廃都への帰還13
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第13節:過去の記録
風が止んでいた。
夜は深く、焚き火の光がゆらゆらと砂の上を這っていた。
炎の揺らぎが、崩れた瓦礫の影を伸ばしては、消していく。
世界の傷跡が、炎の呼吸に合わせてわずかに動いているようにも見えた。
アトラは、火の向こうに座る老人を見つめていた。
その目は閉じられ、何かを思い出しているようにも、眠っているようにも見える。
だが、手元の指先は微かに震えていた。
握りしめられた拳の中に、今も消えぬ記憶があるのだろう。
「……あの、少しお話しいいですか?」
アトラが声をかけると、焚き火がぱち、と音を立てた。
老人はゆっくりと顔を上げ、目を細めた。
しわの間に影が差し込み、その眼差しは、まるで遠い過去を透かして見ているようだった。
「……なんじゃ?」
「この街のことを。フォグニールのことです」
アトラは姿勢を正した。
「この場所が“廃都”だというのは分かりました。けど……ここにあった研究施設は何だったのか
どうして、あなた達があんなに複雑な避難経路を知っていたのか。教えてほしいんです」
沈黙が続く。
焚き火の音だけが、ふたりの間を埋めていた。
「まずはお前らを信じず名乗っておらんかった事すまなんだ。ワシはクラスカル・ウォーリス。ウォーリスとでも呼んでくれ。そして、ワシらを救ってくれたこと、本当にありがとう。」
アトラは突然のお礼に呆気に取られたがウォーリスは話を続けた。
「さて、本題じゃが……あんたらは、外から来たんじゃな」
老人の声はかすれていた。
「なら、知らぬのも無理はない。
ここはのう……昔、“構連”の本拠のひとつだったのじゃ」
アトラの胸がどくりと鳴った。
構連――それは警戒対象の1つだった。
世界のコード(紋章)を操り、文明を統制してきた組織。
それが、ここにあったというのか。
「ここでは、“コード”に関する研究が行われておった。
記録によれば、世界十八の“グリフ”を解析し、構造式を再現しようとしていた。
……だが、すべては終わった。あの日、あの男が現れてな」
「――あの男?」
「セイグラフと名乗る男じゃ」
老人は焚き火を見つめたまま、重く吐き出した。
「奴は言うた。『知識の均衡が崩れた世界には、生存の権利はない』と。
そして……一夜で全てを焼いた。
施設も、研究員も、家族も。
“知る者”だけを狙ってな。
“無知”を残し、“知”を殺す――それが奴のやり方じゃった」
アトラの喉が詰まった。
炎の光が、老人の頬を照らす。
その皺の深さは、まるで刻まれた歴史そのもののように見えた。
「……知る者を、殺すために」
アトラの声が掠れる。
「そんな理由で……?」
「そうじゃ」
ウォーリスの声が震えた。
「“構連”の記録も、研究成果もすべて灰になった。
今ある構連は、名ばかりの残骸よ。
今の構連は、あの頃の技術や知識には、とうてい追いついておらん」
アトラの脳裏に、瓦礫の中で見つけた金属プレートの刻印が蘇る。
“F-03 研究特区”。
そして、あの皿に打たれた文字――“R-07-LAB”。
どれもが、ひとつの線で繋がっていく。
「じゃあ、あの子たちは……」
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