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婚約破棄を宣言する王子に横から声をかけたのは

作者: 日奈子

婚約破棄から始めるお話。

王子と婚約者のみ、名前があります。


悪役令嬢も転生ヒロインもいません。 

短い作品ですので、さらりとお楽しみください。

「エリザベス!お前との婚約は破棄だ!」


王城の広間で行われた、若い貴族の交流会。

学園を卒業したばかりの若者や、婚約者がまだ居ない少し大人になった若者が集まり、交流をしつつ夜会に慣れるための会だった。


音楽隊が演奏する手を止め、その演奏で踊っていた男女が動きを止め、会場の給仕達が足を止め、一同は、その声の主を見つめた。


「……リチャード殿下。なぜ、そのようなことを?」


名指しで婚約破棄を宣言された令嬢、エリザベスは、扇を口元にあて、貴族らしく表情を隠しながら、そう問うた。


そもそも、この国の王子であるリチャードの横には、この交流会の間、婚約者であるエリザベスがいるのが当然なのだが、会が始まってから今まで、彼女はひとりで過ごし、リチャードの横にはエリザベスではない女性がいたのだから、会場中が「ああ……」と、驚きよりも、やっぱりという空気になったのは、仕方がないというもの。


そんな空気を読むこともせず、エリザベスからの問いに答えようと、だしん!と一歩踏み出し、右手を高らかに上げ、そしてエリザベスへと指を突きつけたリチャードが「そんなこと……!」と、言おうとした、その時。


「ふうん?婚約破棄、するんだね」


この会場から聞こえてくるはずのない声が響いた。


その声に、いち早く反応したのは、エリザベスだった。


ドレスに手を添え、足を引き腰を折り、その声がした方向へと頭を下げた。


その様子を見て、一部の貴族は同じ方向に頭を下げ、また一部の貴族と王子、そして、その横にいる女性は、何が起きたのかと視線を動かしていた。


「へえ、エリザベスは勿論だけど、彼女以外でも分かる者はいるというのに、まったく……君は……」


そんな言葉とともに姿を現したのは……。


「ち、ち、ち、父上!?なぜ、ここに?今日は若い者だけの集まりなのですよ?」


慌てふためくリチャードの父、つまり、王子の父、この国の王だった。


その姿を見て、頭を下げていないのは、この会場では、息子であるリチャードと、その横にいる女性だけ。


その二人を一瞥すると、王は、エリザベスのところに足を運んだ。


「エリザベス、楽にしていいよ。そして、息子が馬鹿なことを言ってすまないね」  


その言葉に、エリザベスは顔を少し上げ、改めて礼をとってから、言葉を返した。


「いえ、勿体ないお言葉です、陛下。わたくしが至らなかったのです」


「うーん、エリザベスはね、頑張ってたよ。むしろ、エリザベスだから、僕はね、リチャードに王位を継がせるつもりだったんだよね。それが、婚約破棄かぁ……うーん、どうしようかなぁ」


その言葉に、周囲からはざわりとした空気が立ち上がり、リチャードが何か言おうとした、その時。


「それでは、彼女は僕が迎えてもいいよね」


また、この場にいないはずの声が聞こえた。


「ん?なんだ、来てたのか。そうだね、うん、リチャードより、君の方がまだいいか」


「まあ、僕は年齢が離れている以外でリチャードに負けるつもりはありませんからね、兄さん」


登場したのは、普段は表に出ることが少ない、王弟だった。


「はは、そうだね。君なら、エリザベスも、この国も任せられるよ。じゃあ、リチャードは、その横にいる子と一緒に、市井に降りるか、幽閉されるか、どちらがいいかな?」


「ち、ちち…うえ…?なぜ…なぜなのですか?たかが、エリザベスと婚約破棄を宣言しただけで、その仕打ち!そして、なぜ、叔父上まで!」


「うん、それが分からないのが理由だよ、リチャード。まあ、どちらを選ぶかは、今日一日考えるといい。……あらそれから、もう、私のことは父と呼ばないように。いいね?」


「……!」


声を出すことも出来ず、その場に崩れ落ちるリチャードと、横にいて何か騒ぎ立てる女性を、警備の騎士達が連れて行くのを横目で見ながら、王弟はエリザベスに言った。


「エリザベス、改めて話がしたい。あちらでお茶でもどうだ?」


「ああ、皆、騒がせたね。今日はまだまだ踊り足りないだろうから、楽しんでおくれ」


エリザベスには、断る理由もなく、王と王弟と共に、会場から姿を消した。


後に残された会場では、王の言葉に合わせて、演奏が再開され、騒動のざわめきが、若者らしいダンスで上書きされていった。



その後、エリザベスは王弟からの求婚を受け、王太子となった彼と、そう遠くない未来の王妃になるべく今日も王妃教育を続けるのだった。


この国の王は、第一王子であるリチャードを産んだ後、しばらくして儚くなった王妃を大切に思うあまり、第二夫人を娶らなかった。


それは、王よりも優秀ながらも、本人が王位を望まない王弟の存在があったというのもあり、第一王子に『もしも』があれば、彼に王位を継がせようと考えた王と側近達の意向でもあった。


第一王子リチャードは、能力的には王弟に劣るものの、若さゆえ……学園を卒業して世の中を知る機会が増えれば成長するだろう、試されていたことも気づかず、賢く将来の王妃として申し分ないエリザベスを横に置くことで、なんとかなるだろう……と、大人達は思っていた、……いたのだが。


公の場での一方的な、婚約破棄。


「そっか、もうだめだね」


交流会の様子を、監視していた影からの報告を受けた王は、執務中の椅子から立ち上がる前に、そう呟いたとか。


若い者だけがのびのびと過ごせる場とはいえ、そうそう放任されているはずはないよ、というお話。




お読みいただきありがとうございます。


王や王弟の話し方、王族らしくないかもしれませんが、私の好みですので変更不可です。


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