話した。村長たちがその場で話し合っていると、島から小舟が何艘もこちらに近づいてきているのが見えた。その上には髪色が黄色のほかに赤色のような者も乗り込んでいた。彼らは大声で何かを叫びながら丸太のような太い棒を振り回しながら近づいてきていた。村長たちは鬼がきたと騒ぎながら逃げ出し始めた。上陸してきた彼らは目の青い者もいた。村の屋敷は襲撃され金品は奪われていった。追い返そうとした大人たちも丸太のような木で弾き飛ばされていった。言葉を発しているが何を言っているかわからなかった。彼らが離れるのを隠れて待っていた私と友人たちは役人のいる隣村まで走ることを決めた。後ろを振り返ると村から煙があがり、悲鳴があちこちから聞こえていた。
隣村に着くとすでに武装した武士たちがいた。村から上がる煙を見て異変を察知していたという。彼らに事情を説明すると主君の児島氏に使いを出してくれた。次の日には大量の武士たちと神主の姿をしたものや坊主たちがやってきた。彼らは弓矢を大量に持ってきていた。私たちの話を信じ、接近戦は不利だと考えてくれたようであった。やってきた武士の一人が言った。「人であれば我らで相手する。これだけの人数と弓矢、騎馬を集めた。勝負は一瞬で決まるだろう。だが、異形のものならばこ奴らの出番だ。」と神主たちを指さした。 彼らは陰陽師というらしい。お札をもって見せてくれた。坊主たちも数珠をもって見せてくれた。私たちを安心させようとしてくれているのがわかった。私たちは彼らを案内し村へ向かった。
道中は馬の蹄の音以外聞こえないほど静かだった。武士たちも極力音のしないように進んでいた。あたりが暗くなったころ村の付近に到着した。村からは人の声や音がなにも聞こえず、波の音だけが聞こえていた。月明かりを頼りに松明を付けずに村に入ると多くの男たちの亡骸が横たわっていた。私も父を探し、家に向かうと丸太につぶされたような姿の父の亡骸があった。友人たちも同じような状況であった。私はしばらく言葉もでず動くことができなかった。女や子供の姿がないか、武士たちとともに再び捜索をはじめると乱暴された跡のある、文字に表現することを憚られる姿の女たちの亡骸が点々とあった。人数は少なく、残りは逃げたか連れ去られたと考えられた。友人の一人は女の一人が親族だったらしく泣き崩れていた。朝を待ち、女たちの捜索を再開することにした。陰陽師や坊主たちは静かに亡骸を弔いはじめていた。音を出せないことから、口だけを動かしたり何かを払う動きをしていた。
朝になり目覚めるとあたりは焼け焦げた匂いと死臭のようなにおいが漂っていた。武士たちは遺体を埋める作業をするものと、刀を研ぎなおしたり弓矢の準備をしたりするものにわかれていた。彼らは何も言わずもくもくと行動していたが、目には力が入っていた。私は船を探して武士たちと海岸を動いていた。漁師たちの船はそのままにされていた。船を運び終わると休む暇なく武士たちは乗り込んでいった。私も武士たちの案内のため、ともに島に向かった。
あたりが暗くなった頃、私たちは島周辺に到着し、取り囲むようにして待機していた。島には数名の武士が上陸し森の中へ消えた。あたりが完全に闇となった頃、村の前の浜で松明の火が一斉に灯された。島の森の中からも火の手が上がると、村の方から太鼓の音が鳴りだした。島の中から声が聞こえだすと武士たちは松明を振って合図を出し合い始めた。そして弓に矢をつがえると一斉に放ちだした。島からは野太い悲鳴のような音が聞こえだしていた。私や武士たちも確信していた。島内にいるのは怪物ではなく生き物であると。島からの合図を見ていた武士が「島内に村の住民がいるようだ」と言った。私の乗っている船を含め数隻が上陸を始めた。武士たちは槍を構えながら進みだした。
先に上陸していた武士たちの案内とともに進むと、鬼たちとの武士の接近戦が始まった。しかし、矢によってすでにほとんどの鬼たちは負傷しており、武士たちの優位に進んでいるように見えた。私は混乱する島内を隠れながら進むと、いくつか簡易な建物があった。中を慎重にのぞくと数人の女たちが隠れていた。乱暴されたような女性も確認できた。私は近くにあった布を渡して彼女たちに纏わせると、武士たちを呼びに外に出た。武士の一団を見つけて誘導し、彼女たちを保護してもらった。数刻の激闘の末、数名の鬼を捕らえ他を殲滅することに成功した。私は捕らえられた鬼たちに刃物をもって近づいたが、武士たちが前に立ち無言で首を横に振った。私は刃物を投げ捨てた。しばらくの間、勝鬨が島内に響いていた。 村に帰還すると他の女や子供、老人たちが、浜に残っていた武士たちと共に迎えてくれた。散り散りに逃げていたが太鼓の音などを聞き戻ってきていたという。私を含め村民は皆ぼろぼろであった。母たちも戻ってきていたが私は複雑であった。しかし、戦は終わった。
その後村は放棄され村民たちは各地に散り散りになった。島はその後焼き払われ児島家の当主の命により禁足地とされた。私を含め行く当てのないものは児島氏当主の計らいで、ともに村に来ていた陰陽師や坊主たちの神社や寺に保護されることになった。私はそこでこの戦いの記録を残すことに決めた。
後醍醐の帝と足利氏の戦いが始まり、朝廷が南北に分裂した。児島氏は南朝方として戦いに参陣していると聞いた。その戦には髪の色や目の色が違う化け物のような大柄の者達が参陣していたという。言葉が通じるものたちも、勝つためには手段を選ばない世の中となっていた。果たして、本当の鬼はどこにいるのだろうか。私はこの答えをまだ見つけられていない。




