表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトラ=リコンフィグ  作者: ホウノ タイガ
50/73

第六章 仲間と本音③

今日も覗いてくださってありがとうございます。

暇つぶしにでも、気軽に読んでいってくださいね。

第3節「覗かれた本音」


 フィリナの森に戻って三日目。昼下がりの空気は少し重たく、けれど街道沿いには穏やかな静けさが流れていた。

 この街には、どうやら猫が多いらしい。気づけば、石畳の道端や、商店の軒先、窓辺や塀の上で、その姿を見かける。

 日差しに照らされた毛並みがきらきらと光り、しなやかな影が伸びては、また風の中に溶けていく。


「アトラ、見て! 猫!」


 リウネの弾む声に、僕の足がぴたりと止まった。


 木造の屋根の上、白と黒のまだら模様を持つ猫が、気だるそうにあくびをしていた。

 その仕草一つ一つが、妙にゆったりとしていて、世界の速度が少し遅くなったように見える。


 ふわふわで愛らしい姿が、否応なく目を奪う。


 (いい……すごく、かわいい……)


 しなやかな尻尾がふわりと揺れ、前足をぺろぺろと舐めている。

 舌先が小さく動くたび、陽の光を受けて毛がふわっと浮かび上がる。


 (君も、かわいい顔してるな……耳の後ろ、きっとふわふわだ……いや、あの前足の肉球も……絶対やわらかい)


 本当は視線を逸らして通り過ぎるつもりだった。けれど、気づけば足が止まっていた。

 ほんの一歩踏み出そうとした足が、なぜか前に進まない。

 その可愛さに、心も体も少しだけ縛られてしまったようだった。



 一歩後ろで、ゼクトが仲間たちに目配せをした。

 それだけで、三人と一匹が何かを察する。


 静かに、誰ともなく“コード”を展開する音が、空気の中にふわりと漂った。


 ──おもいのグリフ。


 ゼクトの視界に流れ込んできたのは、僕の“本音”だった。


(……かわいい。かわいすぎる……なにあれ、猫界の奇跡? ちょっと尻尾揺れるのやめて……心臓に悪い……)

(うわ、今あくびした……口の中ピンク……かわ……かっ……ふー、呼吸整えて……あの手、触ったら絶対離せなくなる……)


 ゼクトはコードを切らぬまま、そっと隣を見る。


 トワが、ほんの少し声を漏らしていた。


「……か、かわ……い……」


 両手を胸の前で握りしめ、目をうるうるさせている。

 それは猫に向けた反応というより、明らかにアトラに対するデレだった。

 ゼクトはこっそり笑いをこらえる。


 その横で、エリシアが口元を押さえ、リウネはしっぽをぶんぶんと振ってぷるぷる震えている。


「……この反応、初めて見た」


 ゼクトが小声でつぶやくと、エリシアが頷いた。


「まさか……あんなに無表情で……こんなにも、心の中で……」


 僕の背中が、ふいにわずかに揺れた。


「……撫でたい……っ」


 誰にも聞こえないくらいの小さな声で吐き出したつもりだった。

 だが、それを聞いた仲間たちは一斉に肩を震わせる。


 ゼクトは、思わず口元を押さえた。


(こいつ、マジでやべぇ……)


 かわいいとか、無表情とか、そういう言葉を飛び越えて。

 僕の心は、あまりにも純粋で、もう“ずるい”の域に達していた。


「……切れ。これ以上は……ダメだ……尊死する」


 ゼクトがコードを解除すると、全員が一斉に肩の力を抜いた。


「まさか、こんなに……心の声って可愛いものなのね」


 エリシアがぽつりと呟き、トワはまだ胸に手を当てたまま、頬を赤くしている。


「アトラ、あんなに……感情あったんだ……」


「うん。知れば知るほど……すごい」


 リウネの小さな声に、誰もが頷いた。



 一方の僕は、そんなこととは知らず、猫のいる屋根を一瞥したあと、ようやくその場を離れた。


 (……ふう、耐えた)


 けれど、歩きながら、自分の頬が少しだけ熱い気がした。

 誰にも気づかれてないよな……と、心の中でつぶやきながら、僕はいつものように黙って歩き続けた。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ