廃都への帰還14
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第14節:残された者たち
「じゃあ……あの子たちは……」
アトラは視線を落とす。焚き火の周りで、少年たちが寄り添って眠っていた。
リウネが毛布をかけ、トワが静かに火を調整している。
あまりに幼い寝顔。しかし、その小さな背中には、あまりにも多くの現実が乗っていた。
ウォーリスは静かに頷く。
「そうじゃ。あの子らは……研究者たちの子供たちじゃ」
「――!」
「親は皆、殺された。遺体すら残っておらなんだ。
そして、わしら老人だけが、たまたま知識のない者として生かされた……いや、生かされた、というより“残された”だけじゃ。
フリードも、辛かろうに、皆を守るために強くあろうとしておる。あの年で、もうわしらより逞しい顔をしておるよ」
老人の声は静かだが、瞳は涙で滲む。
火の光が反射し、まるで水面のように揺れている。
アトラは拳を握りしめた。胸の奥で、何かがきしむ音がした。
――なぜ、同じことが何度も繰り返されるのだろう。
破壊と再生。支配と隠蔽。
どこまでいっても、犠牲になるのは“知らぬ子供たち”ばかり。
「……ウォーリスさん」
アトラはかすかに声を震わせた。
「その“研究”……何を目的にしていたんですか? コードを……どうしようとしていたんですか?」
ウォーリスは首を横に振る。
「わしには分からん。だが、ひとつだけ確かに聞いたことがある。
コードは、世界の構造を変えられる。この世の理、人の支配、全てを変えられる。と言っておった。
それが真実かは知らん。だが、その力を恐れ、欲した者たちがいた。
そして……世界が壊れた」
“世界を、再構成する――”
その言葉が、アトラの脳裏で鈍く響く。
胸の奥に、刺のような痛みが走った。過去の欠片。思い出せない時間。
沈黙の中、トワがいつの間にか隣に座っていた。
アトラの指先の震えに気づき、そっと手を重ねる。
「アトラ……大丈夫?」
「……ああ」
微笑もうとした唇がわずかに震える。
「ありがとう……でも、悔しいな」
「悔しい?」
「守れなかった過去が、こんな形で残ってるのがさ……」
アトラは焚き火を見つめ、火の奥に見えない誰かの顔を探した。
遠くから、ゼクトの歩く足音が砂を踏む音として近づく。
「……何を話してた?」
「あの子達の事だよ。」
ゼクトは火のそばに腰を下ろす。
「“きおく”」
アトラはすぐにウォーリスとの話をゼクトに共有した。
ゼクトは腕を組み、炎の向こうの老人を黙って見つめた。
「………」
ゼクトの口から哀しみ、苦しみ、痛み全てが入り混じった息が漏れた。
「過去ってのは、重いもんだな。誰も望んでないのに、こうしてまた人の上に降ってくる」
「それでも、掘り返すの?」とトワが問いかける。
ゼクトは一瞬目を細め、そして笑った。
「掘り返さなきゃ、足元が見えねぇ。埋まってるのは骨だけじゃねぇ。埋まってんのは……希望もだ」
アトラはその言葉に小さく頷く。
――そうだ。この地に、まだ“何か”が残っている。
グリフ、記憶、構連の残骸。全てが今、自分たちをこの場所に導いた。
ウォーリスが最後に小さく呟いた。
「……記録は、ここに眠っとる。けれど、開けるな。あれは、見る者を変えてしまう」
風が吹き、焚き火の炎が一瞬大きく揺れ、老人の影を伸ばす。
その影の奥に、かすかに輝く何かが見えた気がした。金属の欠片――いや…
アトラは立ち上がり、夜空を見上げた。星々は静かに瞬き、遠くの滝の音が微かに響く。
その音はまるで、過去と現在を結ぶ“記録のざわめき”のように聞こえた。
(――フォグニール。
君たちは、何を残そうとした?
僕は、それを受け継げるだろうか)
風が頬を撫でる。アトラは目を閉じ、炎の熱を胸に感じながら深く息を吸った。
夜はまだ終わらない。だが、彼らの心には確かに、ひとつの灯が生まれていた。
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