第二章 躯素の誓い⑥
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第六節 反旗の火蓋
夜が明ける。
ノルディアの空に、煙と緊張が混じり合う。
貴族街では、豪奢な屋敷に招かれた上流・中流貴族たちが、トワのもたらす「代理人からの新命令」に警戒と期待を膨らませていた。
一方、ゼクトはリーネと共に火薬の仕込みを完了。屋敷の地下に設けられた兵器倉庫に、時限起爆の細工を終えていた。
アトラは、祠で手に入れた“ちからのグリフピース”を掌に握りしめながら、会場のすぐ近くで最終の配置を確認していた。
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やがて、宴が始まる。
トワの振る舞いは貴族たちの虚栄心を巧みにくすぐり、疑念を飲み込ませていく。
そして。
──ドン。
轟音と共に火柱が上がる。会場の外からの爆発音に、貴族たちが次々と席を立つ。
「……何だ今の!」
「兵器庫だ、襲撃か!?」
騒然とする宴会場に、ゼクトの声が響く。
「中立派、挙兵せよ! 敵は貴族派のみだ!」
貴族兵たちは剣を抜くが、すでに中立派の兵士たち340名は場内外を包囲していた。ゼクトと反貴族派13名が前線に立ち、交戦が始まる。
その混乱の中──アトラが現れる。
「来たか……アトラ!」
「遅れてごめん。……行こう」
彼は“ちからのグリフピース”を指先に浮かべ、地面に拳を叩きつけるようにして起動する。
──ゴウン!
次の瞬間、敵兵の前方にあった石畳が大きく隆起し、即席のバリケードを形成。続けて、アトラが叫ぶ。
「通さない!」
その拳が振り下ろされるたび、重力が暴れるような衝撃波が走る。
大地に圧が加わり、敵の足元を崩し、武器を弾き、空気すら振動させる。
ゼクト「お前の……それが、グリフの“ちから”か!?」
アトラ「まだ使いこなせてるわけじゃない。けど……十分戦えるよ」
アトラの一撃は、熟練の騎士にも匹敵する威圧力を持ち、味方の士気を高めていった。
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貴族派の軍勢は数で圧倒され、屋敷を捨てて郊外の森へと撤退していく。
だが──そこに広がっていたのは、全焼した屋敷と焦げた穀倉だった。
絶望した貴族たちは、もはや市内にも戻れず、森林地帯へと姿を消す。
アトラはそれを追わず、剣を収めた。
「追撃はしない」
トワ「どうして?」
アトラ「倒すべき相手は、もう“倒れてる”。」
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そして、森の中。
逃げ込んだ貴族たちは、闇の中に立つ黒衣の男の姿を見た。
男は無表情のまま、ただ彼らを見下ろす。
「……グリフの解析もせず、力の本質も見ず。そんな“出来損ない”がこの世界を穢すのは、滑稽ですね」
指が鳴らされる。
数秒後──悲鳴が森の奥に消えていった。
男の姿はすでにない。
──それが、“NOMA”という存在の痕跡であることに、アトラたちはまだ気づかない。