表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトラ=リコンフィグ  作者: ホウノ タイガ
69/72

廃都への帰還12

今日も覗いてくださってありがとうございます。

暇つぶしにでも、気軽に読んでいってくださいね。

第12節:疑念の灯



夜の帳がクレーターに深く降り、湿った空気が肌にまとわりつく。焦げた土と焚き火の匂い、濾過されたばかりの水の匂いが混ざり合い、どこか懐かしい温もりを感じさせながらも、どこか不穏な気配が森の奥に漂っていた。


アトラは焚き火の端に腰を下ろし、視線を遠くに向けた。火の明かりに照らされたフリードの横顔。あの少年の泣き声や震えがまだ耳に残る。


――大丈夫だ。お前は強い。よくやった……ありがとうな


ゼクトの言葉が、心の奥で静かに反響する。しかし、安堵だけではない。胸の奥に、微かにざわつく違和感があった。


濡れた布を絞りながら、エリシアは金属製の皿を丁寧に拭く。その横で、トワは裂けた衣を縫い直していた。外にはゼクトの影がちらつき、森の中を見張っている。静かに動く仲間たちの息づかいだけが、夜のクレーターに響いた。


リウネが体を起こし、小さく声をかける。

「アトラ」

「ん?」

「負傷者はいない。新たに出血した人もなし。あの老人も、脈は落ち着いてたよ」

「そうか……よかった」


しかしリウネは眉をひそめ、少し間を置くと小さな声で続けた。

「でも……一部、見つけちゃった」


アトラは胸の奥で嫌な予感を覚える。


「……遺体が三人。多分、昨日の崩落で助けられなかった人たち」


遠くで、瓦礫が微かに軋む音がかすかに響く。アトラは目を伏せ、焦げた匂いを含んだ風を吸い込む。遠くで何かが微かに鳴る。胸に小さな痛みが走る。


「生き残ったのは、今ここにいる人たちが全てだよ」


リウネは静かに付け加える。

「……それと、西の方に滝があったよ。少し上流に川があって、濁りも少ない。恒常的に水を確保するなら、あそこがいいと思う」


「西……」アトラは呟き、顔を上げた。おそらくトワが見つけた水源と同じか、その上流を指しているのだろうと察した。

「ありがとう、リウネ。助かる」

「もちろん」

リウネは微笑むが、その瞳の奥には深い疲労の色が滲んでいた。


その時、トワが近づいてきた。手には、森で使った金属皿を持っている。

「アトラ、ちょっといい?」

「うん、どうした?」


皿の煤を指で払いながら、トワは少し眉を寄せる。

「ねえ、この皿……変じゃない?」


アトラが皿を受け取り、裏側を指でなぞると、錆びかけた刻印が目に入った。


“R-07-LAB”


「……LAB……研究所の事だな……」


トワの視線は鋭く澄んでいる。

「どうしてフォグニールにラボの器具があるの……?」

「それに、あのシェルターの構造も妙よ。普通の避難施設じゃない」


アトラは思い出す。老人を助けたときに通った通路の違和感。一目見ただけでは入り口すら見つけられない。中の構造を知る者だけが、迷わず行き来できる作り。


「………どういう事だ……」


胸の奥で、小さな不安が芽生える。


「この皿はどこにあった……」アトラは小声で呟き、視線をリウネやトワに向けた。

「この皿は誰が用意したんだ……?」


リウネが淡々と答える。

「老人や子供たちが、“お皿ならあるよ!”ってシェルターの奥から手分けして持ってきてくれたよ」


アトラは思わず息を呑む。驚きとともに眉をひそめる。

「え……?1人だけじゃなく、みんなが知ってたのか?」

「うん」


トワはそっと火のそばに腰を下ろし、皿を手に取る。

「この街の人たち、何者なの……」


言葉には怒りでも恐怖でもない、深い疑念が含まれていた。焚き火の光は揺れ、影が長く伸びる。暗闇の奥に、何かが潜んでいるような錯覚を覚える。


アトラは皿を火の横に置き、眉をひそめる。胸の奥で、何かが締め付けられるように重くなる。過去の行動の些細な違和感――扉の光、住民たちの知識、研究所の皿――が静かに心に積み重なっていく。


夜は深まり、冷たい風がクレーターを吹き抜ける。しかし、焚き火の小さな光が、彼らの胸に微かな温もりを与え続ける。火の揺らめきと影の奥に、まだ隠された秘密――住人の知識や行動に潜む違和感――を、彼らは無意識に感じ取っていた。


静かな夜に、疑念の火が、焚き火の光と同じくらい、ゆらゆらと、彼らの胸の奥で揺れていた。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ