魔法少女よつば 倒せ!悪の三つ葉団!
短編ギャグです。気軽に読んでください。
緑豊かな自然公園。そこに二人の姉妹がいた。
学校帰りに保育園へと妹を迎えに行った姉が、自宅へ帰る前に寄ったのだ。
妹は小さな手で緑をかき分け何かを探している。その様子を、姉は微笑ましく見守っていた。
「あった!」
パッと顔を輝かせた妹が、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「はいお姉ちゃん、これあげる!」
彼女が見つけたのは四つ葉のクローバー。
それを姉にプレゼントするために、一生懸命探していたのだ。
「あらあら、ありが……」
妹の無垢な好意を受け取ろうとした、その時──
「四つ葉はどこだーーっ!」
頭からつま先まで全身黒タイツで覆った怪しすぎる成人男性が、割って入ってきた。
「きゃあああああっ!」
「四つ葉をよこせ!」
男は、妹から四つ葉を取り上げた。
「あっ!」
妹は手を伸ばすが、当然届かない。
男は葉っぱを一枚つまみ、力を込める。
「こんなものは、こうして……こうだーーっ!」
ぷちっ。
妹がせっかく見つけた四つ葉は、突如現れた不審者によって、哀れにも三つ葉に変えられてしまった。
「うわあああっ、お姉ちゃーーんっ!」
妹は、恐怖と混乱で泣き出してしまう。
「ちょっと、何するんですか!」
「ははははーっ!」
姉が咎めることも構わず、男は目的を果たしたと言わんばかりに高笑いをした。
「よくやった!」
「トロア将軍!」
タイツの男をさらに二人引き連れ、頭上に三つ葉を掲げる鉄仮面の男が現れた。
「その調子で、この世の四つ葉を全て三つ葉にしてしまうのだ!」
説明しよう! 彼らの名は三つ葉団。
人々の幸せを奪うため、日夜四つ葉のクローバーを三つ葉に変えている恐ろしい集団なのだ!
「どうしよう、こいつら変態だわ。警察に通報しないと……」
姉がスマホで110番を入力しようとした、その時だった。
「そこまでだよ! 三つ葉団!」
凛とした少女の声が、公園に響き渡る。
「何者だ!」
「四つ葉をちぎっちゃう悪いやつ、三つ葉団を許さない!」
そこに現れたのは、フリルをあしらった衣装とミニスカート、そして金色のツインテールを靡かせる、キュートな美少女。
「魔法少女よつば、さんじょーう!」
まさに、女児向けアニメから飛び出して来たかのような、魔法少女だった。
(魔法少女……!?)
その存在に呆気に取られている姉に、さらに呼びかける者がいた。
「君達、大丈夫か!」
ブブブブブブブブ!
やかましい羽音を立てて現れたのは、50cmはある巨大でおぞましいハエのような生物だった。
「ぎゃああああっ! ハエっ! おっきなハエがあっ!」
「僕の名前はベルゼブブ! よつばをサポートする魔法生物さ!」
CV石田彰みたいに無駄に声の良い虫は、姉の顔の近くでホバリングを続けている。
(えぇ……こういうのって、もっと可愛らしいマスコットが出てくるものじゃないの?)
目の前で展開される世界観に、姉はついていくことができない。
「おのれ、魔法少女よつば。今日こそ決着をつけてくれる! かかれ!」
トロア将軍が号令をかける。
それに応じて三人のタイツの男はよつばへと襲いかかった。
「あっ、危ない!」
思わず姉は少女の身を案じる。
「大丈夫だ、見ていたまえ。よつばがただの少女ではないということを……」
ベルゼブブに言われるまま、姉妹は少女を見守った。
よつばの右手に握られるのは、先端が四つ葉をかたどった杖。
あれで魔法でも使うのか。
姉がそう思った次の瞬間──
よつばはそれを地面に放り投げた。
そして空いた右手を握り締めてタイツの男の顔面に迷いなく鉄拳を見舞った。
バキィッ!
男はその一撃で鼻血を出してその場に倒れ伏せた。
(えええーーっ! てっきりあの杖で何かすると思ったのに、武闘派!?)
無意識の期待は裏切られ、姉の脳は追いつかない。
「でももしかしてあれは、魔法で格闘を強化しているとかそういう……」
「いや、彼女は素で空手五段だ」
「強っ」
目の前で繰り広げられるのは一方的な展開。
回し蹴り、肘打ち、ジャーマンスープレックス。
よつばは戦闘員らしきタイツの男達を全て倒してしまった。
しかしトロア将軍は不敵な笑みを隠さない。
「ふっふっふっ、さすがだな魔法少女よつばよ。しかし……いくら貴様が強かろうと、罪なき一般市民を相手にできるかな?」
トロア将軍の周囲に、老若男女様々な人々が現れた。
その数は十数人。
皆一様に目に光が無く、表情は失われている。
「な、なんなのあの人達!?」
「あの目……彼らは強い絶望に支配されている! おそらく四つ葉を奪われた絶望で心が虚になり、そこにつけこまれ操られてしまっているんだ!」
(ええ……四つ葉なんかでどんだけメンタル弱いの……?)
ブブブブブブ!
「汚い真似をして! プライドは無いのか!?」
ブブブブブブ!
(ていうか、さっきから羽音がうるさい)
「行け! 愚民どもよ!」
トロア将軍の号令に応じ、操られた人々は一斉によつばに襲いかかった!
(くっ、なんて卑怯なやつなの。一般人が相手じゃ、あの女の子は攻撃できない!)
バキィッ!
よつばは、迫り来る市民の顔面に強力な剛拳をお見舞いした!
殴られた男性は容赦なく吹き飛ばされた。
「そんな事なかった!」
よつばは一人の下半身を掴むと、ジャイアントスイングを敢行。
振り回された人間が鈍器のようになって、群がる一般人をまとめて薙ぎ払った。
そしてそのまま流れるような動きで関節技へ移行。
ボキィッ!
骨が折れる嫌な音が聞こえた。
「脆いよね……人間って」
下等な生き物を見下すような冷たい笑み。
それを浮かべる彼女を見て、姉は顔を引き攣らせた。
「さあ、次はあなたの番だよ!」
よつばは標的を、トロア将軍へと見定める。
「はあっ!」
鋭い踏み込みから放たれた拳が、トロア将軍の腹部へと直撃する。
しかし、びくともしない。
「ふふふ……そんなやわな拳では私には効かんな。なぜなら私は毎日腹筋500回しているからな!」
(結構努力してる)
攻撃を無効化されたよつばに、ベルゼブブが呼びかける。
「よつば! 素手じゃ勝てない! 魔法のステッキを使うんだ!」
先ほど投げ捨てたステッキは、彼女の後方に転がっている。
「マジカルチェンジでステッキを武器に変えるんだ! そうすれば奴の腹筋も貫ける!」
(あのステッキに、そんな能力が?)
よつばは助言に従い、ステッキを拾い上げて唱える。
「マジカル、チェ~ンジ!」
ステッキが光を帯びて、姿を変えていく。
(今度こそ、魔法少女らしい戦いが……)
「よつばチェーンソー!」
ブルルルルルルン!
大音量の電動音と共に、多数の刃が猛烈な勢いで回転を始めた。
(魔法少女らしくない!)
「食らえ~っ!」
ブルルルルルルン!
チェーンソーの刃は、トロア将軍自慢の腹筋をいとも容易くズタズタにした。
刃が無数の筋繊維を断裂し、そこから鮮血が勢いよく噴き出す。
「ぎゃああああっ! 痛え! 痛えよーーっ!」
彼は腹を押さえてその場で悶絶し、左右に転がる。
おびただしい量の血は溢れて止まらず、地面を黒く染めていった。
「あははは~、地べた這いつくばって虫ケラみた~い」
よつばはその光景を見て満足そうに笑った。
(悪魔だ)
「おのれ……これで勝ったと思うなよ!」
トロア将軍は両手を空に掲げて叫ぶ。
「集まれ! 希望を無くした虚な魂よ! この俺にパワーを与えるのだ!」
彼の声に応じるように、よつばに倒された一般人から、人魂のような光がふわりと浮いて現れた。
それだけではない。どこからともなく同じような光が無数に集まってくる。
「なっ、何!?」
「わかったぞ、やつは日本中から四つ葉を奪われ絶望した人々の魂を取り入れてパワーアップする気だ!」
人魂はトロア将軍の体に入り込み、あれほど傷ついた腹筋はなんと綺麗に塞がってしまった。
なおも人魂は彼の体に集まり続けている。
「それにしてもなんて数だ……千、いや、一万を超えている!」
「豆腐メンタル多すぎぃ!」
「はあーーっ!」
トロア将軍を覆っていたボディースーツが破裂するように飛び散った。
中から現れたのは、彫刻のように鍛え上げられた鋼の肉体。
乳首は綺麗なピンク色だ。
「さあ第二ラウンドだ。遊びは終わりにしてやろう!」
よつばはチェーンソーを震わせながら再度トロア将軍へと向かっていく。
ブルルルルルルルン!
「ぬうっ!」
バシィッ!
なんと彼は白刃取りの要領でそれを両手で受け止めた!
「はあっ!」
バキイッ!
そしてチェーンソーの刃をへし折って使い物にならなくしてしまった!
「ハハハハハ! どうするよつばよ! 私はまだ9割2分4厘ほどの力しか使ってはおらんぞ!」
(ほとんど本気じゃねーか……無駄に細かいし)
「まずい、このままで勝ち目はない……よつば! 力を開放しろ! 封印を解くんだ!」
「わかった!」
よつばは両手を組み、祈るように目を瞑って何かを唱え始めた。
「大地に宿りし数多の精霊に、我呼びかける。眠れる我の力を開放せよ!」
よつばの周りに魔法陣が出現。
妖しい輝きが彼女を照らし包み込む。
そして彼女は、両手のブレスレットを外し地面へと放り投げる。
ドスン!
鈍い音を立てて地面が凹み、ヒビを作りながら土を抉った。
「よーし、これで体が軽くなったぞーっ!」
(結局少年漫画みたいなやり方でパワーアップしてる!)
「いくよっ!」
よつばは軽くなった体でトロア将軍の懐へと向かっていく。
「甘いわっ!」
だが彼はそれ以上の動きで彼女の攻撃をかわした。
「ダメだっ! まだ敵の動きが一枚上手だ!」
「そんなっ」
「こうなったらもう一人魔法少女に戦ってもらうしかない!」
「えっ? まだ魔法少女がいるの?」
「いや、その魔法少女とは……君だ!」
「ええっ!?」
突如指名を受ける姉。予想だにしていない展開だった。
「君からは強力な魔法少女の素質を感じる。あとは僕が力を与えれば、すぐにでも変身することが可能だ!」
「そ、そんなこと急に言われても……」
戦闘など行ったことのない姉は戸惑うしかない。
「あたしは普通の女子高生だし、そんな力があるなんてとても……」
「大丈夫だ。君程の『ゲロヌファア』があれば強力な魔法少女になれる!」
「魔法少女の素質ってそんな名前なの!?」
そんな二人のやり取りを前に、よつばがピシャリと口を挟んだ。
「その人を魔法少女にするなんてダメだよ!」
「よつば、彼女を巻き込みたくない気持ちはわかるが、今は意地を張っている場合じゃ……」
「いや、そうじゃなくて、魔法少女になるなら歳というものを考えてもらわないと……魔法少女の名が汚れる!」
(いや、あたしまだ17なんだけど!?)
理不尽な年齢制限に対し、姉は心の中で全力で抗議した。
内輪揉めをするよつば達を、トロア将軍は愚かしそうに笑う。
「素直に助けを求めた方がいいのではないか? もはや貴様に何が残されている?」
その言葉を受け、よつばは悔しそうに目を瞑る。
そして……何かを決意したように目を見開いた。
「……よつばエクスプロージョンを使う!」
彼女はバツを作るように、両腕を胸の前で交差させる。
「やめろ! その技を使うと寿命が縮むぞ!」
ベルゼブブは即座に彼女を制止した。
「そんなに危険な技なの!?」
「ああ……この技は、周囲の無防備な人々の生気を吸い取る……寿命が10年は縮む!」
「そっちかよ!」
「四つ葉を守るためなら、それくらいの犠牲は仕方ないよ」
「優先順位狂ってんな!」
よつばは力を溜めるように静かに目を瞑った。
「そんな大技、発動する前に叩き潰してくれるわ!」
トロア将軍が好きにはさせまいと、彼女へと迫っていく。
「バリアを張る! 二人は僕の後ろへ!」
ベルゼブブは姉妹を自分の後方へと下がらせた。
「よつば……エクスプロージョーーン!」
その瞬間、彼女を中心に大爆発が起きた。
「ぬおおおっ!?」
ドゴオオオオオオオンッ!
「きゃああっ!」
ベルゼブブのバリア越しに、姉はその威力を感じ取った。
空気が震え、地面が砕け、鼓膜がビリビリと痛む。
生身で受け止めればただでは済まないことは明白だった。
爆発の後、残ったのは無惨にも荒れ果てた公園。
トロア将軍はまともに爆発を受け吹き飛んだ。
彼が呼び寄せた一般人も吹き飛んだ。
「ふふ……さすがだ……今回は……お前の勝ちだ……」
そう言って彼は気を失った。
「ふう、危なかった」
ベルゼブブもその威力を前にふう、と息を漏らした。
「よつばエクスプロージョン……すごい威力だわ……でも、これじゃあ肝心の四つ葉がメチャクチャになってるんじゃ……?」
「大丈夫! この技は四つ葉には無害だから!」
草木一本残っていないと見られた荒地には、四つ葉のクローバーが何事もなかったかのように空へと伸びていた。
「本当だ! 四つ葉にはなんの影響も無い! 周りは見る影もない悲惨なことになってるけど!」
よつばは右腕を誇るように高く掲げる。
「魔法少女よつば、大・勝・利!」
姉は思った。これ以上彼女達に付き合っていられないと。
「じゃ、じゃあ……あたし達はこれで……」
妹の手を引いて、この異常空間から一刻も早く離脱しようとする。
その時──
「まほうしょうじょって、かっこいいね、お姉ちゃん!」
「えっ」
妹は、目をキラキラと輝かせていた。
「きめた! あたしもまほうしょうじょになる!」
「な、何言ってるの、落ち着いて」
妹を説得するため、姉は脳細胞をフル回転させる。
「あの……ほら、魔法少女っていうのは、特別な素質を持っていないとなれないのよ」
だがベルゼブブが余計な口を挟む。
「いや、彼女は素質十分だ。強力なペゲルヌチュァを感じる」
「さっきと名前違わない!?」
「ねえねえ、あなたはどの武器を使いたい?」
よつばはノコギリ、モーニングスター、ロケットランチャーなど、物騒な武器を両手いっぱいに抱え妹に話しかける。
「やめてーーっ! 妹を変な道に引きずりこまないでぇ!」
かくして、三つ葉団の野望は破られた。
しかし戦いにまだ終わりはない。
頑張れ、魔法少女よつば!
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