第六章 仲間と本音④
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第4節「本音の残響」
晩ごはんの席は、普段と変わらない賑やかさだった。
トワがスープの味を、ちょっと大げさなくらい褒めていて、リウネが呆れ顔でしっぽを振っている。ゼクトはパンをちぎりながら、エリシアに「この前の市場で見つけた薬草の話」をしていた。
そんな様子を眺めながら、僕はスープに口をつける。温かいはずなのに、胸の奥にはほんの少しだけ、冷たい風が吹いている気がした。
「ねえ、アトラって、さ」
ふいに、トワが僕の方を見る。
その目は、どこか真っすぐで、冗談を混ぜる余地がなかった。
「なんでそんなに優しいの?」
本音を覗いたあとだからこそ、生まれた純粋な疑問だったのだろう。
「……優しい?」
「うん。前にエリシアを助けてくれたときもそうだったし、さっきだって落とし物を拾って渡してたじゃない。あれ、ちゃんと見てたよ」
ゼクトとリウネも、手を止めて視線だけ僕に向けてくる。エリシアは何も言わず、そっとスプーンを置いた。
僕は一瞬、答えに迷った。
優しさ――その言葉は、どうにも自分に馴染まない。
「優しくなんて、ないよ」
そう口にしながら視線を皿に落とす。少し間を置いて、それでも続けた。
「僕は……自己中なんだ」
トワの眉がわずかに寄る。
「人を助けるのも、助けないのも、本当はどっちでもいい。関わらなくてもいいなら、それに越したことはない。面倒だから」
言いながら、自分でも苦い気持ちになる。
でも、それが僕の本音だった。
「ただ……すごく困ってる人を見捨てるのって、気持ち悪いんだよ。後味がずっと残って、不快になる。……“自分が”不快になるのが嫌だから」
だから――
「だから結局、“気持ちいい方”を選んでるだけなんだ。助けた方が自分の気が済むから。……それだけ」
言葉が落ちたあと、短い沈黙が訪れた。
否定も肯定もなく、ただ静かな視線だけが僕に向けられている。
――しまった。
本音をそのまま言葉にすると、いつもこうなる。
後悔というより、胸の奥がざらつく感覚だけが残る。
スープの味が、もう分からなかった。
「……ちょっと、先に休むよ」
席を立つ僕を、誰も止めなかった。
けれど、背を向けた瞬間、何か“間違えている”ような感覚が広がっていった。
⸻
その夜、夢を見た。
夜の街角。雨が降っている。
石畳を歩く僕の前に、男が一人、影のように現れた。
「てめぇ、いつまで良い子ちゃんしてんだよ。ムカつくんだよ」
見覚えのない顔。けれど、なぜか知っている気がする。
僕は返す言葉を失い、ただ立ち尽くした。
「お前みたいなやつがいると、全部壊れるんだよ……!!」
その声の直後、胸に鋭い衝撃が走った。
刺された、というより――貫かれた。
視界が揺らぎ、膝が崩れる。
冷たい石畳に倒れ込む僕の頬に、雨が叩きつけられる。
喉が震えても声は出ない。
遠くで、誰かの笑い声が聞こえた。
それに重なるように、誰かの泣き声が響く。
⸻
ばっ、と目が覚めた。
全身が強張っていた。汗が冷えて、背中に張り付いている。
夢だ――そう思っても、胸の奥に残る冷たさは消えなかった。
夢の輪郭はすぐにぼやけていくのに、その感触だけが鮮明に残っている。
もう眠る気にはなれなかった。
ただ、静まり返った部屋の中で、夜が明けるのを待つしかなかった。
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