表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトラ=リコンフィグ  作者: ホウノ タイガ
56/72

第六章 仲間と本音⑨

今日も覗いてくださってありがとうございます。

暇つぶしにでも、気軽に読んでいってくださいね。

第9節 「全て大切にしたい。」 


あの夜も、みんなが戻ってきた気配には気づいていた。けれど、目を開けることはできなかった。何かを見てしまったら、本当に壊れてしまう気がしたからだ。

 背中越しに、微かな足音と衣擦れの音だけが抜けていく。僕の知らない場所で、僕の知らない時間が流れている――そんな感覚が、胸の奥で小さな棘のようにひっかかっていた。


 翌朝。食堂のテーブルには全員そろっていた。会話もあったし、笑い声もあった。見た目だけなら、普段と何ひとつ変わらない。

 ……それでも、心はぐらぐらと揺れていた。


「あの店主、顔は怖いけど優しいよな」


「この前、おまけまでもらっちゃったわよ」


 そんな他愛ない会話が耳に届く。だけど、内容は頭に入ってこない。パンをちぎる手が、ふと止まった。


 空気を裂くように、自分の声がこぼれていた。


「……あのさ」


 全員の視線が、一瞬で僕に集まった。


「その……ごめん。僕のこと、嫌いになった……よね」


 静かな問いに、食器の音が止まる。時間が、ひやりと冷たく固まったようだった。


「え?」


 トワが、きょとんとした声を漏らす。


「なんで、そんな……」


「避けられてるのかなって、ずっと思ってた。夜、誰もいなくて。朝も、すぐに出て……。僕があの日言ったことで、失望したのかなって」


 言葉にすればするほど、胸が苦しくなる。それでも、もう止められなかった。

 ゼクトがゆっくりと口を開く。


「……そう思わせたなら、悪かった」


 その目に、焦りと戸惑いが同時に浮かんでいた。


「でも違う。全然、そんなつもりじゃなかったんだ」


 トワが立ち上がりかけ、慌てて座り直す。


「アトラのこと、避けてたわけじゃないの。本当に……むしろ、すごく、すごく……」


「……ちょっと待ってて!」


 エリシアが突然立ち上がり、隣の部屋に駆け込んだ。ゼクトとリウネも目を見合わせると、それぞれ何かを取りに立つ。


 あっけに取られていると、数分後、全員が小さな包みを手に戻ってきた。


「本当は、もっとちゃんと渡す予定だったんだけど……まあ、いいか」


 ゼクトが苦笑しながら、包みをひとつ僕の前に差し出した。


「プレゼント。俺たちから」


「え……」


「一個に決められなかったんだよ。誰がどれを選んでも、“それが一番”って思ってるからさ」


 テーブルに並べられたのは、四つの小箱。中には、それぞれデザインの異なる指輪が入っていた。銀色の細いもの、宝石が埋め込まれたもの、模様の入ったもの……どれひとつとして同じじゃない。


「アトラは自分のこと“自己中”って言うけど、私たちは素敵だと思ってる」


 エリシアの声は、真っ直ぐだった。


「あなたがそれを打ち明けるのに、勇気が必要だったと思う。でも、それを知って、もっとあなたの仲間でよかったと思った。あなたからもらった優しさに、少しでも返したい。それが、みんなの気持ち」


「だから、こっそり……こうして用意してたんだ」


 トワの言葉に、胸がいっぱいになった。視界が滲む。

「嬉しいよ……」


 目から、熱いものがこぼれそうになる。


「これ、全部もらってもいいかな……?」


 自然と声がこぼれていた。


「……全部、大事にしたい」


 僕の言葉に、みんなの手がぴたりと止まる。


「みんなが、僕のことを想って選んでくれたんだよね。だから、ひとつだけなんて……選べないよ」


 視線を落としながら、そっと尋ねる。


「……今、つけちゃってもいいかな?」


「もちろん!」


 トワがぱっと顔を輝かせた。

 ゼクトが肩をすくめる。


「お前らしいよ……」


 僕は指輪をひとつずつ、両手の指にはめていく。驚くほど自然に馴染んで、重さなんて感じなかった。ただ、指先にじんわりと温かさが広がる。


「夜……外に行ってたのも、このため?」


 そう尋ねると、ゼクトが首を横に振った。


「それは……ちょっと違う」


「……みんな、アトラの力になりたかった」


 リウネが、小さな声で呟く。


「アトラのために、何かできないかなって。ずっと考えてた。でも、僕には力が足りないから……こっそり特訓することにしたの」


 ゼクトも頷く。


「俺も同じだ。偶然だったけど、なんとなく“今やらなきゃ”って気がしてさ」


「私も」


 トワが、照れたように笑う。


「理由なんてうまく言えないけど……体を動かしてた方が、心が落ち着くっていうか。気づいたら集まってた」


「私も……同じです」


 エリシアが、静かに言葉を重ねる。


「アトラの力になりたい。そのためには、自分がもっと強くならないとって……自然と、足が向いていました」


 少しの沈黙が落ちたあと、ゼクトがふっと笑った。


「……でもな、最初に考えてたのは俺だからな」


「は? 私が一番に着いてたけど」


 トワがすかさず反論する。


「いえ、私はアトラが眠りにつくのを確認してから動いていましたので」


 エリシアが微笑むと、ゼクトが吹き出した。


「なんだよそれ……順番争いか?」


「にゃ。全員が“アトラのために動いた”ってことで、いいにゃ」


 リウネがしっぽをぴんと立ててまとめた。


 両手に光る指輪は、どれも――本当に、あたたかかった。


最後まで読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ