第六章 仲間と本音⑨
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第9節 「全て大切にしたい。」
あの夜も、みんなが戻ってきた気配には気づいていた。けれど、目を開けることはできなかった。何かを見てしまったら、本当に壊れてしまう気がしたからだ。
背中越しに、微かな足音と衣擦れの音だけが抜けていく。僕の知らない場所で、僕の知らない時間が流れている――そんな感覚が、胸の奥で小さな棘のようにひっかかっていた。
翌朝。食堂のテーブルには全員そろっていた。会話もあったし、笑い声もあった。見た目だけなら、普段と何ひとつ変わらない。
……それでも、心はぐらぐらと揺れていた。
「あの店主、顔は怖いけど優しいよな」
「この前、おまけまでもらっちゃったわよ」
そんな他愛ない会話が耳に届く。だけど、内容は頭に入ってこない。パンをちぎる手が、ふと止まった。
空気を裂くように、自分の声がこぼれていた。
「……あのさ」
全員の視線が、一瞬で僕に集まった。
「その……ごめん。僕のこと、嫌いになった……よね」
静かな問いに、食器の音が止まる。時間が、ひやりと冷たく固まったようだった。
「え?」
トワが、きょとんとした声を漏らす。
「なんで、そんな……」
「避けられてるのかなって、ずっと思ってた。夜、誰もいなくて。朝も、すぐに出て……。僕があの日言ったことで、失望したのかなって」
言葉にすればするほど、胸が苦しくなる。それでも、もう止められなかった。
ゼクトがゆっくりと口を開く。
「……そう思わせたなら、悪かった」
その目に、焦りと戸惑いが同時に浮かんでいた。
「でも違う。全然、そんなつもりじゃなかったんだ」
トワが立ち上がりかけ、慌てて座り直す。
「アトラのこと、避けてたわけじゃないの。本当に……むしろ、すごく、すごく……」
「……ちょっと待ってて!」
エリシアが突然立ち上がり、隣の部屋に駆け込んだ。ゼクトとリウネも目を見合わせると、それぞれ何かを取りに立つ。
あっけに取られていると、数分後、全員が小さな包みを手に戻ってきた。
「本当は、もっとちゃんと渡す予定だったんだけど……まあ、いいか」
ゼクトが苦笑しながら、包みをひとつ僕の前に差し出した。
「プレゼント。俺たちから」
「え……」
「一個に決められなかったんだよ。誰がどれを選んでも、“それが一番”って思ってるからさ」
テーブルに並べられたのは、四つの小箱。中には、それぞれデザインの異なる指輪が入っていた。銀色の細いもの、宝石が埋め込まれたもの、模様の入ったもの……どれひとつとして同じじゃない。
「アトラは自分のこと“自己中”って言うけど、私たちは素敵だと思ってる」
エリシアの声は、真っ直ぐだった。
「あなたがそれを打ち明けるのに、勇気が必要だったと思う。でも、それを知って、もっとあなたの仲間でよかったと思った。あなたからもらった優しさに、少しでも返したい。それが、みんなの気持ち」
「だから、こっそり……こうして用意してたんだ」
トワの言葉に、胸がいっぱいになった。視界が滲む。
「嬉しいよ……」
目から、熱いものがこぼれそうになる。
「これ、全部もらってもいいかな……?」
自然と声がこぼれていた。
「……全部、大事にしたい」
僕の言葉に、みんなの手がぴたりと止まる。
「みんなが、僕のことを想って選んでくれたんだよね。だから、ひとつだけなんて……選べないよ」
視線を落としながら、そっと尋ねる。
「……今、つけちゃってもいいかな?」
「もちろん!」
トワがぱっと顔を輝かせた。
ゼクトが肩をすくめる。
「お前らしいよ……」
僕は指輪をひとつずつ、両手の指にはめていく。驚くほど自然に馴染んで、重さなんて感じなかった。ただ、指先にじんわりと温かさが広がる。
「夜……外に行ってたのも、このため?」
そう尋ねると、ゼクトが首を横に振った。
「それは……ちょっと違う」
「……みんな、アトラの力になりたかった」
リウネが、小さな声で呟く。
「アトラのために、何かできないかなって。ずっと考えてた。でも、僕には力が足りないから……こっそり特訓することにしたの」
ゼクトも頷く。
「俺も同じだ。偶然だったけど、なんとなく“今やらなきゃ”って気がしてさ」
「私も」
トワが、照れたように笑う。
「理由なんてうまく言えないけど……体を動かしてた方が、心が落ち着くっていうか。気づいたら集まってた」
「私も……同じです」
エリシアが、静かに言葉を重ねる。
「アトラの力になりたい。そのためには、自分がもっと強くならないとって……自然と、足が向いていました」
少しの沈黙が落ちたあと、ゼクトがふっと笑った。
「……でもな、最初に考えてたのは俺だからな」
「は? 私が一番に着いてたけど」
トワがすかさず反論する。
「いえ、私はアトラが眠りにつくのを確認してから動いていましたので」
エリシアが微笑むと、ゼクトが吹き出した。
「なんだよそれ……順番争いか?」
「にゃ。全員が“アトラのために動いた”ってことで、いいにゃ」
リウネがしっぽをぴんと立ててまとめた。
両手に光る指輪は、どれも――本当に、あたたかかった。
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