第六章 仲間と本音⑥
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第6節 「絆の形」
翌日の朝食の席に、アトラが残していった空皿は、いつのまにか片付けられていた。
その代わりに、テーブルの中央には一枚の白紙と数本のペンが置かれている。
皿があったときよりも、ずっと静かな空気が漂っていた。
椅子に座る4人は、誰も口を開かない。
スープの香りだけが、薄く残っている。
「……何を、あげたらいいんだろうね」
沈黙を破ったのはトワだった。
伏せた顔は真剣で、テーブルの端を指先でなぞっている。
「アトラが喜ぶもの……って言っても、想像つかない」
エリシアも同じように、ゆっくり頷いた。
手元のスプーンを回しながら、視線は遠くへ向いている。
まるで“アトラ”という人物の輪郭を、思い出の中から探しているようだった。
「剣や魔道具じゃないよね。あの人、そういうのは自分で揃えるだろうし」
「薬草とかも、きっと喜びそうだけど……形には残らないよな」
ゼクトが腕を組み、椅子の背にもたれかかる。
「実用性じゃなくて、心か」
「でも、ただのお守りじゃ軽すぎるんだよな。ちゃんと意味があって、残るもんじゃねぇと」
「にゃ……だったら」
リウネがしっぽをぴんと立てて口を開く。
その瞳はきらりと光っていた。
「アトラが欲しいもの、じゃなくて、“アトラにあげたいもの”はどう?」
トワが小さく目を瞬く。
「……あげたいもの?」
「そう。あの人、欲しいものなんて聞いても“特にない”って言いそうにゃ。だから、こっちが渡したいものを渡すほうがいい」
エリシアの口元に、わずかな笑みが戻る。
「なるほどね……。そういう“押しつけ”なら、きっとアトラも嫌がらない」
「むしろ、渡す側の想いがはっきりするってことだ」
ゼクトが顎に手を当てて頷く。
「じゃあ候補を出してみようぜ。何でもいい」
「……マフラーとか? 季節外れだけど」
「アクセサリー……ペンダント?」
「小物入れ、とか?」
「花束……いや、それはさすがに、ちょっと……」
ぽつりぽつりと出てくる案に、それぞれの表情が曇る。
悪くはないが、“決め手”が足りない。
そんな中で――ふと、トワの手が止まった。
そして、はっとしたように顔を上げる。
「……指輪」
その一言に、全員の視線が集まった。
「え?」
ゼクトが首を傾げる。
「ほら、意味があるでしょ。指輪って。“約束”とか、“絆”とか……そういうの。渡す理由としても自然だし、主張が強すぎない」
エリシアが小さく息を漏らす。
「確かに……身につけられて、形にも残る。贈る意味を込めやすいわ」
「悪くないな」
ゼクトの口調は短いが、すでに納得の色を帯びていた。
「それに、刻印もできるだろ。“信じてる”とか、“ここにいる”とか……短くても、伝わる言葉を」
トワが少し笑う。
「アトラ、受け取るとき絶対困った顔するよ。でも、あとでちゃんと大事にしてくれる」
「にゃ。アトラ、そういうところだけは……素直だから」
リウネの声は小さいが、確信に満ちていた。
ゼクトが無言でペンを取り上げ、白紙の中央に大きく書き込む。
──「指輪」。
黒い文字が、静かな空気を切り裂くように鮮やかだった。
紙を囲む4人の顔に、同じ色の決意が宿る。
それはただの贈り物ではない。
彼ら自身が、アトラからもらった「優しさ」への、静かな応答だった。
それを、形にして返す。
——あの優しさを、優しさだと伝えるために。
——あの不安を、もう二度と抱かせないために。
4人は言葉を交わさぬまま、ゆっくりと頷き合った。
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