2話 バージョン上げて無理やり話を続けるらしいですが、やっぱり放送番組のコメント荒れていましたね
「──初めまして、こんにちは。冒険者さん」
オープンワールドゲーム『聖選』。
メインストーリの終了後に現れた彼女は鈴の音のような声音で話しかける。
「え、えっとこれは──」
疑問を投げかけようとするのも束の間、私は強制的にフェードアウトされられる。
……そうでした。メインストーリーは『冒険者』に切り替わって話が進むのでした。
私の代わりに冒険者が、目の前に現れる謎の少女と対峙する。
だが、
「──……。」
「ふふっ、突然のことで驚かれましたか? それとも魔王を倒したばかりでお疲れですか?」
「──……。」
うーん、こんなにコミュ障なのにどうして主人公をやれているんですかね。
主人公、しゃべらなさすぎじゃないですか。このゲームで一番セリフ量少ないんじゃないですかね。
いろいろ言いたいことはあるが、ようやく冒険者が口を開いたので、私は黙って様子を見守ることにする。
「いや、君があまりにも綺麗だから言葉に詰まってしまった」
はい、興ざめ。全然おもんない。女性経験ない非モテが考えそうな選択肢が過ぎますね。いいからさっさと話を進めてほしいです。というかなんで女のほうも若干顔を赤らめているんですか、どうなっているんですかこのゲームは。
武器であるマイクを鈍器として使いたくなるくらいにイライラが募っていたが、少女が咳払いをしてペースを取り戻そうとしているのが分かったので少し落ち着くことにした。
「コホン。その言葉、ありがたく受けとらせていただきます。冒険者さん、いや『転生者』さんとお呼びしたほうがよろしいですかね?」
「──!」
その一言に私の眉はぴくっと上下する。いやな予感が背中をなぞるのを感じる。
「私たちの住むこのゴアティエ。あなたはこの世界とは別の世界、異世界から転生してきたのです」
はい、運営は完全にやりましたね。
これは完全な『テコ入れ』ですね。物語を何とか引き延ばすために、異世界からの転生なんて新しい設定を無理やりねじ込んできたようです。
「俺が転生者だと……!?」
「そこは私たちの世界よりも文明が進んでいる世界。ゴアティエ王国の国王は転生魔術を使ってあなたをこの世界へ召喚したのです」
「そんな……。でも俺は異世界の記憶なんて──」
「わかりやすい例があります。例えばアルタイ共同体のカナンさん。彼女の役職を覚えておりますか?」
「わ、私!?」
突然名前を呼ばれてびっくりしてしまう。だが、ストーリーにフェードインされたようで、自由に会話ができるようになっていた。ちょうどいい、冒険者が表に立って話すのでは埒が明かない。私は一歩前に進み、会話に参加する。
「えっと私はアイドルですけど……。もしかしてアイドルが何か関係しています?」
「はい、『アイドル』なんて概念はゴアティエにいつ生まれたんですか?」
「──! ……意味が分かりました。つまりアイドルという概念も他所から持ち込まれたものってことですね?」
そして、ついでに既存の世界観との不整合も転生要素でなぁなぁにしようとするつもりですね。
いいでしょう。運営がそのつもりなら私もその泥船に乗ります。ユーザさんがどういう反応をするかは想像したくもありませんが。
「察しがよくて助かります。そして、転生魔術は王国によって秘匿および独占されております。魔王率いる魔王軍は転生魔術を世に解放するために立ち上がりましたが、皮肉にも冒険者、いや転生者自らの手によってそれが阻止されてしまいました」
「つまり私たちは王国が転生魔術を独占するために遣わされた哀れな道化。まんまと王国の陰謀に乗せられて魔族を殲滅してしまった、というわけですね」
なるほど、ここにきて物語の逆転ということですね。
今まで正義だと信じていたものが実は悪だったと。そうなると、今後の展開というのは一つしかない。
「おっしゃる通りです。だからこそ、私は人間でありながら魔王の意志を引き継ぐことを決意しました。そして、転生魔術を世に解放し、世界を新秩序へ導く組織──『転生教』を創設しました。──お願いです。私たちとともに王国と戦ってはくれませんか?」
──ver5.0 『メイン任務:新しい旅路 任務終了」
新しい仲間が追加されました。
※キャラクター画面※
名前:ミクサ
キャラ概要:王国が秘匿する転生魔術を解放するための組織『転生教』のリーダー。
属性:秩序
スキル:「新世界秩序」
スキル効果:新世界秩序状態時、HPが50%減少する。クリティカル率、クリティカルダメージが大幅に増加し、通常攻撃に秩序属性が付与される。新世界秩序状態が解除されるとHPを回復する(回復値:攻撃回数×HP上限の1.7%)
必殺技:「???」
必殺技効果:???
はいはい、なるほど。新バージョンに伴って最高レアリティのキャラクターが実装されるみたいですね。なんかモデリングもやたら綺麗になっているし。
しかも、例によって説明文が分かりづらいですが、自己完結型のアタッカーっぽいですね。まぁ、自己完結型とはいえバフが付与できる私の存在は必要不可欠ですし、とりあえず私の環境サポーター人生がすぐにお役御免ってことにならなさそうですね。
……でも、ちょっと待ってください。キャラクターの属性を見てください。「秩序」属性? なんですかそれ、聞いたことないですよ。属性って火・水・風・地じゃないんですか?
まさか、新属性追加ですか? ちょっと危ないですよこれ。そのうち秩序属性の強サポーターが実装される予感しかしないんですけど。
と、私の嫌な予感が的中するかのごとく、パーティメンバのファティマの心臓に聖槍が突き刺さる。
「は……?」
一瞬の出来事に何が何だかわからない。だが、脳内を流れる電気信号が警鐘を伝える前にファティマの体が粒子状になって消えていく。
「あ……。やばいです。これは本当にやばいです」
──これは、パーティ追放だ。
パーティ追放とは文字通り死活問題だ。戦闘でパーティ全滅なんていうのは実際のところ問題じゃない。戦闘でやられてもワープポイントにリポップするだけだ。だが、パーティ追放は違う。固定パーティから外れることは死を意味する。保存されていた武器防具天賦の構成情報はすべてリセットされる。それはすなわち記憶の消去、つまり、データで構成されている私たちには死を意味する。
今までのパーティ編成での経験を消去され、キャラクターデータとしてリセット、再編成される。再編成されたキャラクターには元あった記憶はない。
ミクサの登場によって、アタッカーの役割がかぶっていたファティマがパーティから追放されたのであろう。先ほどまで魔王と戦っていた環境最強アタッカーであるファティマはあっけなくいなくなった。
「あ、ああ。いやだ。パーティ追放されたくないです! 私はまだ環境サポーターでいたいです!」
──私はこの時はまだわからなかった。これから激動のver5が始まることに。
※
『キャラクターが編成されました』
メインアタッカー:ミクサ
属性:秩序
「転生教が新世界秩序を導きます」
サブアタッカー:コルネリア
属性:水
「聖なる水を守るために」
サポーター:カナン
属性:風
「3時のおやつよりあなたのLOVE♡」
キナン『ブックマーク、感想、レビュー、お気に入りぜひぜひお願いします!』