3話 やけくそで属性も武器種も追加されるみたいですね。ユーザアンケートが怖い
「うーん、おいしい! さすが転生者さんですわ!」
新バージョンが開幕し、一躍目玉キャラとなったミクサ。彼女は頬が零れ落ちそうなくらい幸せそうな表情でパンケーキを頬張っていた。
新緑で満たされた木立で、私たち冒険者パーティは「料理」で出来上がった甘味を楽しんでいた。
「うむ。美味だ。やはり冒険者の作る料理はおいしいな」
隣で気品のある姿でパンケーキを頬張るのはコルネリア。彼女もまたおいしそうな表情を浮かべている。
私も冒険者の作ったパンケーキにフォークを伸ばす。
「確かにこれはおいしいですね……。なんでそこらへんに放置されている鍋と少しの材料だけでこんなスイーツ作れるんですか。もう冒険者じゃなくて料理人やったほうがいいんじゃないでしょうか?」
オープンワールドの主人公って料理がうまいと相場が決まっていますよね。なんで砂糖と鍋だけで10秒たらずで立派なパンケーキ作れるんですか。パンケーキに乗ってるサクランボとホイップクリームはどこから調達したんですか。
私は頭の中の不安を払拭するようにパンケーキを頬張る。
冒険者パーティ追放の件で不安があったが、ミクサも悪気があったわけじゃない。彼女の性能が環境に適合してて、逆にファティマの性能が環境に追いつけなくて起きた結果だ。ある意味弱肉強食というわけだ。
いつか来るかもしれない災害を怯えて過ごすのがナンセンスなように、いつか来るかもしれないパーティ追放を怯え続けてるのも良くない。切り替えは大事だ。
「それにしても、私たちは『冒険者』と『転生者』どちらで呼ぶべきなのだろうか?」
コルネリアがふと真面目な顔で問いかける。
「うーん、なんか同じ人物を指す名称が多すぎませんか? 私はめんどくさいし今まで通り冒険者って呼びたいです」
オープンワールドのゲームはなぜか同一人物の名称がめちゃくちゃ多いですよね。冒険者、転生者、〇〇(ユーザさんの入力した名前)、などなど……。
「それもそうだ。よし、私も冒険者と呼ばせてもらおう」
「私は絶対転生者さんと呼ばせていただきますわ!」
……なんか、私うすうす感じてたんですけど、ミクサさんって冒険者ガチ恋勢のにおいがしますね。まだ私たち出会って数日しか経っていないはずですなんですが。今のところ主人公の魅力って料理スキルなだけな気がするんですけど。ていうか私たちの会話にさっきから一言も参加していない気がします。大丈夫ですかこの主人公。
「まぁ、各々好きなように呼ぶとして……、これからどうしましょうか? ミクサさん、何か作戦とかあるんですか?」
私の言葉に待ってましたと言わんばかりにミクサは口角を上げてほほ笑む。
「ええ、もちろん。おやつも食べたことですし、──始めましょうか。私たちの戦いを」
──ver5.1 『メイン任務:混沌の凱旋 任務開始」
「──此度の魔王討伐。よくやった、冒険者よ」
ここはゴアティエ王国の王城。凱旋のために王国に帰還した冒険者パーティは国王と謁見していたのであった。いつものようの冒険者がストーリー進行を進めるので私は後ろに下がる。
国王意外と若いんですね。めちゃくちゃおじさんだと思っていました。
後ろで私は国王をまじまじと観察する。私はバージョン途中のガチャで追加されたキャラのため、ゴアティエ王国から旅立った時のことを知らない。
彼はアレキサンダー国王というらしい。彼が冒険者に魔王討伐を命じたようだ。そして、彼こそが転生魔術を独占している張本人、真のラスボスである。
「──楽勝だった」
はぁ、またイキり選択肢を選びましたねあの冒険者は。もういいですよ、いい加減慣れました。ちょっと、ほら。王国軍の兵士が怪訝なまなざしをこちらに向けているじゃないですか。恥ずかしい。
「ふん。まぁいい。それで、こちらが報酬だ。受け取れ」
いうと、アレキサンダー国王から大量のガチャ石が配られた。
正直、私としては微妙です。ユーザさんにとってはうれしいかもしれないですが、私は普通にゲーム内通貨のほうが嬉しいです。でもまぁ私のピックアップガチャで凸を重ねるなら許します。私は2凸すると使用感が全然変わりますからね。おすすめです。
「──……。」
なんでお礼も言わないんですかあの人は。そりゃ魔王を倒した当然の報酬なのかもしれませんが、お礼くらいは言いません? 普通。
報酬を受け取った主人公はジャンプダッシュしながらそそくさと王城の謁見場を後にする。だが、扉をいくらクリックしても開かない。
明らかにおかしい。もうストーリーとしては完了したはずだ。バグでもないのにマップ移動できないなんておかしい。
と、違和感に気づいたと同時に冒険者のほほを一発の銃弾がかすめる。
「!?」
「外した、か。今の一撃で逝ければ事実を知らずに死ねたというのに……」
「アレキサンダー国王、いったい何を!?」
「もともとお前は魔王討伐したら排除する予定だった。新たなる戦いの火種になるからな。改めて言おう、よくやった冒険者よ。ここがお前の墓場だ」
──ボス顕現
破滅の王、アレキサンダー
属性:混沌
武器:銃
私たちはすぐに戦闘態勢に入る。
主人公を押しのけて、ミクサ、コルネリア、私のパーティで参戦する。
「いやいや、聞いていませんよ! 属性が混沌に使用武器が銃って! もうめちゃくちゃじゃないですか!」
「動揺しないでカナン! まずはスキルでバフを付与して頂戴! パーティローテーションが始まらない!」
「ははははい! とりあえずスキル打ちますよ!」
確かにコルネリアの言う通りだ。敵がどれだけ未知であってもパーティの起点を作らなくては始まらない。私はマイクに力を込めて歌唱する。
『スキル:可愛いだけじゃ『LOVE』ですか?』
「──みんなー! 可愛さで埋め尽くすよ! ラン! ララララ、ラン♪」
「はい、スキル打ちました! コルネリアさん! 次ローテお願いします!」
だが、
「くっくっく。弱い。弱すぎる──」
「ぐっ。銃弾を回避しきれない。HPが削られてスキルを発動できない──!」
アレキサンダーの銃弾の弾幕がコルネリアを襲う。彼女は回避行動を取るが、アレキサンダーの銃から発せられる大量の銃弾を避けきれずにノックバックしてしまう。
「ちょっと、何なんですか。あの銃、あんなの今までの敵と全然違うじゃないですか。遠距離武器は『ボウガン』だけですって。今までのセオリーがまるで通用しないです」
「ミクサ! 交代を頼めないか!」
「はい、──行きます!」
次はミクサが表に登場する。
『スキル:新世界秩序』
「私が新世界を導く──!」
ミクサがスキルを使用し、アレキサンダーに連撃を叩き込む。
どうやらミクサは中断耐性のパラメータがかなり高いようだ。アレキサンダーの銃弾を食らってもスキルを継続して使用し続ける。
いや、中断耐性って何なんですか。そんなパラメータがあるのゲーム初めて4か月後とかに初めて知りましたよ。キャラクター画面にそんなの載っていなくないですか? なにそのパラメータ……。
「……じゃなくて! これはいけますよ!」
秩序属性の付与されたミクサの攻撃により、アレキサンダーのガードゲージが破壊される。
「やりましたか……!? これがミクサさんの作戦だったってことですね! やりましたね!」
「──ははは。本当に倒せると思っているのなら滑稽だ」
ああ、やっちゃいました。これは私のミスです。こういう「やったか!?」系は全然通用していないのが定番ですね。どうして言っちゃったんだろう。でも思わず言っちゃったんですよ、すみません……。
「所詮は中断耐性。『シールド』付与されていないキャラクターなどこれで終わりだ」
アレキサンダーの手にする銃にチャージエネルギーが蓄積される。
『スキル:混沌なる破滅』
「すべてを無に帰せ──!」
そして、視界が暗黒に染まったのだった。
──ver5.1 『メイン任務:混沌の凱旋 任務終了」
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