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アトラ=リコンフィグ  作者: ホウノ タイガ
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廃都への帰還⑤

今日も覗いてくださってありがとうございます。

暇つぶしにでも、気軽に読んでいってくださいね。

第5節:フォグニールの影


湿った風が、崩れかけた天井の隙間から吹き込んでいた。

冷たい空気が肌を撫でるたびに、どこか遠い記憶の断片が心を掠める。

焦げた匂い。焼け落ちた鉄の味。

――ここは、かつて生きる人々が夢を描いた場所だったのだろうか。


トワはそっと壁に触れた。

焼け焦げた金属の感触が、指先にざらつきを残す。

崩れた観測装置。溶けたガラス片。

壁の隅には、黒ずんだ額縁が落ちかけていた。

その中に、一枚の写真が残っていた。


「……写真?」


埃を払うと、そこには研究員らしき人々の笑顔が並んでいた。

中央には、穏やかな表情の男女――そして、その膝に座る小さな女の子。

トワの呼吸が止まった。


「……え……これ……?」


息が詰まる。

光の加減で見間違えたと思いたかった。

だが、何度目をこすっても、そこに映る少女の笑顔は――

まるで、自分の幼い頃をそのまま写したようだった。


(どうして……? 私が、ここにいるの……?)

指先が震える。写真がかすかに揺れ、埃が舞った。

トワの胸の奥に、冷たいものがじわりと広がっていく。


少し離れた場所で、アトラが瓦礫の中を調べていた。

ひび割れた床、崩れた柱。

彼の指が古い装置の破片を撫でた瞬間、ふと動きが止まった。


「……この形、間違いない……」


低い声。

その声にトワははっと顔を上げた。


「アトラ……?」


アトラは、床に描かれたような模様を見つめていた。

それは円を重ねたような幾何学的な文様――微かに淡い光を宿している。


「この構造、石材の組み方……そして、この独特の紋章……」

アトラは拳を握り、静かに呟いた。

「……フォグニールのものだ。」


空気が凍る。

その名が放たれた瞬間、湿った空間に緊張が走った。


「フォグニール……?」

トワの唇が震える。

「そんな……まさか……ここが……?」


アトラは、ゆっくりと目を閉じ、息を整えた。

「――おそらく、フォグニール廃都だ。」


一瞬、世界が止まった。

雨音が、遠くから地下の空洞に響いてくる。

外の雷鳴が地を揺らし、瓦礫の影がわずかに震えた。


トワは写真を胸に抱きしめるようにして、かすれた声を漏らす。

「……やっぱり、ここだったのね。」


雷が再び空を裂いた。

その光が、崩れた壁の外を照らす。

黒焦げた建物群――、まるで亡霊が並び立っているようだった。


かつて栄光を誇った都市。

その面影が、雨に滲んでゆく。

冷たい雨が鉄骨を叩き、ぽつり、ぽつりと地下へ染み込んだ。


「アトラ……あなた、もしかして……知ってたの?」

トワは顔を上げた。

問いというより、確かめたいという願いがこもっていた。


アトラは首を横に振る。

「……いや。山肌の上から見たとき、崩落した地形に違和感はあった。

まさか、本当にフォグニールだとは思わなかったんだ。」


トワは小さく息を吐いた。

(やっぱり、彼も知らなかったんだ……)

それでも、胸の奥で別の感情が蠢く。

この街が、彼の“何か”と繋がっている気がしてならなかった。


アトラは、崩れた装置をそっと撫でながら続けた。

「この街より前の僕の記憶はない。

でも――なぜか、この場所を見ていると、心がざわつく。

何かを思い出しかけているような……そんな感じがするんだ。」


トワは小さく頷いた。

「……私もここに来てから、ずっと胸の奥が痛いの。

理由なんて分からないのに、泣き出しそうになる。」


アトラが視線を向ける。

彼の瞳はいつになく穏やかで、どこか優しかった。

「……だから、来て良かったのかもしれない。

君と約束もしたしね。」

初めて会ったあの日、全ての会話を鮮明に覚えていた。

自分のことすら分からないアトラに光を灯したのは紛れもなくトワだった。



「約束……?」

トワは一瞬首を傾げ、それから小さく笑った。

「――覚えてたのね」


「もちろん。」

アトラも笑った。


瓦礫の中に差す淡い光が、彼の頬をかすかに照らしていた。



雨音が戻る。

空気が湿り、鉄の匂いが漂う。

トワは一歩後ろを振り返った。

崩れた通路の先には、まだ暗闇が続いている。


けれど――

その闇の奥から、かすかに光の反射が返ってきた。

風が吹き抜け、埃が揺れる。


それはまるで、

街そのものが、静かに息を吹き返しているようだった。


最後まで読んでくださってありがとうございます。

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