廃都への帰還11
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第11節:希望の火
クレーターの底に夜が降りた。
焦げた土の匂いと、森で採った獣の香ばしい匂い、さらに濾過されたばかりの水の匂いが混じり合う。
湿った空気に漂うそれらは、どこか懐かしく、温かさを思い起こさせた。
小さな焚き火の炎が揺れるたび、影が森の奥へと伸び、ひとつの世界を丸ごと包み込むようだった。
焚き火の前では、リウネが器用に串を回している。
森で仕留めた獣の肉がじゅうじゅうと音を立て、炎の赤に照らされて輝いていた。
香ばしい匂いが立ち上ると、フリードの腹が正直に鳴った。
「ほら、焦がすなよ」
ゼクトが軽く笑いながら、指で火を弾いた。
リウネは舌を出して答える。
「焦がした方が香ばしいもん。焦げた匂いって、なんか、力が出る感じがするでしょ」
「いや、しねぇよ。」
フリードはそのやり取りを見ながら俯いたまま、拳を握りしめた。
「……俺、本当に何もできないな……」
火を囲む少し離れた場所では、トワが丁寧に水筒を並べていた。
「さすがエリシアね。濾過も煮沸もうまくいってるわ。これなら安全」
アトラは息をつき、手を火の明かりにかざす。
「……水も食料も、これで一応は安心か」
その声に、森の夜風がそっと答えるように木の葉を揺らした。
すると、フリードは震える声で柔らかい空気を切った。
「なんで……お前たちは、なんでもできるんだよ」
掠れた声は、焚き火の音に混ざり、周囲の闇に吸い込まれそうだった。
「水も、食料も、命を助けることも……俺は、何もできない。足を引っ張ってばかりで……なんで……お前たちはできるんだよ……!!!」
頬を伝う涙が炎の光を反射し、揺らめく火の色に染まる。
フリードは目を伏せ、嗚咽しながら小さく震えた。
全員、優しい微笑みを向けている。
すると、ゼクトはゆっくりと立ち上がり、フリードの頭に手を置いた。
その手は温かく、穏やかに重みを伝える。
「大丈夫だ。お前は強い。よくやった……ありがとう」
フリードは耐えきれず声をあげ、肩が震える。
胸の奥で押し込めていた感情が一気に溢れ出し、嗚咽が夜空に吸い込まれた。
「俺……もっと、みんなみたいに力になりたいんだ……!」
遠くでその叫びを聞いた老婆や子どもたちも、静かに涙を零した。
彼らもまた、自分の無力さを痛感しつつ、フリードの決意を感じ取ったのだ。
ゼクトは静かに微笑み、フリードの頭を軽くぽんと叩いた。
「じゃあ――まずは飯を食おうか」
「……」
「生きてる。それだけで十分だ。まずはそこからだろ」
フリードは涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のまま笑った。
リウネが肉の串を差し出し、トワが静かに水筒を手渡す。
「さあ、食べなさい」
エリシアは微笑み、そっと囁いた。
「立派な泣き顔ですわね。でも、それだけ心が動いたんですもの。無理もありません」
フリードは口に肉を運びながら、もごもごと小さく呟いた。
「……ありがとう、みんな……でも、俺、どうやったらもっと役に立てるんだろう……」
アトラはフリードの肩を軽く叩いた。
「力を振るうことだけが役に立つわけじゃない。考えること、守ろうとする気持ち、仲間を支えようとするその行動全部が力になるんだ」
トワも笑みを浮かべ、焚き火の光を受けて優しく頷く。
「怖かったのよね、フリード。でも、怖さを感じたまま前に進もうとしている。これが、生きる力よ」
フリードは小さく息をつき、拳をぎゅっと握った。
胸の奥で小さな炎が芽吹くのを感じる。
「……俺も、いつかみんなの力になりたい……!」
炎が弾け、音を立てるたびに、凍りついていた心の奥の何かが少しずつ溶けていく。
星空の下、彼らは焚き火を囲みながら“生きる”という言葉の重さを、確かに分かち合っていた。
「フリード、ほら、水も飲みなさい」
トワが手渡した水筒に、フリードは感謝の笑みを浮かべて受け取る。
「……うん。ありがとう」
リウネが串をもう一本差し出し、フリードは頷く。
「俺、今度は自分から……誰かのためにやれること、増やしたい」
ゼクトがからかうように笑う。
「ほう、いい心がけだ。飯の後で何か手伝ってもらうかもな」
フリードは笑顔を返す。
涙でぐしゃぐしゃだった顔が、少しだけ凛々しく見える。
焚き火が夜空を焦がすように高く燃え、瓦礫に囲まれたクレーターを淡く照らす。
その光は、破壊された街を優しく包み込み、希望の色をそっと差し込む。
フリードは炎を見つめながら、心の奥で静かに決意を固めた。
「……俺、絶対にみんなの力になる……!」
夜の静寂の中、焚き火は小さく揺れながらも、確かな温もりを放つ。
誰もがそれを感じ取り、胸の奥に小さな火を灯した。
生きることの重さ、命のつながり、そして、希望の始まり――
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