表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトラ=リコンフィグ  作者: ホウノ タイガ
63/72

廃都への帰還⑥

今日も覗いてくださってありがとうございます。

暇つぶしにでも、気軽に読んでいってくださいね。

第6節:影に還る記憶



 日はとうに沈み、夜の帳がフォグニールの廃都を包み込んでいた。

 燃え残った建物の断片が、時折ぱちぱちと音を立てる。焦げた鉄の匂いがまだ漂っている。だがその夜だけは、不思議と風が穏やかだった。


 崩れたシェルター跡の片隅に、月の光が差し込んでいる。

 助け出した老人は浅い呼吸を繰り返し、トワとリウネが交代で看護をしている。泣き疲れた少女は老婆の膝に寄り添い、かすかな寝息を立てていた。


 ――誰もが、言葉をなくしていた。


 瓦礫の影が揺らめき、月の光が仲間たちの表情を柔らかく染めていく。

 やがて、アトラがゆっくりと口を開いた。


「……僕は、この場所で目を覚ましたんだ」


 夜風の音が、彼の声を飾る。


「気づいたとき、僕は瓦礫の上に座っていた。辺りは崩れた塔と荒れた大地だけ。名前も、家族も、どこにいたのかも思い出せなかった。ただ――空を見上げたとき、胸の奥で何かがざわついた。懐かしいのに、思い出せない感覚。それが、このフォグニールだった」


 トワが顔を上げる。

 その瞳には、驚きと、どこか予感していたような痛みが交じっていた。


「アトラ……あなた、フォグニールの人だったの?」


「わからない。けど、僕の“始まり”はここなんだ。だから、いつかこの街をもう一度立たせたかった。それが僕の旅の理由なんだ」


 ゼクトが黙って拳を握る。

 エリシアは月の光に照らされながら、静かに目を伏せた。


「……この街を‥復興させるの?」


「うん。僕が誰なのか、自分はなんのためにいるのか、全て知りたかった。それに復興が誰かのためになるなら、それが今の答えな気がした。それに、記憶の鍵がここにあるかもしれないしね」


 少し間を置いて、アトラは笑みを浮かべた。

 けれどその笑みは、どこか儚い。


「でもね、旅をして気づいた事もあるんだ。僕は何も知らなかった。世界の形も、人の痛みも、全部。でも――君たちに出会えた。本当に感謝してるんだ。無知な僕を支えてくれて、本当にありがとう」


 そっと夜風が止み、トワがそっと言葉を返した。


「アトラ。あなたの旅は、もうひとりの旅じゃないわ。私たちも一緒に見届ける。あなたが見たい未来を」


「へっ、当たり前だろ。」ゼクトが短く笑う。「お前のやることが、今の俺たちの生きる理由なんだ。恩もあるしな」


「わたくしも同意ですわ。」エリシアが優雅に微笑む。「“導き”の光があなたを選んだのなら、わたくしたちはその道を信じます」


「リウもいるよ。ずっと一緒だもん」

 リウネが無邪気に笑って、月の光が差し込む。


 アトラは、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 言葉にできない想いがこみ上げる。

 ただ、静かに頷く。


「……ありがとう。もう少しみんなの力を貸して欲しい。フォグニールにもう一度笑顔を戻したい。」


 その瞬間、遠くで雷が鳴り、夜空を光が裂いた。

 雨がぽつりと落ち、次第に激しさを増していく。



 トワが空を見あげながら呟いた。

「……フォグニールは、かつて“叡智の都”と呼ばれていたのよね。科学と交易の融合で、どんな国よりも豊かだったって。けれど、栄光の裏で何かを失った……記録にはそう書かれていたわ」


「人は、過去に縋って滅びるのかもしれんな」ゼクトが低く言った。「俺たちは、その続きを歩かされてるんだろうな。」


「でも、だからこそ再生できるのではなくて?」エリシアの声は静かだが、芯があった。「破壊のあとにしか芽吹かないものがある。アトラの願いも、きっとその一つですわ」


 アトラは、雨音の向こうで目を細めた。

 過去を取り戻すことと、未来を作ること――その境界線は、こんなにも遠くて、けれど近い。


「……そうだね。僕たちの手で、もう一度光を灯そう」


 雷鳴が響き、瓦礫の街が一瞬、昼のように照らされる。

 その光の中で、崩れかけた塔の頂に残る紋章が淡く輝いた。

 かつてこの地を支配していた象徴――だが今は、希望の欠片のように見えた。


 トワがその光を見つめながら、小さく息を漏らす。

「ねぇ、アトラ。あなたが目を覚ましたとき、この空も、こんなふうに光っていたの?」


「いや……」

 アトラは首を振り、空を見上げた。

「その時はもっと暗かった。ただ、風の中に誰かの声を感じたんだ。『立て』って。――あれは、きっとこの街そのものの声だったんだと思う」


「街が……?」

 リウネが目を瞬かせる。


「うん。誰もいないのに。気のせいだと思うけどね。

 でも、あの時からずっと、僕はその“声”に導かれている気がしてる」


 沈黙が降りた。

 雨は土を打ち、焦げた街を少しずつ洗い流していく。

 それはまるで、過去の残滓を清める祈りのようだった。



「……アトラ。あなたの声も、きっとこの街に届いているわ」


 アトラは目を伏せ、かすかに笑った。

「そうだといいな」


 アトラは小さく息を吐いた。

 それは夜空に吸い込まれ、やがて雨の粒と混ざって消えた。


 誰も言葉を発さないまま、しばらくその場に座っていた。

 風が吹くたびに、焦げた塔の影が伸び、縮んでいく。

 そこに宿るのは、過去と現在の境を漂う静けさだった。


 アトラは立ち上がり、濡れた地面に足を踏みしめる。

 その背を、仲間たちが静かに見つめた。


「行こう。明日から始めよう。――この街の影を、光に変えるために」


最後まで読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ